勇者の『魔王報告』と、管理者の『自動洗浄機能(アップデート)』
ゼノスの街にある高級宿。 かつては「救世主」として歓迎されていた勇者一行だが、今や宿のロビーには気まずい沈黙が流れていた。
「……アルディス様。ギルドマスターから『被害届』が出ています。街の境界線にある保護区域に無断で侵入し、公共の美観を損ねたことへの賠償金、それから――」
「うるさい、うるさい、うるさいッ!」
アルディスが宿の机を叩きつける。 だが、かつてなら粉々に砕けていたはずの机は、ただガタッと揺れただけだった。レインの『攻撃力補正』が切れた彼の拳は、今や平均的な戦士よりも脆い。
「あの場所は魔物の巣窟だ! 我々は世界のために、魔王の拠点を調査しに行ったんだ! あの泥スライムを見ただろう!? あれこそ邪悪な魔導の証拠だ!」
「……ですが、鑑定士ドラン様は、あそこを『聖域』だと……」
「黙れ! 鑑定士ごときが勇者の直感に口を出すな!」
アルディスは目を血走らせ、逃げるように宿を出る。彼は、自分を笑いものにしたこの街の住人すべてを見返してやるため、禁断の一手に踏み切った。
「見ていろ……。国王陛下に直接、虚偽……いや、正当な『魔王出現』の報告を入れてやる。軍を動かし、あの忌々しい森ごと焼き払ってくれる!」
その頃、座標NULL(レインの庭)。
「……ふふっ、レイン様、見てください。このお花、私がお水をあげたら、一晩でこんなに綺麗に!」
アリスが指差す先には、絶滅したはずの古代種『虹色の百合』が、庭の雑草のように群生していた。 アリスが持つ「管理者の守護騎士」の権限により、彼女の愛情(魔力)を受けるだけで、あらゆる植物が神格化しているのだ。
「お、いい色だな。アリスの魔力操作が上達した証拠だ」
レインがアリスの頭を優しく撫でる。 アリスは「えへへ……」と嬉しそうに目を細め、幸せそうに尻尾(光の翼)を揺らした。
「……あ、レイン様。そういえば昨日、お掃除機能で追い出した『泥まみれの塊』ですが……。また来たら、今度は私が直接、お外までお運びしましょうか?」
「いや、アリスの手が汚れる。次に来たら、もっと強力な『自動洗濯機能(時速300キロの水流)』をセットしておくから大丈夫だ」
「わかりました! レイン様の効率的なお掃除、尊敬します!」
街で勇者がどれほど憎悪の炎を燃やしていようと、この庭に流れる時間は、どこまでも平和で、どこまでも規格外だった。
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