第一話:始まりの序曲
ずっと別サイトで小説を投稿していましたが古巣であるここにも改めて投稿しようと思います。
結構、ボリュームを考えていますのでよろしくお願いします。
日本・昭和基地
深夜、ブリザードの合間に突如として轟音が空を裂いた。
見張りの自衛隊員が何事かと外へ飛び出した瞬間、漆黒の飛翔体が雪上を爆ぜ、掘削施設ごと炎に呑み込んだ。
「こ、これは攻撃だ! 本国に――」
基地隊長・三宅一佐は通信室へ駆け込む。
しかし衛星回線は強烈な妨害電波で沈黙し、緊急送信機も虚しく赤ランプを点滅させるのみ。
次の瞬間、天井が崩れ、炎の奔流に呑まれながら彼は絶叫した。
「日本よ……南極は、失われた……!」
声は吹雪に掻き消え、三宅の身体は炎の中に沈んだ。
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米国・マクマード基地
巨大な米国最大の拠点も、油断の隙を衝かれた。
雪原に轟音が響き、未知の艦砲弾が次々と貯蔵庫と発電施設を粉砕する。
警報が鳴り響き、兵士や科学者たちが散り散りに走る。
「これは演習じゃない! 本物の攻撃だ!」
基地指揮官のスティーブンス大佐は必死に対空砲を指揮するが、見えぬ敵影に砲弾は空を切る。
やがて艦砲弾の直撃で司令棟が吹き飛び、鉄骨が崩れ落ちる中で大佐は血を吐きながら倒れ込む。
「……アメリカ合衆国に……伝えろ……敵は……」
言葉の続きは血に溺れ、凍てつく風の中に消えた。
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英国・ハレー基地
厚い氷床の上に建つ英国基地も逃れ得なかった。
白い闇に閃光が走り、施設は一瞬で火の海と化す。
「これは……ドイツの……いや違う……」
基地長ロバートソン中佐は混乱の中で叫びながら部下を避難させる。
だが救命艇は氷ごと吹き飛ばされ、逃げ場はない。
崩れゆく研究棟の中で、彼は最後の無線機にしがみつき、誰に届くともわからぬ信号を打ち込む。
「UNKNOWN FLEET ATTACKING……SINKING……」
打鍵の途中で爆炎が彼を包み、無線は途絶した。
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中国・中山基地
氷雪の静寂を引き裂いたのは、連続する炸裂音だった。
中国南極調査隊の本拠は、未知の艦載機から放たれた弾雨に貫かれ、鉄骨は瞬時にねじれ、施設は炎上した。
「誰だ! 何者が――!」
基地長・劉少将は怒号を放ちつつ部下を励ますが、次々と倒れていく仲間の姿に唇を噛み切った。
最後には砲弾が司令室を直撃し、爆風に吹き飛ばされながら劉は血に濡れた手を掲げた。
「中華人民共和国……必ず復讐を……主席、万歳!」
その叫びもまた、砕け散る氷塊と共に飲み込まれていった。
♦♦
その他の南極の各国基地は、一報を本国に届ける間もなく、無惨に壊滅した。
白き大陸に、ただ炎と黒煙だけが残り、氷雪を焦がす血の匂いが漂う。
それが「未知の艦隊」の存在を世界が知るはずだった最初の兆候であったが、
この時、まだ人類は誰一人として、敵の正体を掴んではいなかった。
♦♦
南極からの沈黙
数日が経っても、日本、米国、英国、中国の南極基地からは一切の通信が戻らなかった。
嵐による通信障害だとする説明は早々に崩れ去る。
なぜなら、複数国の基地が同時に音信を絶つなど、あり得ないからだ。
氷の大陸は、まるで世界から切り離されたかのように沈黙を続けていた。
偵察部隊の派遣
各国は真相を探るべく、極地観測船や哨戒機、特殊部隊を次々と送り込んだ。
だが――。
南極圏へ進入した部隊からは、いずれも最後の断末魔のような断片的通信を残して消息を絶った。
「視界に……艦影……? いや、そんなはずが――」
「電磁障害だ、計器が全部狂って……!」
「ここは……誰か、助け――」
無線はすぐに途絶え、以降は沈黙。
救援に向かった者も、誰一人帰ってはこなかった。
世界各国の首脳会議
ワシントン、ロンドン、北京、東京――。
各国の首脳たちは、相次ぐ「消息不明」の報告を前に重苦しい沈黙に包まれていた。
米大統領は冷や汗を拭いながら呟く。
「我が国の精鋭を投入しても、痕跡すら掴めない……。まるで南極そのものが呑み込んでいるようだ。」
英国首相は低い声で言う。
「人間の仕業ではないのでは? 未知の兵器か、あるいは……」
その声は会議室の空気をさらに冷たくした。
中国の主席は机を叩きつける。
「ふざけるな! 誰かが我々を試しているのだ。必ず正体を突き止め、叩き潰す!」
だが、その言葉には怒りよりも恐怖が滲んでいた。
日本の総理は蒼白な顔で囁く。
「我々は、すでに謎の敵の掌の上にあるのではないか……? この沈黙自体が、世界に突き付けられた“宣告”なのではないか……」
見えざる恐怖
各国首脳は、軍事報告書の束を前に言葉を失っていた。
「誰も帰らない」という事実は、いかなる分析より雄弁に物語っていた。
それは、未知の艦隊がいまだ南極に存在し、世界の常識を覆す力で人類を拒んでいる――ということ。
やがて各国首脳の脳裏に浮かんだのは、同じ恐怖の幻影だった。
――もしその艦隊が、次は南極を越えて世界に現れたら?
沈黙の大陸は、もはや氷と雪の平原ではなく、
人類の心に“見えない恐怖”を刻む、暗黒の虚空と化していた。
暫くは普通の展開です。




