精密演算のテリーヌか、絶滅危惧種のグリルか。管理者の胃袋を巡る聖域の正妻戦争
座標NULL(レインの庭)の朝は、本来なら小鳥のさえずりと共に静かに明けるはずだった。だが、今のこの家には、世界を焼き尽くす「黄金の災厄」が居座っている。
「ぬぉぉぉぉ! 主様ぁぁ! 朝ですぞ! リヴィアの目覚めの咆哮で起きるのですぞーーっ!!」
ドォォォォォン!!
寝室の扉が、物理的な衝撃波と共に吹き飛ぶ。 ベッドで微睡んでいたレインの上に、黄金の光を纏ったリヴィアが、その凶悪なまでの質量――特に胸部を武器にしてダイブしてきた。
「ぐふっ……!? リヴィア、お前……朝から重い……!」
「むふー! 主様の心拍数を確認! これぞ忠竜の務めですぞ!」
レインの顔面に、リヴィアの柔らかすぎる「バグの塊」が押し付けられる。視界が黄金色の肌で埋め尽くされ、窒息死の危機を感じたその時。
「――お掃除の時間ですね」
冷徹な声と共に、一本の鍬がリヴィアの襟首を正確に捉え、そのまま彼女を窓の外へと「パージ」した。
「ぎゃああああ! また放り出されたんですぞぉぉ!」
窓を突き破って庭まで飛んでいくリヴィアを見送り、アリスが一礼する。その手には、既に淹れたてのコーヒーが握られていた。
「おはようございます、レイン様。……害獣の駆除が遅れ、失礼いたしました」
「……おはよう、アリス。助かった。死ぬかと思ったぞ」
「いえ。……リヴィアには、後ほど『管理区域内の騒音規制』について、身をもって分からせておきますので」
アリスの背後に渦巻くどす黒いオーラ。だが、リヴィアは懲りなかった。数秒後には、再び爆音と共にキッチンへ乱入してきたのである。
「主様! リヴィア、汚名返上のために朝食を作りますぞ! ドラゴン流『超高温ブレス焼き・岩盤ステーキ』ですぞ!」
「ダメだ。キッチンが溶ける」
「では、私が。レイン様の健康状態に合わせた『精密演算フルコース』を用意してあります」
「リヴィアの肉料理の方が、精がつきますぞ! 主様はもっとムキムキになるべきですぞ!」
二人のヒロインが、レインの両腕をつかんで引き合う。右腕には、アリスのしなやかで冷涼な肌の感触。左腕には、リヴィアの熱を帯びた、吸い付くような柔らかい感触。
「……二人とも、落ち着け。朝からそんなに食べられない」
レインはため息をつき、管理ウィンドウを開く。
「こうなったら……【管理者権限:味覚の共有】。二人が作ったものを、俺が判定する。負けた方は、今日は大人しく庭の草むしりをすること。いいな?」
「「望むところです!!」」
こうして、聖域のキッチンを舞台にした「朝食デスマッチ」の幕が上がった。
アリスが作るのは、聖域で採れた高純度魔力の薬草をブレンドした、透き通るような『七色野菜のテリーヌ』。一方、リヴィアはどこから持ってきたのか、神話級の魔獣の肉を、その黄金のブレスで一瞬にして調理した『絶滅危惧種のグリル』。
「さあ、主様! リヴィアの愛の重さを食らうのですぞ!」
「レイン様、こちらが『正解』の食事です」
目の前に並ぶ、明らかに一人前の分量を超えた料理の山。レインは覚悟を決め、二人の熱い視線に晒されながら、フォークを手にするのだった。
「……ふぅ。……美味い、が……胃もたれがすごいな」
結局、レインは両方の料理を完食し、その場で動けなくなった。二人のヒロインは、お互いに「主様は私の方を先に食べた!」「いや、私の方を多く食べた!」と、不毛な言い争いを続けながら、動けないレインを挟んで川の字で添い寝を始める。
「……リヴィア、近すぎる」
「むふー! 主様の湯たんぽになりますぞ!」
「……。私が、レイン様の『同期』を優先します」
レインの左右を、銀髪と金髪の美女が埋める。管理者の平和な朝は、文字通り「爆発的な愛」によって、今日もまた騒がしく過ぎていくのだった。
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