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光誓会の花嫁候補だったのに、結婚できませんでした。

作者: すじお
掲載日:2025/10/26

某新興宗教をモデルにした婚約破棄の話

千人規模の合同結婚式——それが、私の人生を変えるはずの儀式だった。


だが、花嫁衣装を着せられ、誓いの言葉を述べたその日。

私の“新郎”は、姿を現さなかった。



「神の導きが足りなかったのです」


そう告げられ、私は花嫁でも妻でもなく、ただの“待機信者”になった。


——だが、それが終わりではなかった。


神の名を借りて人を選別する彼らに、私は“愛とは何か”を問うことになる。



***

「あなたの運命の相手は、神が選びます」



そう言われて、私は二十二歳で“光誓会”に入った。

合同結婚式の映像を見せられた時、涙が出た。

見知らぬ男女が千人単位で「神の導きに感謝します」と誓い合う。

それは壮麗で、清らかで、何より“意味のある生き方”に思えた。


私は貧しい家で育った。恋愛も、結婚も、縁遠かった。

けれど、神が選んでくれるなら、きっと間違いはないと思った。



——あの日までは。



白いチャペルに立ち並ぶ花嫁たち。

一人ひとりに番号が振られ、配られた“神聖なリスト”に従って新郎と組み合わされる。



私は番号「A-1143」だった。

相手は「B-779」。


外国人の青年だという。

会ったこともないが、神が選んだというのなら、それでいいと思っていた。


しかし、式の直前——司祭が私のところに来た。


「B-779番は……来られませんでした」

「えっ?」

「天啓が下りました。あなたの結婚は、延期です」


延期。

その言葉が、あの日から永遠に続いている。

それから五年。


私は“花嫁候補”のまま、光誓会の寮で働いている。

掃除をし、祈りを唱え、寄付を集める。

次の合同結婚式では、今度こそ神が相手を選んでくださる——

そう信じ続けて。



だが、ある夜。

私は偶然、幹部たちの話を聞いてしまった。


「B-779は、別の国で既に結婚した」

「A-1143? ああ、まだ信じてるんだろう」

「彼女たちの“純粋さ”こそ、会の宝だ」



——その瞬間、何かが壊れた。


祈りも、感謝も、神の導きも。

私の信じてきた“清らかさ”は、誰かの都合のための道具だった。



私は静かに、寮を出た。

夜の街に初めて足を踏み入れる。

光誓会で「不浄」と教えられた世界は、案外温かかった。



パン屋の親父が言った。


「腹減ってんな。これ、余ったやつだけど持ってけ」


ああ、このパンの方がよっぽど神聖だ。

誰かを救うために焼かれたものだ。


——私はもう“選ばれる”ことをやめる。


今度は、私が選ぶ番だ。

神でも、教団でもなく。

自分の意思で、愛する人を。




元信者同士の集まりで、私は一人の青年と出会った。

元“新郎候補”だという。

番号は「B-779」ではなかったけれど、笑顔が優しかった。


「もう、神の導きは信じられません」

「じゃあ、俺たちで選びましょう。今度は自分の手で」



その言葉に、私は初めて本当の意味で——祝福された気がした。

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