最強の聖女(スレンダー)vs 伝説の金竜(きょにゅう)
「いいですな、いいですな主様! ここが主様のテリトリーですな!」
聖域に連れ帰った途端、リヴィアは金髪をなびかせ、豊かな胸を揺らしながら庭を駆け回った。そのたびに、地響きのような爆音と、無駄に高密度の魔力が周囲に撒き散らされる。
「おい、あまり暴れるな。アリスが丹精込めて手入れした芝生だぞ」
「むふー! 主様に叱られるのもまた一興! リヴィア、反省してこの庭を黄金の城に建て替えてあげますぞ!」
「建て替えるなと言っているんだ。……アリス、悪いがこいつの教育を――」
レインが振り返ると、そこには「無」の表情を浮かべたアリスが立っていた。 彼女の手には、いつの間にか剪定用のハサミが握られ、パチン、パチンと不穏な音を立てている。
「……レイン様。この『騒音の塊』ですが、やはり一度解体して、音声出力をゼロに再設定すべきかと。あ、ついでにその……無駄に場所を取る『前方の膨らみ』も、空気抵抗の邪魔ですので削ぎ落としておきますね」
「ひぎぃ!? 主様、あの銀髪女子が、リヴィアの宝物を『削ぐ』とか恐ろしいことを言ってますぞー!」
「アリス、落ち着け。……とりあえず、リヴィアも薄汚れているし、旅の汚れを落としてこい。ちょうど、座標NULLの地下に湧いた『高濃度魔力泉』がある」
「主様とお風呂!? 混浴ですな! 胸が鳴りますぞーーーっ!!」
「混浴ではない。……アリス、監視を頼むぞ」
「…………承知いたしました。隅々まで、徹底的に『洗浄』して差し上げます」
アリスの手にした剪定バサミが、パチンと不穏な音を立てた。
聖域の地下。レインの権限によって生成された、クリスタルのように澄んだ温泉。 湯気の中に、二人の対照的なシルエットが並んでいた。
アリスは、自身の身体を湯船に沈めながら、隣で無防備に伸びをするリヴィアを直視できずにいた。
(……おかしい。私は、レイン様の『管理代行者』として、最も美しい黄金比で構成された個体のはず)
アリスは、湯面に映る自分の姿を見る。透き通るような肌。しなやかな手足。無駄のない、完成された機能美。 だが、その視線は、どうしても隣で「ぷかぷか」と浮いている金色の巨大な質量に吸い寄せられてしまう。
(あれは……バグです。あんな大きさ、物理演算が追いつくはずがありません。重力制御はどうなっているのですか。……それに、レイン様があれほど至近距離で、あのような……柔らかそうなものに押し付けられていたなんて)
アリスは、自分の平坦でなだらかな胸元を、そっと手で隠した。 胸の奥が、熱い。お湯のせいではない。 今まで「道具」として生きてきた彼女が初めて味わう、言葉にできない敗北感。
「どうしたのですか、銀髪女子? お顔が真っ赤ですぞ! さては主様に不埒な妄想でもしているんですな!?」
「…………黙りなさい、この駄竜。……少し、お湯の温度を上げますね」
「あちちちち! 殺す気か! 茹で竜になっちゃいますぞぉぉ!」
お風呂上がり。 脱衣所でレインが待っていると、湯気の中から二人が出てきた。 すっきりとした顔のリヴィアに対し、アリスはどこか元気がなく、俯いている。
「……アリス? どうした、顔色が悪いぞ。どこか具合でも――」
レインが心配して、アリスの額に手を当てようとした。 いつもなら「ありがとうございます」と微笑む彼女が、その日はビクリと肩を揺らし、少しだけ後ずさった。
「……レイン様。……私は、管理者様の『盾』であり、『剣』です。……それだけで、十分、ですよね……?」
消え入りそうな声。その瞳には、最強の聖女らしからぬ、弱々しい期待と不安が混じっていた。
「? ああ、もちろんだ。アリスがいないと、この庭は一日も保たないからな」
レインがいつものように無頓着に、だが心からそう告げて、アリスの頭を乱暴に撫でる。その瞬間、アリスの頬がパッと赤らみ、瞳に光が戻った。
「……。ふふ、そうですよね。……はい。失礼いたしました」
(……そうです。私はレイン様の『唯一』の代行者。あのトカゲには、主様の髪の一本も触れさせません……!)
背後にどす黒いオーラを背負いながら微笑むアリス。
一方のリヴィアは、そんな空気を読みもせず「主様ぁ! 次は背中を流し合う儀式をーーっ!」と飛びつこうとし、アリスの「黄金の鍬」によって天井まで打ち上げられるのだった。
「……やれやれ。俺の平穏は、どこへ行ったんだ?」
レインの溜息と共に、聖域の夜は賑やかに更けていく。
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