表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/67

完全魔力制御

スマホからの投稿です。

多分改行の文頭スペースがおかしいと思いますが、PCから修正します。

 また陽は昇る。焚き火という灯りが消えてしまえばただ眼前には闇が広がるばかりだった恐怖の森も、ほんの少しの陽光が差し込むだけでガラリとその印象を変える。


 ゴーシュの森最強であるフェンリルが寝床にしているとあって他の獣たちの気配を感じることなく朝を迎えた俺たちは、旅を再開すべく準備を始めていた。


 ギルボ用意した肉料理をペロリと平らげ、そのまますぐ眠りについたバラクは翌朝になると驚くほどの回復を遂げていた。


 シュミッド号に引きちぎられたはずの体毛も半分ほどではあるが生え揃っていて、改めて魔法生物とも呼ばれるフェンリルの自己回復力を目の当たりにし、人の姿を取ってくれたことに安堵する。

もしも完全体フェンリルの姿のまま連れ歩けば俺がお尋ね者になるのは時間の問題だろう••••••。


『おはようございます主様、休息を取らせていただいたお陰でかなり力を回復することができました』


 見たもの全てを恐怖に陥れる魔獣とは思えない丁重な言葉遣いでバラクがスカートの裾を摘んで敬礼する。


 昨日俺の服を縫い上げたギルボがその勢いのまま適当な布にくるまっていたバラクの分のワンピースも仕立ててくれた。

確か鉄器とガラスの職人だと言っていた気がするが••••••職人というのは大抵の事はなんとか出来てしまう人種のようだ。


「すごいですね••••••昨日とは全く違う濃密な魔力で溢れています」


 回復したバラクの姿を見たリズも同じくその再生力に度肝を抜かれたようだ。

特級討伐対象であることに変わりは無いのだが、人というものは見た目にころっと騙される生物だ。


 フェンリルから少女の姿に変わったことによってリズの恐怖心はかなり和らいでいるみたいだった。


「しかし少し抑えねば悪戯に騒ぎを起こすことになりかねんぞ? この溢れている魔力はマナの感受性が高い者や元々魔力を感じやすい種族にとっては首元にナイフを突きつけられているのと変わらん」


 武具の手入れ道具や寝具などをカバンに詰め込みながらシーラが目も合わさずに告げた。


「そうですね••••••私も魔力感知スキルでバラクさんの魔力量が分かりますけど、正直圧倒されてしまいます」


「ワシもそこまで魔力を感じる方ではないんじゃが、そうじゃの••••••言わば魔王を倒したとされる伝説の魔剣と対峙しているような緊張感があるの」


『冗談やないで、こんなん隣におったらワイの自慢の毛並みが逆立ってまうわ』


 自分にはよく分からない魔力というものを感じている仲間達にほんの少し疎外感を覚えながらも、俺はバラクに少し抑えて貰えないか頼むため、自分用に作っていた鶏肉の残りと卵で作ったパン粥を献上することにしたのだった。


ーーーー


『この程度で如何でしょうか?』


 上品にパン粥を胃に収めると、バラクは立って胸の前に手を組んで目を閉じる。


 俺には何をしているのか分からなかったが、リズの珍しく興奮している反応を見ると恐らく凄いことをしているのだと理解する。


「どうなんだ••••••これで大丈夫なのか?」


「すごいです、シュミッドさんもそうですけどバラクさんにも驚かされてばっかりで••••••」


 感動しているところ悪いのだが、何がなにやらサッパリなので更に詳しい説明を求める。


「魔力というのは体温と同じで生きているだけで発生してしまうものなんです、だから強い魔道士や魔物からは強い魔力が放出されていますし、逆に弱い者からは微弱な魔力しか出ません。魔力を抑えるというのは自分の体温をワザと下げるようなもので実質不可能とされています。隠匿魔法などで隠すことも可能ではあるのですが、それでは探知魔法で見破られてしまいます。でも今バラクさんがやったのは『魔力の発生量自体を減少させて』外に漏れ出す魔力を下げたんです」


 いつになく饒舌な少女は落ちてくるメガネを押し戻しながらさらに続ける。


 鼻から荒く吐く息は興奮で赤くなった顔と相まって蒸気のように錯覚してしまうほどだ。


「これは自分の中に存在する魔力を完全に制御できているということなんです! こんなこと宮廷魔術師の長でもできませんよ••••••そもそも最初に魔法が発見され使われ始めてから千八百年と言われていますが、今までこんな事ができた人がいたかどうかも分かりません」


『お言葉ではございますがリズ様、この身は魔獣ゆえ人の身とは異なるものかと』


「その魔獣だからこそさらにすごいんですよ! バラクさんはヒューマンの高位魔術師の数十倍の魔力量を持っています、それを完璧に掌握するなんて! 苦しくはないんですか? 喉が締まるような感覚は? 人型と獣型でやり方は異なるんでしょうか? というかそもそも獣が人型に変化できるなんてどうやって••••••」


 矢継ぎ早に質問で責め立てながらにじり寄ってくるリズに流石のバラクも口元をヒクつかせ額に冷や汗をかきながらじりじりと後退してゆく。


「なぁ、シーラさん••••••もしかしてリズって」


「貴様の思う通りだ、リズは自分の知らない魔法技術を目の当たりにすると自分をコントロール出来なくなる、まさしくあのようにな」


「ああ、リズは魔法オタクなんだな••••••」


 以前子供たちに人気のヒーロー物アニメを鼻息荒く進めてきた同僚を思い出す。

あの類は一度スイッチが入ったら最後こちらが要求を飲むか自分の燃料が切れるまで暴走し続けるものだ。


『あっひゃっひゃ! こら傑作や! あのボケオオカミの弱点がお嬢ちゃんとは笑えるで!』


 久しぶりにシュミッド号はご機嫌に尻尾を振り、乾燥肉を咥えて先に歩き出していたギルボとシーラを追いかけていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ