表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ!魔術研究サークルへ!  作者: 蓮根三久
物語の結末編
27/37

鬼ごっこはおしまいだよ

(…これ…ひょっとするとかなりまずい状況…!?)


 普通は盗賊団に囲まれた時点でまずい状況ではある。警戒心も危機感も足りていないオリオは、どうせ何とかなるだろうという思考が頭の中にあった。それは、どんな時でも助けてくれる両親がいる環境で育ったせいであり、彼に一人で生きていく覚悟という物が足りなかったせいでもある。直接的には彼のせい、しかし間接的には彼の親の過保護のせいである。


(や、やばい…どうしよう……!どうしよう!ど、どうしよう…!?)


 彼の頭は麻袋という密閉されて外の情報が一切入らず、少量の酸素しか供給されない空間、それと未知の恐怖のために、使い物にならなくなっていた。


(ど、どうすれば…ど、どう…どうしたら…?)


 ドサッと、どこかに置かれた。おそらく盗賊の荷車か何かだ。そんなことはどうでもいい。早いところここから出なければ。


 僕は麻袋に両手の平を当てた。


(……燃えろ!)


 手の平が当たったところがだんだんと黒く焦げていく。手が入るくらいの隙間ができたため、僕はそこを掴んで麻袋を引きちぎった。


「はっ…はっ…はぁ…で、出れたぁ…」


 出れたのなら、とっとと逃げるべきだった。ついでに、何も言わなければ背を向けている盗賊に気づかれることも無かった。


「おい、逃げるな!」


 その一言で、他の盗賊たちがこちらを向いた。


「これは…流石にやべー……」


 荷車の上からある程度の盗賊の人数を数えながら、おおよそ二十人以上いるのを見て、僕はつい溜息を吐いた。


 すぐ近くにいた盗賊が、僕に手を伸ばしてきた。僕はよろめきながら、咄嗟にその人めがけて火を放つ。髪が焦げたときの独特な匂いが鼻を刺激した。


「おい、誰かあいつを捕らえろ!分け前増やしてやるからよ!」


 誰かのその一言で、盗賊達が目の色を変えてこちらに向かってきた。僕は振り返り、林の中に身を潜めようと走った。枝木が顔に当たるが、無視して走り続ける。


 しかし、子供と大人の身体能力には大きく差がある。すぐに一人に追い付かれ、腕を掴まれた。


「ほ~ら、鬼ごっこはおしまいだよ~。お兄さんたちと一緒に行きましょうねぇ?」


 僕は腕を下から突き上げる動作をした。


「…?何してんだ?あ、とどいてないよ~ん。お手手短いね―――」


 言葉を遮り、盗賊の立っている場所から木の根がせり出した。盗賊は思い切り打ち上げられ―――その後は分からない。死んだのかもしれない。


(考えるな!クソったれ!今は何より生き延びるのが最優先……)


 思考がそこまで巡った時、頭に一人の人物の顔が浮かんだ。


(…いや、あいつは僕のことを売ったんだ…売って自分だけ助かろうとしてた…だから……だから…)


 僕は振り返り、追っ手を数えた。見える範囲で十人程度。


(この程度なら、火を放つでも根っこを突き出すでもやりようはありそうだな…もしくは……)


 僕は両手を地面につけた。すると、盗賊達は揃って木に登った。


「あの根っこ攻撃だ!地面の変化に警戒しろ!」


 どうやら学習しない馬鹿ではなかったらしい。こちらとしてはそうであってほしかったのだけど。とにかく、彼らには単純な攻撃は通じないようだ。そのため―――


(燃えろ!)


 次手見え見えの姿勢フェイント。手を前に出し、木の上の方めがけて火を放った。もちろん彼らは避ける。それは予想済みだ。続いて、先程より低く腕を突き上げた。すると、地面を割って木の根が出現し、彼らに覆いかぶさる形になった。


 木の根や、それに巻き込まれた蔦などが絡まり、彼らの身動きを封じる。


「…クソ!こんな凄腕の魔術師がいるなんて聞いてねぇぞ!」


 捕らえた一人が呟いた。なので僕はそいつの上に立ち、間違いを訂正してやる。


「僕は魔法使だ。魔術師と一緒にすんな。…彼らに失礼だ。」


 吐き捨てた後に、馬車のあった場所へ急いだ。地面からところどころ木の根が隆起した状態になっている林は、歩きづらいなんてものではなかった。


(カラス…生きてるかな…?)


 そんな心配をしながら、林を走り抜ける。放った火のおかげで枝木は焦げ落ち、地と比べて空の方が移動しやすくなっていた。


 焦げ臭い臭いが鼻を衝いて、僕をむせさせた。その瞬間、僕の鼻から血が零れた。


(…!?これは…)


 血がたらりと流れ落ちる。量としては少ないが、まず出血すること自体が問題である。僕は鼻をこすって血を拭った。


(魔法を使いすぎた…火はやっぱり使うべきじゃなかった……)


 基本的に、魔法という物は燃費が悪い。


 空気中に漂う魔素という目に見えない物質を、自らの力に変換して放つ。例えば、手で触れた魔素を超高温にして放つ。これが先ほどやっていた火の魔法だが、放つことはできても、操ったり速さを変えたりなどはできない。


 同じく、木の魔法も、木の根を突き出すことができても、それ以外はできない。せいぜい放つ角度を手の動きによって調整することしかできない。


 両魔法の違いは、魔素を変換する効率のみだが、細かいことはオリオも知らない。ただ、火の魔法が燃費が悪いことだけは知っている。


(もう火は使えない…木だけで戦わないと…)


 思考を巡らせながら、やがて馬車のあった場所についた。そして、目に入ったのは、斧を持った屈強な男が、縛り付けられたカラスにそれを振り下ろさんとしている光景であった。


「やめろ!」


 根を放つ。しかしそれは、彼の斧の一振りではじかれてしまう。男が僕の方を見た。


「……もはや聞かなくても分かるが…」


 彼の傍にいる、小柄で深くフードを被った人が、カラスの腕をつかみ、荒縄で縛った。そして、他に縛られた者たちと同様に、地面に投げ捨てられた。


 男の方は斧を肩に担ぎなおし、こちらに向き直った。


「お前……こいつらの仲間だな…?」


「え、いや違う!」


 男は斧を担いだまま、もう片方の手で顎を触った。無精ひげが目立つ彼の目は、光を反射していなかった。



×××



「…ふむ……この期に及んで自らは、助かろうとするのか…やはり、下賤な者の思考はどれも同じなようだ。」


 男は斧を下ろし、横に歩き出した。僕はそれに合わせて反対方向に歩き出した。互いが互いを正面で見ようと、円を描くように歩く。


「先ほど縛っていた男は…こんなことを言っていたぞ?”俺は盗賊じゃない。ただの商人だ。”とな」


 その発言が少し引っ掛かったが、そんなことをいちいち気にしていられる状況でないのは自分が一番分かっている。


「そうだ。カラスは僕を王都に送ろうとしてくれていたんだ。商人とは言ってなかったけど...その道中で盗賊に襲われたんだ。」


「…ふむ。では貴様は、自らは盗賊でない……と、そう言いたいのだな?………ふむ、なるほど。なるほどな。」


(…伝わったのか…?表情が何も変わらないから分からない…)


 男の顔は、まるで金属か何かなのか知らないが、唇以外が微動だにしていない。瞬きもしていないだろう。僕は彼のことが、まるで獲物を見つけた蛇のように思えた。


「ウィズガ―ゴル!」


 男が小柄な人の方を振り向いた。小柄な方の人は懐から木の枝のようなものを取り出し、僕に向けた。


「情報開示せよ《エクサシンフォ》!」


 叫び声と同時に閃光が僕の体を貫いた。しかし、不思議と痛みは感じなかった。僕を貫いた閃光は、その人の持つ木の枝へ帰って行った。


 その人は手に持った枝をじっと見て……三秒くらい経っただろうか、屈強な男の方へ走って行った。その拍子で、彼女が被っていたローブが脱げた。白い髪ととがった耳、本で読んだことがある、きっと彼女はエルフという人種だろう。


「ヤーゴさん!彼一般人です!本当に無関係でした!」


 ヤーゴと呼ばれた男は、再び顎を触った。


「………ふむ。魔術の構成を間違えたの……か?」


 エルフの女が彼の服の裾を引っ張った。


「んなわけないでしょう!ほら、行きますよ!」


 彼女が彼の腕を掴み、引き摺るような形で僕の前にやって来た。遠目で見たときはエルフの女は身長が低いと思ったが、僕よりは高かった。おそらくヤーゴの隣にいれば何でも小さく見えてしまうのだろう。それくらい、彼の身長は高い。


「いやほんとごめんね!てっきり盗賊の仲間の魔術師だと思ってて……」


 頭を掻きながら、彼女は謝罪をしてきた。横に立つヤーゴの方はずっと斜め下を見つめており、僕と目を合わせようとしない。


 僕はエルフの方を見た。


「いえ、大丈夫です。お互い怪我はなかったようですし。あ、それと僕は魔術師では…」


「だろうな…技が洗練されていなかった……純粋な力の放出……と言った感じだった…まだ荒い…」


 口を開いて何を言うかと思ったら貶された。彼の方を向くと、目を逸らされた。


「ちょっと何言ってるんです!?そんな事ばっか言ってるから自警団の評判が良くならないんですよ!」


「それとこれとは…関係ない…。少年…」


 急に彼の方から目を向けてきた。光を反射しない、漆黒の瞳。見つめられると自然と体がこわばる。


「え、な、なんです?」


「君は……力に恵まれている…才にも…。しかし……それでいつでも…何とかなると思わないようにするんだ………盗賊を倒して…自信がついたのだろう?はっきり言おう…それは……まぐれの結果に過ぎない。盗賊達が…君を舐めていたから…何とかなった………生き残れた。実際我は…君の攻撃を片手で防いだ。子供だったのと……服装や…顔つきで判断して……瞬時に捕らえるのをやめた……観察しようとした。それが無ければ…君は我と話す間もなく簀巻きだった……。それに―――」


「もういいでしょ!?」


 エルフはヤーゴの長ったらしい台詞をぶった切った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ