「ゴミ箱」として捨てられた予備聖女を拾ったら、好感度とステータスが完ストして守護騎士になった件
街「ラゼル」を離れた俺は、深い森のさらに先、地図の端へと辿り着いた。 そこは、開発途中で放棄された【座標:NULL】。 通常のプレイヤーやNPCなら、足を踏み入れた瞬間に虚無へと落下する「世界のバグ」だ。
だが、管理者権限を持つ俺にとっては、最も自由な場所だった。
《環境設定:デフォルトから「安定」に変更》
《テクスチャ:草原(高画質)を適用》
《天候:永劫の晴天に固定》
俺が空中に指を走らせるたび、何もない闇だった場所に瑞々しい緑が広がり、暖かな陽光が差し込む。
「……ここなら、誰にも邪魔されない」
俺は、一軒のログハウスを「生成」した。 かつて勇者パーティの野営で、アルディスが「もっと豪華な部屋を用意しろ」と文句を言っていたのを思い出す。 あいつのために使うはずだったリソースを、今は自分のためだけに使う。
「さて、まずは――『水』だな」
俺は地面を指差した。
【オブジェクト生成:純水の泉】
【特殊効果:状態異常全回復、MP自動回復】
本来なら、王都の最奥にある聖域にしかないはずの「奇跡の泉」だ。 それを、俺は庭のただの水道代わりに設置した。
「……ん?」
その時、泉の端に「エラーログ」が浮いているのが見えた。 小さな、白い塊。
【エネミー名:???】
【状態:耐久値1 / 999,999】
【警告:システム外の負荷により消滅寸前】
近づいてみると、それは一人の少女だった。 ボロボロの純白の法衣を纏い、背中には無理やり引き剥がされたような「翼の痕」がある。
《解析中……》
《個体識別:アリス》
《役割:勇者パーティ用・予備バッテリー(聖女代行)》
俺は息を呑んだ。 アルディスたちが「予備」として連れ回し、魔力が枯渇したからとバグ領域に捨てたのだ。 彼女は、世界のバグを一身に受けるための「ゴミ箱」として設計されていた。
「……ひどいな」
俺が彼女の額に触れる。
【管理者コマンド:全ステータス・フルリカバリ】
【権限譲渡:この領域内での生存許可】
眩い光が彼女を包んだ。
少女の頬に赤みが戻り、ゆっくりとその瞳が開かれる。
「……ここは、天国……ですか?」
「いや、俺の庭だ」
彼女は俺を見上げ、その瞳から大粒の涙をこぼした。 システム的に「泣く」という設定すらされていなかったはずの彼女が、俺の手をぎゅっと握りしめる。
《NPC:アリスの好感度が測定不能に達しました》
《アリスが『管理者の守護騎士』として登録されました》
「……レイン様。私を、拾ってくださるのですか?」
「ああ。ここには、理不尽な仕様なんて一つもない」
その頃、はるか遠くの街道では――。 アルディスが苛立ちの声を上げていた。
「おい、予備の聖女はどうした! 傷が治らないぞ!」
「……あ、アルディス様。彼女なら、さっきの『穴』に落としてきました。もう使い物にならないからと、あなたが言ったのではないですか……?」
「チッ、代わりならいくらでもいると思ったが……。なぜだ、なぜこんなに体が重い!」
勇者たちはまだ気づいていない。 彼らの「無敵」を支えていた最後の安全装置を、自分たちで捨てたことに。
そして、俺の庭に「世界最強の聖女」が誕生したことに。
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