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旅仲間

 鳥のさえずりと木陰から漏れる朝日に目を覚ました。


 見張りを任せたシュミッド号が深夜に吠え始めるようなこともなく、異世界初日とは思えないほどの快適な睡眠をとることができてホッとする。


 地面に一枚布を引いただけの簡素な寝床ではあったが、ギルボが少しだけ地面を掘り返してリズが湿気を魔法で飛ばしてくれたので想像以上の寝心地だった。


「起きたか、我々はそろそろ出発するぞ」


 長剣に油だろうか? 手入れ用具を広げて武具の手入れをしていたシーラから声がかかる。

柄は西洋のロングソードのような形だが、刃は日本刀と似た片刃の剣は太陽光を浴びて湖面のように光り輝いていた。


 シュミッド号も先に起きていたらしく、少し離れた木で用を足しているところだった。


「ユーヤよ、我々はこれから目的地に向かって移動を始めるがお主はどうするんじゃ?」


「そう••••••ですよね」


 結局昨日は考えることができずに眠ってしまったため、答えに困ってしまう。


「流石に一人で置いていくわけにはいきませんよ、次の町か村まではユーヤさんも一緒に連れて行った方がいいと思います」


「そうじゃな••••••これはワシの希望も込みの話じゃが、お主ワシらのパーティに加わらんか?」


 予想外の言葉に一瞬思考が止まる。


 話を聞く限りではこの世界で旅をするということは戦闘が避けられないものらしい。

そのためにシーラは防具と長剣、ギルボはボウガンとハンマー、リズは魔法使いなのでマジックスタッフで武装している。


 その点俺の戦闘能力は皆無に等しい。武術の経験といえば警察署で柔道の訓練に混ぜてもらった程度のもので、武器らしい武器も持っていない。


 唯一俺を連れていくメリットといえばシュミッド号の存在くらいだろうか••••••。


「俺は戦ったことがありません••••••近くの町まで連れて行っていただけるのは大変助かるんですが、仲間に加わるというお話はどうしてもお役に立てないのではと思ってしまいます」


 我ながら情けなくは思うが、現実は見なければ仕方がない。


「貴様の眷属であるその犬がいるではないか」


 剣の手入れが終わったシーラがシュミッド号を指して言う。


「確かに俺が訓練しましたが、俺自身にはなんの能力も無いんですよ••••••情けない話ですけど」


「貴様が長い時間をかけてその犬と共に訓練に励み、幾度も幾度も失敗してそれでも諦めずにやってきたからこそ類稀なる能力を発揮できているのではないのか? 私はその能力を高く買っていたのだがな••••••それに『俺自身に何の能力も無い』など、貴様を信じて共に歩んできたシュミッドゴーに失礼だとは思わないのか」



 言われてハッとする。


 確かに俺とシュミッド号は何年も雨の日も風の日も共に時間を過ごしてきた。それこそこいつが体調を崩した時は犬舎で一緒に寝たくらいだ。


 左側いつもの定位置で待っていたシュミッド号を見ると、俺の自信の無さが伝わっているのか少し悲しげな表情をしているように見えた。


「ワシもお主をすばらしいと思っとるぞ、ここまでヒトの言うことをしっかり聞く犬なんて見るのは初めてじゃわい。こやつが居てくれるだけでワシらは見張りに時間を取られることなく休めるし、探知魔法をかけながら進むよりもはるかに敏感なシュミッドゴーに任せた方がこの森も歩きやすいじゃろうて」


「私も賛成です! シュミッドゴーさんの頭の良さも素晴らしいんですけど、今後どうしても戦いが避けられない野生動物や魔獣も出てくると思うんですよ••••••でもそこにユーヤさんがいてくれたらもしかしたらその戦いを回避することができるじゃないですか、だってユーヤさんは獣の扱いがうまいからハンドラーって仕事をなさってるんでしょう?」


 そうだよねーとにこやかに微笑みながらシュミッド号の頭をリズが撫でる。

乾燥させた大きなパンを丸々二つ食べ尽くしたシュミッド号はご機嫌でその尻尾を振っていた。


「••••••分かりました、どれだけの力になれるかわかりませんが••••••よろしくお願いします」


「おお! そうか! それじゃあ荷物をまとめて出発するとするか!」


 豪気なドワーフが大口で笑いながら地面に広がった荷物を背嚢に詰め込んでゆく。



「••••••あと、『シュミッドゴー』じゃなくて『シュミッド号』です。号はなんというか••••••なんとか『さん』って感じの名前の後に付くものですね」



 何度も名前を呼ばれたと勘違いした相棒が朝霧のかかりはじめた森に響く声で元気に返事をした。

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