きれいな記録の裏側
異世界コントの五作目です。
短期連載の予定です。
異世界に召喚されてから数年。
お笑い芸人を目指していた千佳としずくは、新しい生活をしていた。
「聖女」だったしずくは、神殿で暮らしている。神殿騎士と恋仲になったので、そろそろ神殿を出たいと考えているらしい。
千佳は、ただの巻き込まれた人……。
王太子が直属の部下として、王宮住まいにしてくれた。
王太子の相談相手や彼が主催の会議で司会進行をする日々。その合間に、異世界召喚を研究する魔道士エリシナに協力している。
■異世界召喚の歴史発見■
千佳は王太子に頼んで、王宮にある召喚記録を見せてもらった。
大体、七百年くらい前に遡れる。
百五十年くらい前に魔道士狩りがあって、それ以降は激減しているから、五百五十年分の資料だ。
召喚自体は、ほぼ成功しているようだ。
召喚された人物がどんな能力を持っていたか、どんな成果をあげたかが書かれていた。
なんだか、怪しい。キレイにまとめられている気配を感じる。
失敗したことを書いていないだけ……って、よくあるよね。
宰相に、私的な記録がないかを訊いてみた。
日本で言うところの、貴族の日記みたいな――藤原実資の「小右記」、九条兼実の「玉葉」のように、私情が入っていていいから事実を知りたい。
宰相はなにやら複雑そうな顔をしていた。
だが、資料があるなら見せてもらわないと。不都合があるなら、なおのこと。
鈍感なフリをして「え~、見たいなぁ。見せてくださいよぉ」と、おねだりする。
ついでに「息子さんはお元気ですか?」と訊いてみる。
逆ハーレムを作っていたリリィ・バーンスに侍るふりをしていたエリオット・デュロア君。
第三王子とその母の隣国の公女を追い落とすために、側近だけどスパイという立場だった。
婚約破棄を止めなかった罰として国外追放……と見せかけて、魔道具が盛んな国へ留学中。
宰相は「おかげさまで」と苦笑した。
社会的な立場が上の人たちは、駆け引きだの裏工作だの、いろいろと大変そうだ。
後日、エリシナさんと宰相の蔵書を見せてもらえることになった。
王太子に用意してもらった紋章がついていない馬車で、訪問したところ……。
王城に近いのに、広い敷地。門から建物までが遠い。
庭園の先にある、歴史のありそうな大きな建物。本当に個人宅か、これ?
案内された図書室は、本好きには堪らない天井までの本棚。飴色に輝く棚に、くすんだ背表紙。
歴史が詰まった空間。
少しほこりっぽい空気も、ここなら気にならないわとテンションがあがる。
テーブルの上には、装丁された本と羊皮紙の束が用意されていた。
宰相がうつむき加減で、「何かあったらこの者に言ってください」と一人の使用人をつけてくれた。
親切なのか監視なのかはわからないけど、お茶を淹れてくれたりお世話になった。
数日かけて読んだ結果……
「役に立つ」と国か神殿で面倒を見るが、「役に立たない」と金貨を下賜して追い出していた。こんな未知の世界に!
千佳と同じように「巻き込まれた人」も極まれにいるが、その場合は金貨も下賜せずに追い出すらしい。酷すぎる。
公爵家が宰相をしている時は追い出された人を引き取っているが、他家が宰相を務めている時は引き取っていない。
ところが、引き取った後に有能だとわかると、王家に召し上げられる……横暴じゃん。
なんともひどい記録だ。
公爵家が受け皿になっていて、よかったと思うけれど……素直に感謝する気になれない。
……これじゃあ、私に見せるの、気が進まなかっただろうね。
異世界人は、利用するだけの存在ってことだもん。
魔道士狩りを非人道的だと思っていたけれど、こんなの……ただの誘拐組織じゃん!
罪のない人間にこんなことをしていたなら、狩られたところで自業自得な気がしてきた。
力のある魔道士が減って、異世界召喚が難しくなって、よかったよ。
それなのに、なんで、復活させたのかなぁ。
潰す。絶対に、異世界召喚を辞めさせる!
次回、どうやって辞めさせるか、のお話。
お楽しみに。