鑑定不能の食べ残しと、石ころから生まれる神話級の包丁
交易都市ゼノスの冒険者ギルド。 その最奥にある「鑑定室」は、かつてない緊張感に包まれていた。
「……信じられん。私の鑑定士人生……いや、王国の歴史において、これほどの数値は見たことがない」
震える声で呟いたのは、ギルドお抱えの最高権威、鑑定士ドランだ。 彼の目の前には、厳重な魔法障壁のなかに鎮座する、乾燥した「リンゴの芯」があった。
「ドランさん、結果はどうなの!? 『森の静寂』が拾ってきたっていう、その……『神の遺物』は」
ギルドマスター、カレンが身を乗り出す。 ドランは額の汗を拭い、鑑定結果が記された羊皮紙を差し出した。
【名称:世界樹の残滓】
【ランク:規格外(EX)】
【魔力含有量:測定不能】
【備考:一口摂取するだけで全ステータスが恒久的に上昇。枯死した大地を楽園に変える「創生の種」を含んでいる】
「……ただの食べカスだと思っていましたが、これは『国宝』などという言葉では足りません。これ一つで、隣国との戦争を終わらせ、なおかつ数百年単位の繁栄を約束する……文字通りの『神の果実』です」
カレンの顔から血の気が引いた。
「そんなものを……『食べ残し』として森に捨てた存在がいるっていうの?」
「はい。しかも切り口を見る限り、ナイフなどは使われていない。……手で、無造作に、まるで『ただの朝食』として、贅沢にかじりついた痕跡があります」
鑑定室に沈黙が落ちる。 「神」を、あるいは「世界の管理者」を連想させる圧倒的な力の痕跡。
「……すぐに全ギルドメンバーに特級通達を出しなさい。森の深部、最近報告が上がっている『地図が消失している空白地帯』。あそこを『絶対不可侵領域』に指定するわ」
一方、その頃。
「……っ、うまい……! うますぎる、このリンゴ!」
俺の「庭」では、アリスが二個目のリンゴを夢中で頬張っていた。 口の周りを果汁で濡らし、光の翼をパタパタと小刻みに揺らす姿は、どこからどう見ても、世界を揺るがす「守護騎士」には見えない。
「アリス、そんなに食うと鼻血が出るぞ。……さて、腹も膨れたし、次は『家』の機能を拡張するか」
俺は空中に指を滑らせる。 ログハウスの隣に、小さな「工房」を生成した。
「勇者パーティにいた時は、アルディスの剣の刃こぼれを直すだけで精一杯だったからな。自分のために何かを作るのは、久しぶりだ」
俺はそこらへんの石ころを拾い、適当にコードを流し込む。
【オブジェクト変換:オリハルコン(高純度)】
【付与:自動修復、神威、概念切断】
「……よし、これで『包丁』でも作るか。アリスに美味い料理を作ってやりたいしな」
俺が数秒で作り上げた「包丁」は、もし表層世界の鑑定士が見れば、そのあまりの異常さにショック死するであろう、神話級の魔剣すら凌駕した「何か」だった。
俺はまだ知らない。この「包丁」一つが、後に王国軍を震撼させることになるのを。
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