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ようこそ!魔術研究サークルへ!  作者: 蓮根三久
物語の結末編
32/37

いったいどうしてあの帳太刀紅藕は

 高原にて、彼女らはゲエルギボヌスに相対していた。


「グレイ君、君も生徒なのだから、早いところ逃げなさい。」

「うるさい。私より弱い奴は全員逃げておけ。」


 先生相手でもいつも通りの態度をとる彼女に、しかし彼―――トールキンは、特に荒立った感情を見せなかった。


 彼は杖を構え、ゲエルギボヌスに向かって一言。


絶対固定オンフィールデ。」


 唱えると、ゲエルギボヌスの両腕両足は、空間にがっちりと固定され、動かなくなった。


「……はい?なんですこれは?」

「さあ、後は煮るなり焼くなり好きにしたまえ、グレイ君。それは君の自由だよ。」


 トールキンは言うと、他にも放たれた魔族の対処のため、林の方に駆けていった。いや、駆けていくより飛んでいく、の方が正しい。


「あいつ……案外強いみたいだな。」


 なんて、去って行ったトールキンの方を見ながら言うグレイに、ゲエルギボヌスは高らかに笑った。


「フハハ!!この程度、拘束された程度で私がどうにか出来るとでも?知らないようなら教えてあげましょう。私は魔王軍幹部が一人、不滅のゲエルギボヌス。かつて、あの忌々しい晨曦チェンシーに細切れにされましたが、見事に復活した存在です。私を討ち倒す手段など、世界のどこにも存在してなんかいないんですよ。」


 彼は再び、高らかに笑う。そんな彼を見て、グレイはぐにゃりと口角を上げた。


「どこにもない、だ?この剣を見てもまだそんな口が叩けるのか?」

「はい?剣?ただのなまくらでしょう、それは………いや、まさか……!」

「そう、そのまさか、聖石の剣だ。」


 聖石、それは魔法を封じる石。魔法を封じる結界の触媒としても用いられる素材であり、書こうが非常に難しいとされている。


 魔法を封じられるのなら、原理がおそらく魔法的な何かであるゲエルギボヌスの復活も、封じられる可能性がある。


「いやいやいや、そんな棒みたいな剣で私を殺す?無理でしょう。」

「……確か、こんな形だったっけな。」


 と、グレイは手に握った剣もどきの柄に力を込める。すると、灰色をした剣の刃部分が変形し、刀身の真っ直ぐな直刀になった。それはかつて、魔王を討伐した英雄、晨曦の剣と同様な形状をしていた。


「さあ、後悔しろ。」


 血の気が引いていくゲエルギボヌスの顔に、一閃、一閃、一閃、一閃、一閃、一閃。瞬間的に放たれた六つの斬撃は、ゲエルギボヌスの体を木っ端微塵に粉砕した。


「………さて。」


 逃げたオリオを追おうと、グレイは彼の痕跡を辿ろうとした。その時、後ろで何かが動いているような、そんな気配がした。


「ああぁ……クソが…別に危害加える気ねぇってのに…馬鹿みたいに抵抗してきやがって……復活にどんだけ魔力食うか分かんねぇんだろうなお前。」

「……復活するのか。」


 もう一度、グレイは剣を構える。そんな彼女の姿を見て、ゲエルギボヌスはというと、


「はあ!?やり合うわけ無いだろ!?流石に相性が悪いからな。お暇させてくれ!」


 なんて言う。毒気を抜かれそうになるグレイだったが、しかし、目の前にいるのは魔族だと、今一度心の中で呟き、剣を構え直した。


「誰が逃がすか!」

「逃がせよバカッもう戦意喪失したし、目的は魔王様の帰還だし、目的はもう果たしたから帰るのみなんだよ、バーカ。」

「……目的は果たした?」


 つまりは、オリオはもう―――


 グレイドールはなんとなく、オリオ・ベルベティオの正体に気付いていた、というわけではない。初めから明確に、彼の正体を知っていた。だからこそ、自分がどうにかしようと、自分だけの力でどうにかしようとしていた。常に彼の事を見張り、寮での生活も把握し、魔王を冠ししていた。


 もしかすると、愉悦に浸っていたのかもしれない。自分だけが彼の正体を知っている。自分だけが世界を守るために、使命を持って行動している。そんな特別感に心が躍っていたのかもしれない。


 彼女の敗因は、自分だけが知り得た情報を、他人に共有しなかったことである。また、本気を出す必要が無いと判断してしまったことである。その事実に、彼女はその場でぼうっと、ただ立ち尽くした。




 魔王軍幹部、メスピアが手を前に構えると、その先からサンダスに向けて火炎が噴射される。ガナードは長い槍を用いて、バースの剣技を捌く。二人ともゴスロリの服装をしているのに、よくもまああれだけ動けるものだと、バースは少しだけ感心した。


 そんな剣技の交差する戦いの最中、バースは、直角剣を用い、ガナードの首を刎ねた。


「…よしっ!」


 とガッツポーズをしたのも束の間、ガナードは地面に転がった自らの頭を持ち上げ、自分の首に差し込んだ。


「剣術とは下品な。槍術にしなさい。」

「ガナード、貴方死なないでくれます?油断しすぎです。血でドレスが汚れます。」


 ガナードのドレスは黒を基調としたもの。一方、メスピアのドレスは白を基調としたもので、汚れが目立ちやすそうだ。


 バースは隣に立つサンダスに、小さな声で話しかける。


「なあサンダス、こいつら、どうやったら死ぬと思う?」

「さあ。粉砕すれば復活しないかもしれないが……なかなか骨が折れるだろう…」

「オリオが逃げる時間は稼げたことだし、逃げたっていいわけだけど…」


 辺りを見回す。業火の海。逃げる事すら出来そうにない。


 バースとサンダスはいよいよ覚悟を決め、目の前に立つ二人に向かってその武器を振りかざさんとした。


 が、その手は止まる。


「もう面倒臭いですね。焼き殺しても良いですね?」


 メスピアの構えた手の先に発生した火炎が、あまりにも巨大だったからだ。その熱と圧に圧倒され、二人は思わず後ろに足が出る。


 バースは、しかし、サンダスの前に立った。


「な、おい…」

「まあ、俺に任せるんだ。」

「あらあら格好いいですね。じゃあ燃え死んでくださいな。」


 メスピアはそう言って、火炎を放った。バースの姿はその火の中へと消えて行く。サンダスはその姿に、英雄の影を見た。


「我も負けていられぬか…」


 サンダスは斧を構え直し、火炎の中に飛び込もうとした。しかし、たちまち目の前の火炎が左右に開いた。斬り、開かれた。


「サンダス!黒いのを頼む!」


 体中から水を滴らせたバースは、メスピアの胴に刃を食い込ませている。おそらく水筒の中に入れていた水を、頭からかぶったのだろう。


 サンダスは瞬時にガナードとの距離を詰め、その戦斧を振りかざした。ガナードは槍の柄でそれを受け止めようとしたが、それはあっけなく折れてしまい、体を縦に両断されてしまった。


「あらあらガナード、貴方は本当に死に過ぎですね。まあ、そう言っている私も、たちまち横断されてしまうのですけれど。」


 淡々とした宣言通り、彼女の胴は、上と下に真っ二つに分かれた。


 そんなグロテスクな相手を見下ろして、バースとサンダスは向き合い、ハイタッチをした。


「二人同時に倒せばよかったのか。」

「バース……お前は無茶をする奴だな。」


 言って、互いに笑い合う。そんな二人を横目に、彼女達は未だに口を動かしていた。


「いったい何が敗因だったと思います?ガナード。」

「さあ。火炎なんて非効率な魔法ばかり使う方のせいではなくて?」

「いえいえ。武器の中でも殊更扱いづらい槍なんかを、わざわざ好んで扱うような物好きのせいだと私は思いますけれどね。」


 胴で二つに分かれているのならまだ喋っていても分かる。が、顔を二つに分けられているのに喋るのには、さすがに悍ましいと、バースは思ってしまった。


「ほぼ死んでるのにまだ話すのか……」

「あらあら坊ちゃん、知らなくて?」

「私達を同時に倒すのはまあ、良い線を行ってましたけど、この場では私達を倒すことは出来ないですよ?」


 ぐじゅぐじゅと、気色の悪い音を立てながら、彼女達は再びその体を持ち上げる。その様子に、バースもサンダスも少し尻込みした。


「なぜなら私達は二人ではないから。三人目は、王城で待機中ですから。」

「だから私達は、元から本気などではないのですよ。目的も達したようなので、もう帰りましょう。」


 そう言って、彼女達はゆっくりと地面から浮かび上がった。逃げる気なのだと思ったバースは最後に一つ問いかける。


「おい、オリオをどうする気なんだ?」

「どうもこうもありません。ただあのお方には、思い出していただかなければならないのです。今までの魔王様の事を。」


 二人の魔族は台詞を言い終えると同時に、バース達の前から姿を消した。サンダスは少し暗い表情になったが、バースはそれほどでも無かった。


「………あいつ…魔王だったのか…」

「………さあね。分からないよ。あの魔族が勝手に言ってるだけかもしれないだろ?」


 なんて、実のところ彼は聞かされていたので、分かっていたことではあるのだが、それはまた、一つの疑問を産んだ。


 いったいどうしてあの帳太刀紅藕は、オリオが魔王だと知っていたのか、という事だ。


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