追放と復旧――運営席へ
「──結論は変わらない。お前はもう要らない。クビだ、レイン」
勇者アルディスの声には、迷いがなかった。
それが、妙に耳に残った。
暖炉の前で、彼は足元の薪を乱暴に蹴り散らす。
その拍子に、紙束が転がった。
俺が三年間、旅のすべてを書き留めてきた探索記録ノートだ。
「戦えない。魔法は平凡。スキルも地味。正直――荷物だ」
反論はしなかった。
否定できない部分があるのも事実だ。
だが、その“荷物”がいなければ、
このパーティは今いる場所にすら辿り着けなかった。
「地図作りなんて、誰でもできるだろ?」
アルディスはそう言って、ノートをブーツの先で踏みつけた。
乾いた音。
紙が、簡単に折れ曲がる。
焚き火の爆ぜる音だけが、重く響いた。
聖女も、魔導師も、誰一人こちらを見ない。
……見覚えがある。
出来の悪いイベントシーンを、当事者席で見せられている感覚。
「このゴミも、もう要らねぇよな」
ノートが暖炉へ蹴り込まれた。
火が、一瞬で紙を呑み込む。
三年間が、灰になった。
「……分かった。出ていくよ」
そう答えた瞬間だった。
脳裏を、鋭いノイズが走った。
《警告:パーティ・リーダーによる強制除名を確認》
《共有制限を解除します》
《リードプランナー権限、復旧を開始》
一瞬、世界が“重なった”。
闇の中に、文字が浮かぶ。
地形、魔物、オブジェクト。
すべてが数値と仕様で構成された世界。
「……ああ」
思い出した。
この森で魔物が夜にだけ異常増殖する理由。
回復魔法が特定地点で効きづらくなる欠陥。
勇者が必ず勝つはずだった、雑なAI設計。
全部――俺が書いた。
なぜなら、この世界は
納期直前にデータごと消失したはずの、
俺の未完成ゲームだからだ。
「皮肉だな……」
勇者の側にいる間、
俺は“一般人”としてロックされていたらしい。
追放されたことで、
ようやく元の場所に戻れた。
――運営席へ。
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