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ようこそ!魔術研究サークルへ!  作者: 蓮根三久
入部試験編
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危うく騙されるところだった。

「分かりました。分かりましたよ王子様。従えばいいんですよね。」


 ため息交じりに吐き捨てると、バースは少し不機嫌そうな顔になった。僕も言っていて、この言い方は嫌な奴だな、と思った。


 でもそれでいいと思う。別に僕はバースとかグレイとかに良く見られたいわけじゃない。将来的に僕は魔術を自在に扱い、他人に教えることが出来る魔術師になれればいいのだ。その道にこの二人が挟まってくることなんて想像もできない。


 だからわざとというわけでもないが、少なくとも自分の発言を悔いるようなことはしなくていいと、自分の中で勝手に結論付けた―――こういう考えをしてしまって、己の発言を我慢できないところは僕の悪いところだろう。


「その言い草は…かなりきついな。まるで俺が悪いことをしてるみたいに…いやまあ嫌がることをしていなくはないか。」


 最初の印象とは打って変わって、冷静に自分の状況を理解するバースの様子は、僕と同じ十五歳にしては聡明に感じる―――そうやって上から目線で思っている僕はあまり聡明と言うわけではないけれど。


「別にバースは悪くないぞ。こいつが頭抜けて腑抜けの間抜けなのが悪い。」


 急にグレイの矛先が僕に向いてきた。いや、考えてみればこいつの矛先は元から僕にしか向いてなかった。別にそれで安心はできないけれど。


 そうやって三人(従者二人は除外)で話していると、いつの間にか授業の始まりを知らせる鐘が鳴った。時間を忘れて会話に夢中になっていたと捉えるならば、今後孤独がほとんど確定的だったオリオにしてみれば良いことなのかもしれない。


 ただし成績という面で話をするなら、遅刻はもちろん悪いことだ。遅刻による成績の上下には教員の主観が介入するが、基本的に少し下げられる。その『少し』が成績上位者になるための道を閉ざしかねないのだ。


「あーもう!もう遅刻なのは確定だから、せめて早く教室行こう!」


 そう言って早歩きで教室に向かいだす僕の背に、思いがけない一言が届いた。


「俺と一緒なら遅刻にはならないよ?」


「え。」


 振り返ると、バースがピースしながらこちらに微笑みかけていた。


「俺がテキトーな理由をでっち上げれば、教員はそれに歯向かう事は出来ないんだ。王族だから。」


 うぉー!まじかぁ!仲良くしといて良かったぁ―――なんて思っている僕とは対照的に、バースのその提案に不服な者が居た。この場で彼に不服を申し立てるような空気の読めない馬鹿な奴なんてもちろん一人しかいないだろう。


「そういう、権力を笠に着た行為は、流石王族と言ったところか?まったくもって腹が立つ。お前らのような人種はそれがさぞ当たり前のように過ごすのだからなおのことだ。先ほどまでの発言で、もしかしたらお前はそうじゃないのかもと期待したが、まぁ容易く裏切ってくれたな。結局お前は他のどの王家の人間と変わらない、人種や才覚は非凡でも性格が平凡の、平平凡凡のボンボンなんだな。つまらない奴だ。行くぞ、オリオ。」


 言い捨てるだけ言い捨てて歩き出したグレイを追いかけるように、僕も歩きだした。振り返ると地面を見ているバースの姿があり、従者たちはどうしようかと狼狽えながら彼の傍に立っていた。


 僕は正直、彼の権力を利用したかったので、グレイに着いて行きたくはなかったが、自然と体が動いたというか、流れに流されたというのか、僕は彼女に逆らえるほど強い人間ではなかったのだ。


 だから、どうして僕が彼女に気を許されているのか、全く分からなかった。彼女の言うところの非凡な人間ではないこの僕が。



☆☆☆



 そうこうしているうちに放課後を迎えた。あの後バースが僕に話しかけてくるなんて事は無く、授業中も彼は一番後ろの列でただこちらを眺めているのみだった。その様子がなんだか気味が悪く、いつもより教室に居づらくなっていた。


 授業後、逃げるようにして廊下に出て、まっすぐ部室へと向かう。本日最後の授業は生徒の選択によって変わる物であり、僕とグレイはそれぞれ違った授業を選択していたため、授業が終わってからずっと付きまとわれるなんて事は無かった。付きまとわれなくても部室に向かうのに。


 放課後になるまでの時間、ずっとこのサークルに入る利点ばかりを考えていた。正直利点が多すぎる。入らない理由がないくらいには。何よりあのグレイがなんでもいう事を聞いてくれるというのだから、もうすでに何を命令しようかワクワクしながら考えていた。


(あいつのことだから約束事は絶対守るだろうな……乱暴しないで…とかは別に命令するほどの事じゃない。そのくらい我慢できるし。剣術を教えて…は僕の首を絞めることになるだろうな。彼女にしかできないことを命令出来たらベストなんだけど…付き合って…とか?いや、それは流石に…いやでも…言ってみるのは…ありか…?)


 悶々と考えながら歩いていたら、いつの間にか部室に到着していた。


 僕は辺りを見回した。灰色の壁には、やはり様々な暴言が書かれており、このサークルが嫌われているんだという事が再確認できる。


 そして僕には一つだけ、気になることがあった。ここに来るまでの道、授業が行われる本館は人が溢れており、活気があって暑苦しかった。僕はそんな本館の空気があまり好みではなかった。


 一方様々なサークル、部活の部室があるこの別館は、どこか物寂しく、人通りも本館の十分の一程度だった。僕としてはこの別館の空気の方が好きだが、それでもどこか違和感を感じる。


 廊下で耳を澄ませると、別館の外で誰かが話していたり、鳥が囀っていたり、そんな音しか聞こえずに、別館の中は静寂で満ちている。授業中ならまだしも、放課後は様々な部活の部員が別館にひしめき合っていてもおかしくないはずだ。


 そんな疑問を抱えながらも、僕は部室の扉を開けた。


 やはりと言っては何だが、そこには彼女がいた。


「来たか、オリオ。私が見込んだだけはあるな。」


 グレイは口角を上げながら壁にもたれていた。部屋の奥の半開きになった窓から吹いてくる風が、彼女の髪を揺らす。陽光が銀髪に反射して、僕の目を奪う。こんな幻想的で美しいを姿見ると、まるで彼女が絵本の中から出てきた妖精か女神か、そのように―――いや、思えない。よく見るとあいつは獲物を見る目をしている。危うく騙されるところだった。


「僕は別に見込まれた覚えはないけど。というか部長とか他の部員さん達はいないの?」


 その質問をすると、待ってましたと言わんばかりに彼女は懐から紙を出して僕に差し出した。


「え、なにこれ。」


「なにこれも何もそこに書いてある通り、入部試験を行う。」


 グレイは壁にもたれかかるのをやめ、僕に正面から向き直った。相変わらずの身長差なので、彼女が正面に立つと圧を感じる。


 僕は手元に視線を落とした。相変わらずのチープで奇妙な絵柄の動物が描かれた紙には、大きく『魔研スタンプラリー』という文字が原色でカラフルに書かれていた。その下には五つの枠があり、その内一つにはまた気味の悪い動物(これは犬だろうか…)が赤いペンで描かれていた。


 とりあえず僕はその紙を懐にしまった。


「入部試験?このサークルに入るのには試験が必要なの?」


「当たり前だろ。逆に試験がいらないサークルなんてあるのか?」


 基本無いはずだが。僕が入学して間もない頃サークルに勧誘されたが、その時は名前を書くだけで入部判定になった―――それがおかしいのだろうか?


「とりあえず、入部試験の内容について説明しよう。まあお前でもできるくらいには簡単だろうよ。なにしろ現在入っている部員全員から判子を押してもらうだけなんだからな。」


 そう彼女は言うが、広大な学院を隅から隅まで探して判子をもらう事がそれほど簡単なことだと、僕は思えない。顔も知らないのだから不可能だろう。


「お前のことだから顔を知らないから不可能だなんて思っているんだろうな。」


 こいつは僕の心が読めるのか。ていうかもし僕がそんなことを思っていなかったらどうしていたつもりなんだろう。


「だから今回は私が案内人役をしてやる。前回はリーベ…おっと、危うく言いそうになった。まぁ試験が始まってからのお楽しみだな。」


 それをお楽しみにされても僕はおそらくちっとも楽しめないんだろうが、そんなことを彼女が考えられるなんてもちろん考えていない。


「まぁ…大体わかったよ。この試験に合格したらサークルに入れるってことね?グレイが僕の言う事を何でも聞いてくれるというわけね?」


「え、あぁ、確かに。そうだが?」


 こいつ忘れてなかったか―――と、様々な懸念点があれど、僕の魔術研究サークルへの入部試験が幕を開けるのだった。


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