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職業犬

なんとか一日一エピソード更新を目指します。

駄文ですがお楽しみいただけたら嬉しいです。

「結局今回も僕の負けですか••••••もう何回もシュミッド号と対戦してるのにまっっったく勝てる気がしないんですが」


 シャワーで汗を流し、濡れた髪をタオルで拭きながらそうこぼす彼は先ほどの訓練で犯人役を務めた男性警官だ。乾燥した砂の上を引き摺り回され、見るも無惨な姿になった彼は上の許可を得てシャワー室を使用させてもらっていた。


「それはそうだよ、俺も何頭か第一線で働ける警察犬を訓練してきたけど、あいつはその中でも特別と言っていい。頭は切れるし理解も早い、体の大きさとか力の強さも申し分ない上に恐怖心なんてないんじゃないかってくらいどんな相手にも飛びかかっていく度胸もあるからな」


「それにしたっていくらダミーとはいえ尖ったナイフを向けられたら怖くないっすかね? ゴム製でもあのスピードで突っ込まれたら刺さるかもしんないっすよ」


 シャワーのついでに一緒に泥汚れを流してきたであろう硬質ゴム製の訓練ナイフを弄びながら彼は不満そうに漏らした。

どうにも彼には目の前に凶器があるのにまっすぐ突っ込んでいける事が理解できないらしい。


「君たち警察官と違って(ハンドラー)と警察犬っていうのは人間が対応するのが難しい事案に対処することを目的としてるからな、当然人命が優先される事態が発生した時に解決のため危険に真っ先に立ち向かうことも警察犬には求められる」


「と言っても別に死なせるために警察犬を育ててるわけじゃない••••••俺が目指すのは『人間の警察官よりも検挙率のいい警察犬』だからな、油断してると君もシュミッド号に抜かれてしまうかもしれないね」


 人命が優先される••••••この言葉に顔を曇らせた若き警官を見て思わず自分でフォローを入れてしまったが、実際俺は人間の代わりに死ぬために警察犬を育てているわけではない。


 俺は警察官ではないが、ハンドラーとして警察の訓練や実際に事件現場に出向いたこともある。その中で目にしたのは日本の警察の限界とも言える実情だった。


 まずーー日本の警察官は使用できる暴力が限られすぎている。ホルスターから拳銃を取り出しただけで大騒ぎになるのはもちろんのこと、包丁を振り回す犯人に対してまず警棒と説得で対処しなければならない。職務質問で怪しい人間に声をかけた際も、何を所持しているか分からない状態で手錠をかければ人権侵害だと騒がれ、相手を拘束できるのは容疑が固まってからだ。


 逮捕時に暴れる相手を殴る・押さえつける・怒鳴るなどすればマスコミから『いきすぎた捜査』だとバッシングされ、その後の道を絶たれてしまうこともある。


「相手に対して取れる手段の少ない日本の警察官にとって警察犬はいい相棒になり得るよ。君たちの命を守り、バッシングや炎上なんてものは気にしない••••••ある意味ではその腰に下げてる重りよりも頼りになる存在になるかもね」


 すっと視線を下げ、警察官の証とも言える6連弾倉の拳銃を指さそうとして••••••止まった。


「あれ、君••••••拳銃どこにやった?」


「何言ってんすか、ちゃんとここに••••••」


 自分の右腰をまさぐり、コンマ数秒で顔を真っ白に染め上げた若き巡査は、先ほどのシュミッド号の動きに勝るとも劣らない速度でシャワー室へと駆けていく。


 実にタイミングの悪いことに、出てきたシャワー室に彼の上司が入っていくところが遠巻きに見えた。


「はは••••••始末書で済めばいいな••••••頑張れ若人」



 誰に聴かせるでもない鎮魂の呟きはリノリウムの廊下に消えていった。

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