【悲報】勇者の本性、バグのせいで世界中に生配信される
「……はぁ、はぁ……っ! 出てこい! 俺様をコケにし、王国騎士団を辱めた卑怯者め! 姿を見せろッ!」
アルディスは一人で、何もない境界線の壁を殴り続けていた。だが、どれだけ聖剣を振るっても、そこには「世界の断絶」があるだけだ。今のレインがいる場所は、この世界の地図には存在しない座標NULL(レインの庭)。ログイン権限を持たないアルディスには、触れることすら叶わない。
「くそっ! なぜだ! 俺は勇者だぞ! 世界に選ばれた主役なんだぞ!」
アルディスは足元の泥を蹴り飛ばした。 その時、彼の足元には、先ほどアリスが破壊した『防護の首飾り』の残骸が転がっていた。
かつてレインが、工作スキルと魔力を注ぎ込んで作り上げた傑作。 それは、アリスの手によって「破壊」された際、レインの管理魔力と干渉し、砕けた衝撃で座標NULLのログを外部へ漏洩させる「バグの穴」と化していた。
一方、座標NULL。
「……レイン様。あの方が持っていた『首飾りの残骸』……どうやら異常な共鳴を起こしているようです。私が壊した際の衝撃が強すぎたのか、こちらの光景が外へ漏れ出していますね」
アリスが管理ウィンドウを見ながら、困ったように、けれど楽しそうに微笑む。
「……ああ。俺の権限を持つお前が干渉して壊したからな。管理領域と現世を繋ぐ『ログ出力エラー』が起きたんだろう」
レインはテラスで、アリスに膝枕をされながら黄金リンゴをかじっていた。 世界に見捨てられ、隔離されたレインに、外へ干渉する権限などない。 だが、「アリスが首飾りを壊した」というアクションが、意図せず世界への「窓」をこじ開けてしまったのだ。
「……まあ、いいさ。俺はここから出られないし、外の連中にどう見られようと知ったことじゃない」
「そうですね。……ですがレイン様。あちら側(世界)では、今ごろ大変なことになっているようですよ?」
その頃、森の外。アルディスを待っていた野次馬や、残された仲間たちは、驚愕の光景を目にしていた。
空中に浮かぶ、砕けた首飾りの破片。 そこから溢れ出した魔力が、巨大なスクリーンのように「真実」を映し出していたのだ。
そこには、何もない空間に向かって狂ったように剣を振るい、「跪け! この俺様が世界を救ってやるんだ! どいつもこいつも俺の踏み台になれ!」と本性を剥き出しにして叫ぶアルディスの姿。
そして、その背後の空間がエラーで透けて見えた先には――。 見たこともないほど美しい楽園で、聖女アリスを侍らせ、神のごとき余裕でリンゴをかじるレインの姿。
「……おい、勇者様。一人で何やってんだ?」
「あれが本性か……? それより、あそこにいるの……追い出された荷物持ちのレインだよな? なんであんなに優雅なんだよ……」
世界は、勇者の「嘘」を許さなかった。 アリスが壊した首飾りの破片が、皮肉にもアルディスの栄光を粉々に砕く中継器となったのだ。
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