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ようこそ!魔術研究サークルへ!  作者: 蓮根三久
入部試験編
11/37

キャラ変か?グレイドール。

「リーベリオット先輩は魔道具を作るのが得意なんだ。つまり頭を使ったことが特に得意ということで、またこの地図も頭を使わないと解けない暗号のようなものだと考えられるんだ。」


 グレイが廊下を先行して歩きながら言った。僕と金雀枝は、地図を見ながら歩くグレイの後ろをついて歩いていた。


 正直、先程図書館で僕のみっともない姿を金雀枝には見られているし、グレイとの間には溝が産まれているので、かなり気まずい。


「この地図にも何かしら謎解き要素があるのだろうけど、正直私には分からないんだ。」


 僕は、今のグレイの様子が少しおかしいことに気付いていた。単純に、頭に登った血が下がって冷静になったから、反省して態度を改めたと捉えられるが、もしかしたら僕が思い描く最悪のパターンがあり得るかもしれない。


 隣を歩く金雀枝に小声で声をかけた。


「もしかして…なんですけど、グレイに僕が泣いてたこと…言ったりしてないですよね…?」


「え、えぇ!?い、言ってなんか、な、無いですよ?」


 そう言って彼女は前髪を整えて目を逸らした。明らかに言ってる反応である。


(これは本格的にまずいことになったぞ…実質弱みを握られたも同然…泣かされたなんてクラス中に広められることがあったら……)


 ここで僕は気付いた。グレイがクラスの誰かと話すことなんか滅多にない(そもそも話せる人がいない)ので、誰かに言いふらされることなんて無いという事に。


 それでも弱みを握られている事には変わりないが、僕はその問題は後回しにして、金雀枝に気になることを聞くことにした。


「ところでなんですが…金雀枝さん。どうしてグレイに『魔族』って言っちゃいけないんですか?」


 そう尋ねると、金雀枝はグレイの方をちらっと見た。彼女は無言で前を歩いている。しかしその無言が金雀枝は怖かった。軽く圧をかけられている感じがして、もし一言でも失言をしたら、オリオと同じように泣かされるのではないかと、そんな不安感に駆られた。


「え、えぇっとですねぇ……うーん…い、言っていいのかなぁ…?」


 と、しきりにグレイに目線を送る金雀枝だが、当のグレイはこちらを見向きもしない。


(だ、ダメだったら流石に止めるでしょ…う、うん、大丈夫…だよね…?)


「えっと…グレイさんは…ですね…」


 喋り始めてからも、金雀枝はグレイの方をしきりに確認していた。気持ちは分かる。


「あ、そ、その前に、お、オリオさんは『英雄様」ってご、御存じですか?」


 僕は頭を掻きながら答えた。


「聞いたことも見たことも無いですよ。それとグレイがどんな関係があるんです?」


 そう尋ねると、彼女はあまりにも意外だという表情をそのままに、話を続けた。


「じ、人類最強の英雄、晨曦チェンシー様。もう何十年も前、ま、魔族の王、魔王率いる軍団がこの大陸に攻めて来た時、単騎突撃して軍を退け、さ、最終的に魔王を討ち取ったお方…お、親から寝る前に聞かされたことも無いんですか?」


 親は嫌いだから、僕は物心つく前から一人で寝ていた。とりあえず、その英雄の話は子供でも知っているような、一般常識の話らしい。


「で、それとグレイに何の関係があるんですか?まさか血縁とか?」


 金雀枝は俯いた。


「血縁だったら…よ、よかったんですけどね……オリオさんは、晨曦様が魔族の領土で保護した子供の話は……知らないですよね。では―――」


 彼女が続けようとした時、突然前を歩いていたグレイが立ち止まり、こちらを振り返った。相変わらず美麗な顔立ちで、そして無表情だった。


「そこまでにしろ。いや、そこまでにしてくれないか?金雀枝。」


 その発言で、二人に緊張が走る。普段の彼女であれば、本当に言われたくないのならまず言葉ではなく暴力で伝えようとしてくる。


 であるのに、彼女は文明人らしく言葉を使い、そして普段の命令調ではなく、懇願するように話すのだ。その彼女の様子が、僕と金雀枝は不思議で仕方なかった。


「わ…わかりましたよ。あなたが嫌がるなら…言わないです。」


 金雀枝は彼女の気持ちを尊重するように、そのまま口を閉ざした。グレイは振り返り、引き続き歩き始め、金雀枝はそれに同調して歩き出した。


 しかし、僕一人はその場に立ち止ったままだった。


「どうしたんだ?キャラ変か?グレイドール。」


 再び、前を歩く二人の足が止まった。二人はそれぞれ振り返る。一人は、まるで体の中で地震でも起きたかのように体中を震わせ、怯えながら。一人は、相も変わらずの無表情で。


「僕を泣かせたから、責任か何かを感じちゃってるの?だとするなら安心しなよ。僕はお前なんかに泣かされたことは毛ほども気にしてないから。ていうか、お前が剣を振って埃が目に入っただけだから。別にお前は僕を泣かせてなんかない。僕を泣かせたのは埃だ。」


 僕は胸を張って言い放った。僕のその発言を、グレイは目を点に、口を半開きにして聞いていたが、突如として笑い出した。


「く…ふふふ…そうか…お前を泣かせたのは…埃か…ふふ…」


 グレイは口を押さえながら笑った。


 きっと彼女も本当の事は分かっている。でも、僕がグレイのために言っているという事を察して、このような態度を取っているのだろう。


 僕は、彼女は最初に思っていたよりそこまで話が通じない奴でもないようだと思った。


「そうだ。だからとっとと入部試験を終わらせて、図書館掃除でもしに行かない?」


「は?それはおかしいだろ。」


 だがしかし、彼女はどこまでも冗談が通じない奴だった。


 そうして一行は、校舎の外に出た。何名か帰宅中の生徒がいるが、放課後に入ってからもう三十分くらいは経っているので、彼らがどうしてこの時間まで残っていたのか、僕は少し気になった。


「次はここだが……」


 立ち止まったグレイが、自分の足元を指さした。


「ん?なにこれ?」


「……布?」


 そこには、二枚の赤い小さな長方形の布の切れ端があり、交差する形で針か何かで地面に固定されていた。


「バツ印…ってこと?目印的な…」


 だとするならばどうしてここにはあって先ほどの塔には無かったのだろう。


 そう思って僕は塔の方を振り返った。


「…あれ?あんなの無かったよな…?」


 僕はそう言って塔の方を指さした。それに倣って他二人も塔の方を見た。塔の天辺を見ると、そこにはこの校舎の灰色とは対照的な、赤い布が垂れ下がっていた。各塔の天辺は尖っているので、そこに刺しこむ形で固定されているようだ。


「地図と同じ場所に…あるな。」


 グレイは地図と校舎の屋根を見比べていた。僕達が歩いてきた廊下の屋根にも、ところどころ赤い布が垂れ下がっている。きっと、真上から見たらバツ印になっているのだろう。


「つまり…ち、地図と対応する場所に、おまっ同じようにバツ印の赤い布がこてっ、固定されているってこと…でしょうか…」


 金雀枝はグレイの横から地図を覗き込んだ。彼女の態度を見るに、本当に何も伝えられていなかったらしい。


「…で?」


 グレイは金雀枝を見た。彼女の額には皺が寄っていて、眼力が、それはもう凄まじいものだったので、金雀枝が気絶してしまわないか僕は少し心配した。


「地図から見て分かることと…実際見て分かったこと…こんな、誰にでも分かるような事実をさも進歩のように言って、それで何になるんだ?」


「はいストップ。グレイは相変わらず人に突っかかるのだけは得意だよね。いいじゃん別に、金雀枝さんが事実を再確認したって。」


 気に食わないことがあったらすぐに食って掛かるのが、彼女の十八番らしい。これは流石に非常識だと、非常識な僕でも分かる。


「とりあえず、これでようやくスタートラインに立ったってことだよ。ここから推理してく…わけなんだけど、一回試したいことがあるからその地図貸して?」


 そう言って僕は地図に手を伸ばしたが、グレイは僕がそれを取れないように、頭の上に高く掲げた。


「は?なんで私がお前なんかに…どうせろくでもない事なんだろう?」


「そんなのやってみなきゃ分からないでしょ。」


 僕はグレイの肩を掴み、思い切り跳んだ。僕の指は、地図に向かって真っすぐ伸びていき、届くすんでのところで止まった。絶望的に身長が足りなかった。


 しかしそれで諦めるような奴ではないので、僕は繰り返し跳んでいると、グレイに「ウサギかよ」と鼻で笑われた。


 そしてそんなグレイの後ろから、金雀枝がひょいと地図を奪った。


「よ、よくないですよ…仲間内で…」


 そう言って彼女は僕に地図を手渡した。


「お前は何か勘違いをしているようだが、こいつは別にまだ入部してない。私としては入部して欲しくはあるが、試験を乗り越えられないのであれば問答無用で追い出す気だ。」


「…ま、言ってなよ。どうせお前は僕の命令を聞くことになる。」


 僕は手に持った地図を見た。『ここにいる』の文字の下に、シグネウィリトン国立学院の上から見た地図、ところどころにバツ印があり、その横には小さく数字が書かれている。最初に見たときから気になっていたのだ。どうしてこのバツ印が四十七個もあるのか、そしてなぜ数字が描かれているのか。


 僕は懐から鉛筆を取り出して、地図のバツ印を結び始めた。


「あ、お前勝手に落書きすんな!」


「落書きじゃない!こうすればきっと答えが出てくる…はず。」


 僕はそう言って点と点を結び続けたが、途中からその手が遅くなり始めた。分かってしまったのだ、地図に何が描いてあるのかが。


 僕は自分の、先程の発言を思い返した。「落書きじゃない!」これのどこを見てそう言えるのだろう。


 点を順番通り結んだそこに完成したのは、僕が今日部室で手渡されたパンフレットとに描かれていたのと同じ、奇抜で奇妙で奇天烈な、目が飛び出た猫の絵だった。


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