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ようこそ!魔術研究サークルへ!  作者: 蓮根三久
物語の結末編
28/37

ChenⅪ

「これが僕とアガーバ・ヤーゴさん、リーン・ウィズガ―ゴルさんとの出会いの物語……です…。」


「ふむふむなるほど。そういう関係だったわけか。」


 薄暗い部屋の中、紅藕は僕の目の前に座って相槌を打った。


 あの決闘から一週間、魔研から距離をとろうと決めていた僕の事を、許さない奴がいた。それが帳太刀紅藕である。


 廊下を歩いていた僕の事を、背後から捕まえてこの部室の椅子に縛り付けたのだ。


「まあ、あの人たちはこの国周辺で色々やってるから、遭遇することは別に不思議じゃないか。」


「何を疑っていたんです?」


 疑われても仕方ないが。というか、あの人たちが魔研と関りがあることも初耳だ。このサークルは一体どのくらいの影響力を持っているのだろうか。


 腕が苦しいので身をよじる。このままでは痒いところも掻けない。


「質問に答えたことだし、早くこの縄を解いてくれないですか?」


「…え?いやいやいや、まだ終わりじゃないよ。このままじゃ不公平だろ?」


「不公平?不公平って…?」


 もしかしてこの期に及んでまだ僕に何か要求をするつもりなのか。


 なんて心配は一切杞憂で、紅藕はいつも通りの不敵な笑みをこちらに見せつけた。


「君は私の質問に答えた。だから私も、君からの質問になんでも一つ答えてやろう。」


 それは初めての事だった。あの紅藕が僕のためになることをするなんて。いや、知らないだけで彼も色々やってくれているのかもしれない。


 とりあえず何か質問を考えようと首をひねったが、案外すぐに思いついた。魔研と関わり初めてすぐの時、金雀枝に問いかけたことだ。


「……じゃあ、グレイの事について……グレイのことをどうして魔族と呼んではいけないのかについて教えてほしい。」


 その問いかけに、彼は少しだけ唸って立ち上がる。そして部室に備え付けられている戸棚をごそごそと漁り始めた。


「……一般向けに改訂された晨曦のお話には、グレイの事は魔族に侵略された土地で保護した子供だ、とだけ書かれている。まあ、そんな魔大陸に人なんているわけがないし、髪の色が灰色と、とても珍しい色をしていたから、彼女は魔族扱いを受けて生きてきたんだ。」


 そんな境遇を聞いて、少しだけ顔が曇る。


「そう……だったんだ……あいつも僕と同じように虐められて……それでもそれに抗って強くなったのか……」


 だからこそ、グレイが弱者を虐げるのは理解できない。むしろ応援して然るべきなのに。ノブレスオブリージュだったか。強者は弱者を助ける…みたいな思想がこのサークルにあるのなら、いくら地雷原を踏んだからと言って、刃を向けてくるなんてことはあり得ないだろう。


 そんな思考に落ちる僕には目もくれず、紅藕は戸棚の中を探し続けていた。ついでに僕の台詞を否定しながら。


「え、あ、いやいや違う違う。一般向けに改訂されたお話には…って言ったでしょ?確かに彼女は様々な人から虐げられていたけど、それに抗って強くなったとか言う、安っぽい物語の主人公みたいな展開は無いんだ。」


 多くの所に喧嘩を売っている様な発言をする紅藕だが、やっと何か見つけたのか、僕に一枚の紙を差し出してきた。


「現実はもっと複雑さ。あるいは単純なのかな。彼女は元から強かったんだ。それに関してはこれを読んでくれたまえ。」


「……?これは…」


 『ChenⅪ』というタイトルのそれは、かなり皺になってはいるが黄ばんではおらず、比較的最近作られた紙に書かれた物語のようだった。


「晨曦が書き残した旅の記録。その原本の複製だよ。オリジナルはこの大陸の……聖教国さんに抹消されてしまっているからね。」


 その言葉を耳にしながら、僕は手元の紙に目を通し始めた。



☆☆☆



『どうも、晨曦です。たぶん、私の旅路は結構面白いものになりそうだなって思ったので記録を付けていきます。


この前文を書くのももう十一回目なのでそろそろ無しにしようかなって思うわけなのですが、しかし私のこの記録が全て残されるかも分からないので……いや“遺される”の方が正しいですか。きっと旅の終わりに私は死んでしまうので。


とりあえず、この記録は世界中の至る所に遺しているので、見つけた方は聖教国以外に渡してください。あんま好きじゃないので。


さて、では今回の旅についてお話していこうかと思います。大聖討滅たいせんとうめつが終わった後の話です。はい、私が単独で五万の魔王軍と対峙した話のその後の話です。


私は魔王城への道を歩いていました。何も無い、本当に何も無い荒れ果てた土地を歩き続けていたんです。一緒に旅する人はいないのかって……そりゃ大聖討滅以前に全員死にましたよ。だから単独だったんですって。馬鹿ですか?←空しすぎる問いかけね。


まあ偶に地中から魔物が飛び出してきて私の事を食べようとしてきたので、逆に食べ返してやってたんですが。うん、こういうところが聖教国――私の故郷とは相容れないんでしょうね。生きるためなら仕方ないことを、どうして縛り付けるのか。


さてさて、今回のお話の本題はその荒野の中にあります。魔物を殺して殺して殺して殺して、食って食って食って食って、殺して食って殺して食っていたその時、唐突にその円環の様な流れが途絶えたのです。ぱったりと。


もちろん私は現れた敵、その全てを殲滅し尽くしていました。私が魔物程度に後れを取るわけが無いんですよ。食欲がなくなることももちろん無いです。膨大なエネルギーを生み出すためには大量の食事がいりますので。


つまり無くなったのは魔物――食料というわけです。


いやいやいやおかしいだろって、侵略された聖教国大陸から魔物がいなくなるわけないだろって、そう思う人が多いでしょう。実際、そこ以外は魔物溢れるまさに天国(魔物を食べない人たちにとっちゃ地獄ですか)だったわけなのですが、しかしつまりはそこには魔物なんてなあんにもいなかったというわけなんです。マジで、なんにも。びっくりするくらいね。


そんなわけで、違和感でしかないそこを調べてみることにしたんです。まあ、そこと言っても半径二キロメートルくらいの範囲なんですけど。


最初の内はなんにも見つかりませんでした。魔物が出てこないし普通の動物がいるわけ無いので餓死しかけて、土の中にいたミミズとか食ってました。これは冗談です。普通に魔物が出てくる範囲まで行って、狩っては食ってました。


で、ある時思ったんです。魔物が出てくるのは地下からで、じゃあ出てこないんだったら、地下に何かあるんじゃないかなって。


そうと決まればもう掘り進めるだけ………と言っても、私の持ち物は動物の皮で作られた水筒と、刀身が真っ直ぐな刀のみ。およそ穴を掘るのに適した装備ではないので、ここからもかなり長かったです。


一週間程掘り続けてやっと、空洞にぶち当たりました。薄く発光しているそこは、水晶の洞窟かと最初は思ったのですが、しかし魔物が避けるところにある鉱物ならば一つしかありません。そう、聖石です。魔物に対抗できそうな性能をしてるくせに加工しようとしたらすぐ粒子になりやがる、クソ脆い灰色のアレです。


そんなもの見つけても嬉しか無いんですよ。もっとマシな食糧とかあればいいのに…って、洞窟にそんなものがあるのは童話の世界だけですわね。


だけれど、くそったれって思って、仕方なく地上に戻ろうと視点を下から上に動かしたその時、ある物が視界に入ったんです。


それはその周囲の聖石と比べると遥かに巨大で、そして明るく光っていました。あと、それの他の聖石と比べて異なる点と言えば、空中に括りつけられていたことですか。灰色の鎖で縛り付けられて固定されていたんですよ。


気になって近寄ってみると、聖石の先に何かあるのが見えました。じっと目を凝らして見ると、それは人だったんですわ。聖石の先ではなくて、中に封じ込められている様に入っていたんです、灰色の少女は。




 嫌な予感がね、もうクソビンビンになっちゃって。だって、見るからに聖石に封じられてるから、クソ強い魔族か何かに決まってるじゃないですか。お腹が空いてたのでもし戦いになったら手こずるだろうなって、そう思ってたら、なんと目の前でその聖石が崩れやがったんです。


もう笑い止まんないって。なんでこう、私が嫌だなって思ったことばかり起こるんだろう。大聖討滅の時もそうだった。まあ、魔王軍幹部のゲエルギボヌスが十回も復活して、私以外の仲間を全員殺した時が一番衝撃というか、呪われてるのかって思ったけど。


で、聖石が砕けて少女が出てきたんですけど、中に入っていたのは彼女だけじゃなかったみたいで、彼女の手に木の棒みたいのが握られてたんです。その木の棒に、砕けた聖石が集まりだして、やがて剣の形を作り出したんですね。


そして彼女はこちらを振り返りました。その目からはおよそ意思とか、随意性を感じられなかったです。まるで人形の様に。


そうやって観察していたら彼女はその手に持った剣で私に斬りかかってきました。咄嗟に体を後ろに反らせて避けれたからよかったものの、当たっていたら、背後の壁の様にきれいな直線がその胴体に刻まれていたでしょうね。脆い聖石でここまで出来るのは神業としか思えない。


『殺すために斬る』としか形容出来ないその所作には、迷いも無駄も一切無くて、一瞬見惚れてしまいました。まあ私が少女相手に後れを取ることなんて無いというか、この文章が遺されている時点でそれに関しては自明でしょう。


二撃目が放たれるその直前、彼女の両肩を掴んで地面に押さえつけ、武器を地面に弾き飛ばして身動きを取れなくしてやりました。


普通ならそこでもがいて抵抗するところだと思う。ていうかそれを見越して押さえつけたんだけど、彼女はガチで何の抵抗もしなくなったんですよね。ただ感情の灯っていない青い瞳と見つめ合ってました。


「……どうして抵抗しない?」

「勝てないから。」


その発言からも、意思なんてものは感じない。無駄なものが無い。発言を発言しているだけ、なんて表現ががっちり当てはまる様な話し方で、なんだか毒気を抜かれたんですね。


だから私は彼女の上からどいて、手を差し出したんです。彼女はそれの意味も考えず、その手を取りました。


「私についてきな。お前に人間性ってものを教えてやろう。」


―――という感じで今回の旅のお話は終了。次回が気になるんだったら私が生きていることを願ってくださいよ。


まあ、今のところ彼女は私に心を開いてないんですけど。


単純に口を聞かないとか無視をしてくるとかだったらまあ何とかなるものなのだけど、そういった典型的な抗う行動を全くしてこないで、ただ出された食事(魔物)を食べて、私の後ろをついて歩くだけ。何を考えているのか分からな過ぎて怖い。名前が無いと不便ですので、灰色で、人形みたいな彼女の事は、一旦グレイドールと呼ぶことに決めました。


人間なのか魔族なのか全く分からないけど、まあどっちでも私の敵ではないので。←こんな思考が聖教国と軋轢を生んでるってことをいい加減知った方がいい。


ま、これが英雄譚として掘り出されて加工されたとき、私は“聖教国の生んだ英雄様”という呼び名をほしいままにしてしまうんでしょうが、もしこれを見つけたのが純粋に生きる人であるのなら、私の事は唯の英雄として扱って欲しい。


 よろしくお願いします。




 ………まあこれで私が生き残ってたらなんかダサいですね。』


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