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ようこそ!魔術研究サークルへ!  作者: 蓮根三久
決闘編
17/37

という事で、僕の平和な学院生活は、早々に終わりを告げたのであった。

「え、た、食べるの?巨大蛙魔を?」


「はい、食料に困ったときとかは食べてましたね。でも脂っぽくてそんな美味しくないので出来る事なら食べたくないですね。なので『早漏眼鏡』さん、蛙関係の物は渡さないで下さいね。」


 僕が『早漏眼鏡』と言う度に紅藕は噴き出しそうになっているのだけど、この言葉には何かしらそういう下の意味があるのだろうか。


 分からないが、彼は噴き出すのを何とか堪えて口を開く。


「蛙関係の物をお詫びの品として用意する人がいるは分からないけどね!」


 と、そんな風に、この後も雑談しながら質問に答えていった。結局この行為の意味はよくわからなかった。そして、時間的に最後の質問がやって来たその時だった。


「PN.『上手に書かれた屏風の坊主』さんからのお便り。『オリオ君こんにちは。実は私はオリオ君の事を入学当初から見ておりました。』お、らしいよ?『そこで最近、気になったことがあるのですが、どうやら現在のあなたは魔研の人達と付き合いを持っているらしいじゃないですか。私としては、あまりお勧めできません。なぜなら、魔研に入ると、常に命を狙われるからです。』はい、そうですね。」


 サラッと流しているけどとんでもないことを言っている気がする。しかしこの質問をした人は一体誰なのか。僕の事を入学当初から見ている人なんて、グレイ以外に思いつかないのだけど。


「『剣術学院で魔術を研究しようとしている悪徳集団に入って命を危機にさらすのなら、これまで通りの生活を続けていた方が良いと思うのですが、そこの所どうなのでしょう?』らしいです。」


 僕は紅藕に「らしいです。」と話を振られても、少しの間黙ったままだった。


 頭の中で考える。魔研に入るか入らないか。もうすでに入っているのだけど、しかしこれはやめる選択肢もあるという事だ。普通、そんな事僕に言うだろうか。


 そもそも魔研に入ったら命の危険があるなんて知らなかったので、それに少し衝撃を受けたのだけど、それでもなお魔研に居たいかという、紅藕の僕への問いかけなのだろう、この質問は。


 どのみち、答えは決まっているけれど。


「まあ、普通だったらそう思っても仕方ないでしょうね。でも僕はそもそも魔術を学びたかった人なんですよ。外様が何を言っても、僕は魔研と関りを持っていきたいと思います。ま、グレイにはもっと常識を身につけてもらいたいんですけどね!」


「命令権を使えばいいじゃん?」


 突然、意外な角度から突かれた。いや、意外どころじゃない。この文脈的に、僕がグレイに命令する権利を使えばいい、と紅藕は言っていて、しかしそれはグレイと一対一の時にしかしていない話だ。


 なぜ彼がそれを知っているのか分からないが、とりあえずここはとぼけておくことにした。


「え?何のことですか?命令権?」


「私達は校内の至る所で行われる会話を収集している。君の事はマークしていたからね、ちょうどその時君が居た区画に設置しておいた録音機器で、君とグレイの会話は筒抜けだったよ。ついでに君とリズベル教頭の話もね。ま、今日の君は我慢することを忘れていたようだけど。」


 という事で、僕の平和な学院生活は、早々に終わりを告げたのであった。いや、元々グレイと出会っている時点で相当終わってたか。


 まあ、そうやって片付けてしまいたいのは山々だが、そんな簡単に片付く程、人生と言うのは単純じゃない。この人に嘘は通じないという事は分かった。だから、今後の行動が重要になってくる。


 考えるんだ、オリオ。


 いや、考えるのは無駄だ。


「我慢にも限界はあります。僕は今日、ゆっくり昼寝をするつもりだったのをバースに邪魔されて、それで仕方なく行った鍛錬もグレイにめちゃくちゃにされて、僕の思い通りにならない事ばかり起こるんです。」


 僕は自然と言葉を口から出せていた。紅藕に心を開いたという事か、もしくは彼をなんとも思っていないのか。とりあえず、何も考えを持っていない今、この瞬間だけ、僕はちゃんと本音で話せている気がした。


「もう、何が何だか分からない。人の善意も悪意に思える。僕以外の人が人でないように思える。きっと僕がグレイに『守って』とか『ちょっかい出すな』とか言えば、大体の問題は解決するかもしれない。けどそれはなんだか違う。」


 紅藕はただ黙って僕の話を聞いていた。こういうときにしっかりと気を遣えるのはモテるポイントだ。髪がないからモテなさそうだけど。


 その時、紅藕が口を開いた。


「つまり君は、負けたくないんだろう?」


 彼の言葉が突き刺さった。「負けたくない」?考えたことも無かった。僕は負けたくないのだろうか。自分ではよくわからないけれど、言われてみるとそうなのかもしれない。


 シンプルで、誰が言っても同じような平凡な言葉だが、その言葉は僕の心を大きく変えるための要因になった。長ったらしくて回りくどい言葉や、遠回りだが僕の事を思っていることをちらつかせる素振りなどより、当たり前だが遥かにまっすぐ僕の心に届いたからだ。


「負けたくない…本当にそう…なのかな……だとしたら…何に…?」


「この世界に、だろう?」


 僕は紅藕の顔を見た。彼はいたって真面目な顔をしている。僕は少しだけ笑いそうになった。


「この世界に…?何を言ってるんです?」


 紅藕が僕の顔を見た。


「………………」


 無言で彼はしばらく僕を睨みつけた。僕はその圧がなんだか怖くて、口を開くことも出来なかった。グレイに睨まれる時とは違う感覚。


 やがて痺れを切らしたのか、彼は口を開いた。


「言葉の意味は自分で考えるといい。とりあえず、一旦君に課題を課そう。」


 そう言って彼は立ちあがり、部室の扉のノブに手を掛けた。


「この一週間で君は、剣のみを使ってグレイ以外の生徒から一本を取ってくるように。おすすめは、単純で忠義に厚い者かな。出来なかったら、君の未来はほとんど閉ざされるものと思ってね。」


 そう言い残し、彼は部室から出て行った。扉が閉まるのと同時に、予鈴が僕一人しかいない部室に響いた。


 唐突に出された難題に、僕は溜息を吐いて学院を後にした。


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