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ようこそ!魔術研究サークルへ!  作者: 蓮根三久
決闘編
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才の無いあなたの戦いに幸運を

 そうして、二日後。土曜日で授業がないこの日は、僕が彼と決闘をする予定の日だ。今日は朝から快晴で、風も適度に吹いている。問題なく試合が行われるようで安心した。


 僕は自分の胸に手を当てた。鼓動が早い。思ったより安心できていないようだった。


「すごいですね。単純に驚きです。あなたが決闘を受けるなんて。心変わりでもしたのですか?オリオさん。」


 ベンチに座っている僕に、教頭先生が話しかけてきた。彼女とは久しぶりに会うが、相変わらず元気そうだった。


「リズベル教頭。紅藕って人が、僕に決闘をすることを強いたんですよ。僕は今も昔も変わらず、他人の言いなりに人生を生きてます。」


 僕はベンチに立てかけておいた剣を掴み、立ち上がった。この剣は全く特別なものではなく、一般的な、ありふれた形状をしている。


「あなたにあの時言おうか迷いましたが…やはりあなたはひねくれていますね。でも、良い成長です。やはりあなたを育てるのは私などではなく、学友の方だったようですね。」


 それは確かにそうだけど。


 僕は剣を片手に、騒がしい方へ歩き出した。


「勝って来なさい、オリオ・ベルベティオ。才の無いあなたの戦いに幸運を。」


 リズベル教頭はそう言って、僕とは反対方向に歩き出した。


 僕が通路を抜けると、これまで聞こえていた歓声がブーイングに変わった。闘技場の観客席には人がひしめき合っており、そこまで見物する価値はないんじゃないかと、僕は思った。


「帰れー!」


「誰?あのチビは。」


「魔族野郎がー!」


 どうしてこんなに言われなければいけないんだろう。僕はそんなに悪名高い人間じゃないと思うのだけど。しかし、それも今日で払拭される………そのはず。


「はい、皆さん静かにして下さい。」


 決闘の審判が声を張り上げた。しかし、誰も静かにしようとしない。


「あの、皆さん、静かにして下さーい。」


 二度目の訴えも空しく、数人しか静まらなかった。それにしびれを切らした審判は足を思い切り踏み込んだ。すると、大きな音を立てて、闘技場の床面に大きな亀裂が出現した。


「お前達、いい加減に静かにしないと、ここから帰さないから。一生。」


 三度目の忠告で、やっと闘技場全体が静まり返った。そして、闘技場の中心に決闘をする二人が出そろった。


「…勝てると思っているのか?」


 男は僕を見下ろして言う。それを僕は鼻で笑った。


「……一つだけ勘違いしてるよね?」


「……何?」


 頭の上にはてなを浮かべる彼に、僕は口角を上げた。


「そっちが決闘申し込んだんだろ?挑戦者のくせにでかい口叩くなよ。」


「お前がチビだからでかく見えるだけだろうがな。」


 うまく言い返されて、僕は口ごもってしまった。これでは試合前なのに結してしまったかのようだ。僕は少し恥ずかしくなって後ずさりした。それに合わせて、彼も後退した。


「両者、準備完了しました。では、始めましょう。」


 審判が僕と彼の間に立った。幸い、僕が言い負けたのはばれていないようだ。


「東、オリオ・ベルベティオ!西、サンダス・ヤーゴ!試合、始め!」


 巨大な戦斧を持ったサンダスが、こちらへゆっくりと歩み始めた。



 闘技場には、シグネウィリトンの生徒はもちろん、一般の観客も入っている。そんな、人でごった返す闘技場の一角に、彼らはいた。


「で、どっちが勝つと思う?」

「サンダス・ヤーゴ。」

「サンダス・ヤーゴ。」

「サンダス・ヤーゴ。」

「お、オリオ…さん…」

「サンダス・ヤーゴ四票、オリオ一票。ま、だよねぇ。なんで私の助言をガン無視してんだって話だしね。」


 紅藕は、水筒のお茶を飲みながら言った。


 現在、彼らは少し苛立っていた。理由はもちろん、新しく入ったオリオとかいう部員が、自分達の助言を無視し、ついでに部室にも来なかったからだ。


 グレイにいたっては、理由も分からないまま会話を拒否されているので、行き場のない怒りをあらゆるところに発散していた。


 そんな彼らの後ろから、迫りくる影があった。


 その影は、紅藕の頭を後ろから鷲掴みにした。


「え、何?誰?」


 紅藕は振り向いた。そして、椅子から転げ落ちた。


「健在か?……魔術研究…サークルは。」


 男は、傷だらけで太い腕を伸ばし、紅藕を持ち上げ、改めて椅子に座らせた。紅藕は目を輝かせ、その男の手を握った。


「ご無沙汰しています!アガーバ・ヤーゴさん!」


 その言葉に、全員が振り返った。


 アガーバ・ヤーゴとは、三十年前の魔術研究サークルのOBである。どうして紅藕が彼の事を認知していて、彼が紅藕の事を認知しているかというと、それは魔研の部長だからという事に他ならない。歴代の部長同士では、学校を卒業した後でも交流を続けるルールを初代の部長が強いたので、彼らは知り合い同士なのだ。


 そして、アガーバ・ヤーゴはサンダス・ヤーゴの親でもある。


「今日は息子さんを観に?」


 紅藕は気さくに話しかけた。それ以外の現役メンバーは、少し気まずそうに試合を観戦していた。


 問いかけられたアガーバは、頭をポリポリと掻いて、歯切れが悪そうにした。


「あー、ま、し…心配で。」


「言葉足らず男!もっとはっきり言いなさい!」


 急にアガーバの後ろから、元気で明るい声が響いてきた。少し暗めな彼とは対照的に、彼女は恐ろしいくらい明るかった。


「あ、どうも、あたしリーン。リーン・ウィズガ―ゴル。リーンって呼んでね。」


 黒い長髪を後ろで一括りにした女性が、紅藕に気さくに話しかけた。しかし、そんな彼女をアガーバが小突いた。


「…おい、知らない人が来て…困ってるだろ。」


 気まずくて目を逸らしている部員達をみながらアガーバは言った。知らない人には彼も含まれているのだけど、と部員の数名は思った。


「あ、で、本当は何の目的でここに来たんですか?」


 問いかけると、アガーバは少し悩んだ。


「……あの片手剣の子…オリオ。彼とは知り合いでね…元気にやってるか様子を見に来た…」


 実の息子より、血のつながってない知り合いの方を優先して様子を見に来るなんて、この人は変わっているな、と紅藕は思った。しかしそれよりも、オリオと彼が関係を持っていることの方が、紅藕にとっては驚きだった。


「オリオ君と、どこでお知り合いに?」


「あの子が入学試験を受けに向かう道中で知り合ったのよ。あたしはあの子の…姉?アガーバさんは師匠?みたいなかんじかな?」


「お前が姉なら…オリオは最低でも二百歳以上になるだろ…」


 アガーバの物言いに少し引っ掛かり、紅藕はリーンの方を見た。よく見ると、彼女の長髪から少しだけ、尖った長い耳が出ている。俗に言う『エルフ』という種族だ。エルフは人と比べると長命で、長い者で一万年生きるのだとか。若く見える彼女も、ここにいる部員の年齢を全て足して二を掛けても勝てないくらいの年齢だろう。


 アガーバは、無表情で試合を眺めていた。


「オリオ君は、一度戦斧使いの戦いを見ている…だから、それの強いところ…弱いところを把握しているのだ。だからこそ、我らはオリオ君にベットした。」


 そう言って、アガーバは赤色のチケットをひらひらとさせた。それは、今日の決闘でどちらが勝つのか予想する賭けのチケットだ。赤色はオリオ、青色はサンダスで、無論今日は青色のそれを購入している者が多い。


「我が息子がどれだけ成長しているか…それが未知数だが…魔研に属していないようなら、相変わらずなようだな。」


 アガーバはそう呟いて、魔研の面々が座る席を離れた。リーンも「じゃあね!」と言って、彼の後を追いかけていった。


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