1:半グレ男子に絡まれる
「お!ルアさんっすか!?」
大阪駅の改札を抜けた先で、1人の男性に声をかけられた。
男性はサングラスをかけて、フードを被っている。そして見えている腕にはタトゥーが彫られていて、銀色のネックレス。ポケットに手を入れて、こちらを見ている。
典型的な半グレの姿をしていた。半グレかどうかはわからないが、半グレ男子とでも名付けようか。
「え?ああ、そう……だけど。てか、なんで分かった?」
俺は半グレ男子に聞いた。心当たりが全くない。
「サブ垢で、目元を公開してたからさ……もしかしてって思って」
半グレ男子は吐き捨てるように言う。そうだった、閲覧が少ない時に目元だけ公開したんだった。
でも、サブ垢で公開したことまで知っているということは、リスナーの中でもかなり絞られるけどな。
ていうか、めんどくさい人に絡まれてしまったな。とにかくこの場から離れたい。
「あ、もう行かなきゃ」
この場から離れるための嘘ではなく、1時間後に家で配信する予定なのだ。
「ルア!じゃあ、一緒に写真だけ撮って!」
半グレ男子はスマホを取り出し、大きな声で言った。
「いや、ネットで顔明かしてないからダメだよ」
俺は断って、この場から去ろうとした。友達じゃないんだからさ。しかも初対面だし、敬語ぐらい使ったらどうだ。
「いいじゃん!公開しないからさ〜ぜあ!お願い」
半グレ男子はさっきより大きな声で叫び、俺の肩を叩いた。
帰宅時で、こんなに人が集まる場なのに大きな声が出せるのか。すごい度胸だ。周りの視線が俺に刺さる。
「わかった。撮るから、あんまり大きな声でネットネーム言わないでね」
サッと写真を撮ると、またね、と言って、東梅田駅を目指した。
俺は、半グレに関わるとまずいことを知っている。
しかも、俺は全てのリスナーと同じように接したい。1人だけ優遇していられないのだ。
その夜、マカロニという常連リスナーからXにDMが来た。
[今日はありがとうございました!カッコよかったっす!]
あの半グレ男子はマカロニくんだったのか。めっちゃ意外だ。アイコンからはそんな感じしないし、話していてもグレている感じはしなかった。でも、会ってみたらイメージと違うことはいくらでもあるか。
てか、それよりも、今後あの改札で待ち伏せされそうで怖い。
まぁ、違う改札から出て、回り道して乗り換えをするしかないか。
遠回りになるが、仕方ない。変なことに絡まれるよりましだ。
そう考えて、明日は違う道で電車を乗り換えることにした。