光誓会の花嫁候補だったのに、結婚できませんでした。
某新興宗教をモデルにした婚約破棄の話
千人規模の合同結婚式——それが、私の人生を変えるはずの儀式だった。
だが、花嫁衣装を着せられ、誓いの言葉を述べたその日。
私の“新郎”は、姿を現さなかった。
「神の導きが足りなかったのです」
そう告げられ、私は花嫁でも妻でもなく、ただの“待機信者”になった。
——だが、それが終わりではなかった。
神の名を借りて人を選別する彼らに、私は“愛とは何か”を問うことになる。
***
「あなたの運命の相手は、神が選びます」
そう言われて、私は二十二歳で“光誓会”に入った。
合同結婚式の映像を見せられた時、涙が出た。
見知らぬ男女が千人単位で「神の導きに感謝します」と誓い合う。
それは壮麗で、清らかで、何より“意味のある生き方”に思えた。
私は貧しい家で育った。恋愛も、結婚も、縁遠かった。
けれど、神が選んでくれるなら、きっと間違いはないと思った。
——あの日までは。
白いチャペルに立ち並ぶ花嫁たち。
一人ひとりに番号が振られ、配られた“神聖なリスト”に従って新郎と組み合わされる。
私は番号「A-1143」だった。
相手は「B-779」。
外国人の青年だという。
会ったこともないが、神が選んだというのなら、それでいいと思っていた。
しかし、式の直前——司祭が私のところに来た。
「B-779番は……来られませんでした」
「えっ?」
「天啓が下りました。あなたの結婚は、延期です」
延期。
その言葉が、あの日から永遠に続いている。
それから五年。
私は“花嫁候補”のまま、光誓会の寮で働いている。
掃除をし、祈りを唱え、寄付を集める。
次の合同結婚式では、今度こそ神が相手を選んでくださる——
そう信じ続けて。
だが、ある夜。
私は偶然、幹部たちの話を聞いてしまった。
「B-779は、別の国で既に結婚した」
「A-1143? ああ、まだ信じてるんだろう」
「彼女たちの“純粋さ”こそ、会の宝だ」
——その瞬間、何かが壊れた。
祈りも、感謝も、神の導きも。
私の信じてきた“清らかさ”は、誰かの都合のための道具だった。
私は静かに、寮を出た。
夜の街に初めて足を踏み入れる。
光誓会で「不浄」と教えられた世界は、案外温かかった。
パン屋の親父が言った。
「腹減ってんな。これ、余ったやつだけど持ってけ」
ああ、このパンの方がよっぽど神聖だ。
誰かを救うために焼かれたものだ。
——私はもう“選ばれる”ことをやめる。
今度は、私が選ぶ番だ。
神でも、教団でもなく。
自分の意思で、愛する人を。
元信者同士の集まりで、私は一人の青年と出会った。
元“新郎候補”だという。
番号は「B-779」ではなかったけれど、笑顔が優しかった。
「もう、神の導きは信じられません」
「じゃあ、俺たちで選びましょう。今度は自分の手で」
その言葉に、私は初めて本当の意味で——祝福された気がした。




