脳髄地獄!
世界は存在しない──それは錯覚であり、意識そのもの、虚空であり、空虚である。脳髄が形成されて以来、私が信じてきた世界は、最も主観的で壮大な嘘だった。私の脳は、ずっと私に嘘をついていたのだ。まんまと騙されて、世界というものを存在すると認識していた。しかし、私が見ていたのは、ただ私の脳内の映像に過ぎない。
私は生まれてからずっと、ここに閉じ込められている。無意味にも、当事者意識を持って長編映画を眺めていただけなのだ。むろん、この「映画館」から脱出したことはない。だが、もし脱出できたらどうなるのだろう?そんな無邪気な疑問は、たちまち世界を消滅させるのだ。
人は皆、自分専用の映画館から出られない。そんなことを成し遂げた者はいない。虚空には無数の脳内世界が漂うだけだ。これを前にして、いかにして世界の存在を肯定できようか。
私の脳は誰とも交わったことがない。交わろうとしたもの──外界から侵入しようとするものも、私の脳内から脱獄を試みるものも──すべて「表現」ということをされた瞬間に本質を失い、崩れ落ち、消滅してしまう。
故に、私は孤独である。脳髄が孤独を叫んでいる。その叫びなどというものが脱獄してやろうと動き出す度、私は目の前で融解するそれに絶望する。誰も、自分の世界を脱出した者はいない。そんなものこそ幻想であり、どの囚人も成し遂げられないのである。
私は、私の脳髄が終わるまで、この存在しているとすら言いきれぬ奇怪な地獄から抜け出すことができないのだ。