拾った聖女の髪を整えていたら、外で勇者が勝手に自爆していた件
「……ふー、ふー。……はふっ、もぐ。……っ、おいひいです、レイン様!」
アリスが頬を赤く染めながら、焼きたてのステーキを口いっぱいに詰め込んでいる。 昨日までは死んだ魚のような目をしていた彼女が、今は一口ごとに光の翼をパタつかせて喜んでいる。その様子は、実に微笑ましい。
「そんなに慌てなくても、逃げやしないぞ。ほら、口の横にソースがついてる」
「ふぇ? ……あうっ」
俺が指先でソースを拭ってやると、アリスは耳まで真っ赤にして固まってしまった。 ……そういえば、彼女にとっては「優しく触れられる」こと自体が、生まれて初めての経験だったのかもしれない。
「……あ、あの、レイン様。私、本当に……ここにいていいのでしょうか。私はただの予備で、ゴミ箱で……」
「アリス」
俺は彼女の頭にそっと手を置いた。管理者権限で生成した『神銀の櫛』で、まだ少し傷んでいた彼女の銀髪を優しく整えてやる。
「ここでは、君をそんな風に呼ぶ奴はいない。君は、俺の大事な……」
俺が「居候」と言いかけたその時、庭の端にある『外郭境界センサー』が激しく点滅した。誰かが、俺のテリトリーに土足で踏み込もうとしている。
「……チッ、飯の邪魔が入ったか」
同じ頃。 森の奥、木々が不自然に歪み、空間そのものが「欠落」している境界線。
「……ハァ、ハァ……なんだ、この森は! 魔物もいないくせに、歩くだけで体力が削り取られやがる!」
勇者アルディスは、肩で息をしながら聖剣を杖代わりにしていた。彼らは知らない。ここから先はレインが設定した「管理者専用領域」。権限を持たない一般人が踏み込めば、【環境ダメージ:過負荷】によって立っているだけでHPが削れる仕様になっている。
「アルディス様、見て! 何か立っているわ!」
聖女セシリアが指差した先には、不釣り合いなほど質素な、木の立て札があった。
【警告:この先、致命的なバグにつき立ち入り禁止】 (※無理に侵入した場合、データの整合性は保証しません)
「……バグ? データ? 何をふざけたことを……。この俺を、こんな安っぽい木の板で止められると思っているのか!」
アルディスは激昂し、その立て札を思い切り蹴り飛ばした。
だが、その瞬間。 パキィィィィン!!
「ぎゃあああああああああ!?」
凄まじい衝撃波がアルディスの足を襲った。立て札に書き込まれていたのは、レインが無意識に付与した【絶対不可侵コード】。 権限なき者が悪意を持って触れた瞬間、その攻撃を10,000倍にして反射する「最強のセキュリティ」だ。
「アルディス様! 足が、足の骨が変な方向に曲がってるわ!」
「クソッ、ふざけるな! 誰だ! 誰がこんな罠を仕掛けやがった!!」
勇者の絶叫が、静かな森に虚しく響き渡る。そのわずか数百メートル先で、レインがアリスに「デザートのリンゴ」を剥いてやっているとは、今の彼らには想像もつかなかった。
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