王国最強の進軍と、管理者の警告ログ
王都グランゼールの謁見の間。国王の前で、勇者アルディスからの伝令が床に膝をつき、必死の面持ちで書状を掲げていた。その傍らでは、王国騎士団長ガイアスが険しい表情で事態を見守っている。
「……報告は真実か? 北の森に魔王軍の拠点が築かれ、勇者一行が奇襲を受け壊滅状態だと?」
「はっ! アルディス様曰く、そこには正体不明の魔導師が潜んでおり、凶悪な泥の魔物を使役して勇者様を凌辱したとのことです!」
伝令の騎士は、アルディスから吹き込まれた嘘を必死にまくし立てる。 泥まみれで追い返されたという「恥」を、勇者は「魔王軍の卑劣な罠」という英雄譚に書き換えていた。
「救世主である勇者をそこまで追い詰めるとは……看過できん。ガイアス、直ちに精鋭騎士団を動かせ。その『魔王の拠点』を包囲し、一掃するのだ」
「御意。我が国の威信にかけて、その不届き者を討ち果たしましょう」
最強と謳われる王国騎士団が、重厚な鎧の音を響かせて進軍を開始する。 彼らは知らなかった。自分たちが討とうとしている相手が、この世界の「理」そのものを管理している存在だということを。
一方その頃、座標NULL(レインの庭)。
「……ふふ、レイン様。今日のお洗濯は、一段と輝いていますね!」
アリスが庭の洗濯紐に干しているのは、昨日俺が生成した「自動洗浄機能付きの布」で作った新しい普段着だ。 太陽の光を浴びて、衣類が神聖な魔力を放ちながらキラキラと輝いている。
「ああ。環境の魔素濃度が高いからな。干しておくだけで自動的にエンチャントがかかる仕様にしたんだ」
「すごいです! これなら泥に汚れても、一瞬で元通りですね!」
アリスは楽しそうに翼をパタつかせている。 俺はテラスの椅子に深く腰掛け、管理ウィンドウの端に映る「不穏な光点(赤いマーカー)」を眺めていた。
「……アリス。言っていた通り、少し騒がしくなってきたぞ」
「……はい。森の境界線に、殺気を持った集団が近づいていますね」
アリスの表情から、いつもの柔らかさが消え、守護騎士としての鋭い光が宿る。 彼女は、傍らに置いていた「ただの白い枝 (デバッグ・ロッド)」を手に取った。
「レイン様の平和を乱す不浄なもの……。私が、お掃除してまいります」
「いや、まずは警告からだ。……まあ、聞くような連中には見えないがな」
俺はリンゴをかじりながら、ウィンドウをスワイプして「警告ログ」を表示させる。 勇者の嘘に踊らされた騎士団が、自分たちの命をゴミ箱に捨てようとしているのを、俺はただ無機質なログとして眺めていた。
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