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宵の巫女  作者: シュリ
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第九話 出会いの話

 シャッと小気味のいい音がした。薄く開いた瞼の隙間に、白く明るい光が差し込んでくる。


「んん、レオ……」

「おはよう! リリー」


 ぼろぼろのカーテンを紐でくくりながらイシュケが笑いかける。リリーは眼をぱちぱちさせ、はっと見開いた。


「イシュケ。……おはよう」

「よく眠れた? ベッド、湿気てなかったかな」


 湿気ていたし、ほんのりかび臭かったが、リリーは気にせず首を振った。


「ううん、だいじょうぶ。でも、毛布は干しておこうかしら。イシュケは昨日、どこで寝たの?」

「僕はいつもこのあたりかな」


 と当然のようにベッド下の床を指したので、リリーは眉をひそめた。


「どうして?」

「どうしてって。忘れたの? 僕たち馬だよ。夜中には元の姿に戻っていないと、力を使いっぱなしだからさ」


 朗らかに笑う。大広間でイグニスが見せた火の馬の姿を思い出した。


「あなたの額にも、角があるの?」

「うん。元々は普通の馬だったんだよ。でも、クイーンと契約したら毛並みが銀色になって、角が生えたんだ。一角獣(ユニコーン)みたいだってクイーンは喜んでくれた」

「……じゃあ、昨日……雪山にいたのは、どっちなの?」

「どっちだと思う?」


 イシュケが悪戯っぽい笑みを向ける。日差しが背に遮られ、その顔に深い影が差した。


「ふふ。リリー、お腹すいてない? 朝ご飯、用意してくるよ」

「え」慌ててリリーも立ち上がる。「わたしも手伝うわ。どうしたらいいの?」

「何もしなくていいったら。パンとスープを用意するだけ。持ってくるから、待っててよ」


 そう言ってイシュケが扉に手を掛ける。と同時に、外から扉が叩かれた。コン、ココ、コンコン、と軽快にリズムを刻んでいる。


「リリー? 起きてるかしら?」


 この軽やかな声はカイネのものだ。「入るわよ」と言うやいなや扉がひらき、少女がひょっこりと顔を覗かせる。


「おはようリリー、あらまあ、おもしろい寝癖。――いやだ、この部屋、ドレッサーも何もないじゃない。イシュケったら、すぐに運んできてちょうだい」

「はい、クイーン」


 慌ててイシュケが部屋を出る。カイネはずんずん入ってきた。その後ろには、仏頂面のイグニスも控えている。レオはいない。

 カイネは部屋の真ん中に立つと、くんくんと鼻をうごかした。


「あら……ごめんなさいね、ずいぶん汚れた部屋を用意しちゃったみたい」

「ううん、気にしないで。ここに居させてもらっているだけでじゅうぶんだもの」

「まあ、掃除はあの子にさせればいいわ。それより、一緒にお食事しましょうよ。ああでも、その恰好じゃあんまりね。すぐに服を見繕ってあげる」


 カイネはつかつかとやってきて、リリーの手を取り立ち上がらせた。


「わたしの部屋の隣が衣装部屋なの。何着か持って行けばいいわ。わたしが選んであげる。任せてちょうだい」


 その口ぶりは俄然張り切っていて、リリーは引かれた手に振り回されるようについて歩いた。

 別棟から螺旋状の階段を降り、渡り廊下を渡って居館(パレス)へ急ぐ。カイネの足取りはうきうきと、スキップでも刻みそうなほど弾んでいる。

「さあここよ」

 たどり着いたのは、古めかしい部屋だった。とても広々としていて、壁にぐるりと沿うように巨大なワードローブがそびえている。カイネは次々と戸を開けて、リリーを部屋の中央に立たせた。


「ええと……ああやっぱり、背格好は私とほとんど同じね。じゃあ測る必要もないわ」


 開け放した戸から衣服を取り出し、ぽいぽいとイグニスの手に放り出していく。そうして蝶のようにあちこち飛び回ると、ようやく気が済んだのか、彼女が戻ってきた。


「リリー、鏡の前に来てちょうだい。イグニス、上から順に試すわよ」


 イグニスは、承知したとばかりに腕を前に差し出す。一番上に肩の大きく膨らんだ淡い緑色のドレスがあった。


「見て、この胸元の宝石。デザインはずいぶん古いけれど、神秘的なドレスでしょう。じゃあさっそく脱いでちょうだい」

「えっ――」


 リリーはさっと身を固める。


「なあに? だいじょうぶよ、イグニスがいるんだから寒くなんかないでしょう」

「あの……」リリーはあたふたと言いよどんだ。「イグニスは、男の子でしょう。その、着替えるときは、別のところに……」


 カイネは呆れたように眉を寄せた。


「あなた、何を気にしているの? まるで人間の乙女みたいに」

「わ、わたしは一応、女だわ。あなただって」

「――ああ、そうね。あなたの肉体は人間だったわ。そう、じゃあ、リリーは乙女かもしれないわね」


 カイネはひとり、納得したように言う。


「私たち巫女のからだには、性別を決定づけるものがないの。男とも女とも言えないわ。そもそも性別なんて、地上の生き物が命を生むための機能でしょう。生殖器を持たない私たちには関係のないことよ」


 リリーははっと息を呑んだ。

 ――魔女の手記……


「巫女は従者(エキュワイア)に見せて恥ずかしいものなんて持ってないのよ。あなたと違ってね。ふふ……」


 カイネは言って、イグニスに後ろを向かせた。それからリリーに向き直る。


「さあ、お着替えお着替え。レオにも衣服をあげたわ。それはそれは、美しい貴公子になったわよ」

「レオにも?」

 あからさまに食いついてしまい、気づいた時にはカイネはおかしそうに笑っていた。

「ええ。言ったでしょう、衣食住は保証するって。楽しみにしているといいわ」

 リリーはどこか複雑な顔をして、鏡に眼を向ける。


 それからカイネは楽しそうにドレスをとっかえひっかえしていた。「ああ、かわいいと思ったけれど微妙ね」だの、「この首元のラインが綺麗ね! 私の見立てたとおりだわ!」だの、いちいち感想をくれるのでとてつもなく時間がかかっている。リリーは不思議でたまらなかった。


 昨日、初めて出会ったときの印象とはまるで違う。誰かの世話を焼くのを無邪気に喜ぶ、無垢な少女そのものだ。とても三百年の時を生きた巫女だとは思えない。


「うーん、ああ、だめだわ」

 しばらくして、カイネがとうとう匙を投げた。

「ドレスを見過ぎて、わけがわからなくなっちゃった」


 それはリリーも同様だった。めまぐるしく着せ替えられていくので、眼が麻痺してしまっている。


「カイネ」

 リリーは、ソファに投げられているドレスのひとつを手に取った。

「これ……着ても、いいかしら」


 それは襟元から踝まで暗めのローズレッドに染め上げられたドレスだった。色は落ち着いていて装飾も控えめだが、襟元や裾に金糸の刺繍が入っていて、折り返しの袖口には金の釦が光っている。


「ああ、良いわね、それ。私もそれがいいとおもうわ」


 カイネはうなずき、さっそく着替えさせられた。結局、他にもドレスを何着か気前よくよこしてくれた。それらをイグニスの腕に乗せる。


「じゃあ、部屋に持っていきましょう。今頃イシュケがドレッサーを用意してくれているはずよ」


 カイネの言ったとおり、寝室に戻るとベッドの横に大きなドレッサーが置かれていた。三面鏡に、小さな引き出しが左右に三つずつついている。色は全体的に薄いブルーに塗られているが、例によって褪せてはげかけていた。


「ありがとう、イシュケ」

 リリーが言うと、イシュケは静かに笑みを返した。

「じゃあ髪を結ってあげるわ!」


 カイネが再びはりきって、リリーをスツールに座らせた。


「まかせてちょうだい。美しい貴婦人に仕上げてあげるから!」

 と、リリーの長くまっすぐな髪を手に取る。

「あら、とてもさらさらね……シルクの糸みたい……」


 戸惑うように、何度も何度も、髪を梳く。

 見た目には同じ、色の抜け落ちたような白い髪なのに、リリーとカイネは見事なまでに対照的だった。まっすぐで癖の見当たらないリリーの髪と、肩の上でくるくると巻き毛になっているカイネの髪……


「あら、あらあら……」

 片手にリボンを持ちながら、何度もリリーの髪をすくいあげるが、そのたびに端からこぼれ落ちていく。しまいにとうとう、彼女はリボンを放り出してしまった。


「ぜんぜんうまくいかないわ! どうなってるのよあなたの髪! 柔らかいくせに頑固なんだから!」

「むりはしないで。わたし、自分でも自分の髪を結うのが難しくて、今までそのままにしていたの」

「そう。じゃあもう、適当に髪飾りでもつけといてちょうだい」


 カイネは投げやりに言って、イグニスの手から髪飾りの山をもぎ取りドレッサーの上にぶちまけた。


「ここにあるもの全部、好きに使っていいわ」

「あ、ありがとう」


 目を白黒させて礼を言い、それからつと顔を上げる。


「カイネ、どうしてここまでしてくれるの?」

「なによ。言ったでしょう、衣食住は保証するって」

「でも、例えば服は要らないのを適当に押しつけたり、部屋ももっと狭くて絶対に使わない部屋を宛がうことだってできたはずよ。それなのに――」

「リリーったら。わかってないわね。あなたは私のお客様なのよ」


 腰に手をあて、ふんと鼻を鳴らす。


「私は美しいものが好きなの。服も食べ物も城も従者も客人も、ぜんぶんぜんぶ、美しくなくっちゃ嫌だわ。だからあなたも美しくあるべきよ。それだけよ」


 と言って、つかつかと扉まで歩いて行ってしまう。出て行き際、「髪を整えたら、食堂まで来てちょうだい」とだけ言い残した。イグニスも慌てて後を追う。


「ごめんね、クイーンはいつもああだから」

 イシュケがやってきて、リリーの髪をブラシで整えてくれた。

「リリーは髪、いつもどうしてるの?」

「どうって……手櫛で整えて……それだけよ」

「それだけ?」

「ええ。あんまり寝癖がひどいときは、レオが見かねて熱糸で直してくれるわ」

「へえ。……器用なんだね」

「そうなの。わたしは本当に不器用で、よく困らせてしまうのよ……」


 懐かしむように語るリリー。イシュケの手によって、リリーの髪には赤いリボンの髪留めがつけられた。


 毛皮のコートを羽織り、廊下を歩いていく。居館へつながる歩廊の扉を開けた途端、凄まじい冷風が頬に吹きつけ、リリーは大きく身震いした。


「吹雪いてもいないのに、こんなに冷えるのね」

「まあね。でも今日はかなり穏やかな感じ。お散歩日和かな」

「散歩……?」

「うん。クイーンはこういう日、ふらっと外に出たりするよ」

「雪が深いのに、危なくないの?」

「兄がいるからね」


 またしてもイグニスだ。彼の能力はこの雪の大地に欠かせない。カイネが重用するのもうなずける。

 食堂は二階の突き当たりにあった。木製の扉を両手で開けると、円卓の一番奥にカイネが座っている。そのすぐ傍にイグニスが付き従っていて、円卓のそばには銀の台と、パンを切り分ける長身の男の姿……

「レオ」と喉まで出かかるのを、すんでのところでこらえた。


「ああリリー。リボン、素敵よ」カイネが上機嫌に言う。そしてリリーの目線をたどるとすぐに悪戯っぽい表情になり、「レオ、いいでしょう。黒もいいけど、青も似合うわよねえ」


 おそらくカイネに見繕われたのであろう、レオは白いシャツに青いダブレットを羽織っていた。いつも黒ずくめの恰好をしているのでリリーの目には新鮮だった。


「似合ってるわ」


 心からそう言ったのだが、レオは複雑そうに目をそらす。ナイフで不器用にパンを切り分け、皿へ雑に盛っていく。普段は自分の爪や糸でなんでも処理してしまうのだが、人間の姿に擬態している間は一切の力が使えない。


「さ、リリー、こっちに座って」


 イシュケが椅子を引く。カイネの真正面だ。椅子はそれだけしかない。


「えっと……みんなは?」

「僕たちは従者だから」

「一緒に食事はとらないの?」

「いやだわリリー」カイネが当然のように口を挟む。

「彼らの食事風景を知っていて? イグニスやイシュケはまだ、野草をむしゃむしゃ食むだけで済むけれど――ああ、それでも見ていて気持ちの良いものじゃないのよ――レオなんて、肉食でしょう? 生き血を啜るんでしょう? ぞっとするじゃない。私たちの食卓には似合わないわ」

「それのどこが……それに、似合う似合わないじゃなくて」

「リリー」


 イシュケが再度促す。イグニスも対面から睨みつけてきた。


「だいじょうぶだよ、僕らの食事はちゃんと確保されてるんだ。何も心配しなくていいんだよ」


 そういうことじゃない、と食い下がりたかったが、もうそんなことを言える空気ではなかった。カイネは目を細めてじっとこちらを見ている。仕方なく椅子に腰掛けた。

 間もなく、温かなスープとパンが置かれた。置いたのはイシュケだ。


「どうぞ、召し上がって」カイネがにっこり笑う。それからパンをかじると、「まあ硬い」とつぶやいた。リリーもおそるおそる一口囓る。本当に硬かった。スープに浸さなければとてもじゃないが食べられない。


「ごめんなさいね。麓からのお供え物だから。これでも上等な方なのよ」

「これも、お供物なのね」

「私、みんなの『神様』だもの。ふふ、人間ってほんと、お馬鹿さんよねえ」


 リリーはしばらく考え込むように咀嚼してからゆっくりと呑み込んだ。


「あの、昨日いろいろ聞かせてもらったこと……質問しても、いいかしら。郷とか、巫女とかについて……」

「ああ。いいけど、私もあんまり詳しいことは知らないわよ。もしかして、郷がどこにあるのか聞きたい、とか?」


 図星だった。


「ふふ。どこにあるのか、私だって教えてもらいたいくらいよ。わかっていることは三つだけ……郷はどこか霧深い山頂に隠されていて、人間が立ち入れないように閉ざされていること。奥には巫女の重役たちがいて、地上を見渡し、必要な場所に巫女を放ったり、役に立たなかった巫女を連れ帰って閉じ込めておいたりしてること。そして、巫女は年々数が減っていること。ちゃんと生きれば五百年と言われているけど、自分の力が正しくコントロールできなくて暴走、命を落とすってことが珍しくないのよね」


 一気に言い切って、カイネはふうと息をついた。


「こんなところかしら。どう? 満足した?」

「待って。カイネは、郷に行ったことは……」

「当然、ないわ」

「ないのに、どうしてそこまで郷のことを知っているの? だれか他の巫女から聞いたの?」

「まさか。私、他のどの巫女にも会ってないわ。あなたを巫女と認めるなら別だけど。全部生まれつき持っていた知識よ。おそらく前の巫女が私を産むとき、記憶を引き継いだのね」

「前の巫女?」

「そう。寿命を終え、命尽きて私を産み落とした……まあ、母親ね」


 ここで「母親」という言葉が出てくるとは思わなかった。

 気の遠くなるような寿命を持つ巫女にも、母親がいたのか。いや、それどころの話ではない。


「カイネ、さっき衣装部屋で、巫女には性別がないって言ってたけど……どうやって子どもを産むの?」

「寿命を全うすればいいの。途中で故意に死んだりしたらだめよ。器の使用期限とでも言うのかしら……その時が来るまで生きて、期限がきたら死んで、力と肉体はきれいにまっさらになって、新たな巫女のものになるの」

「じゃあ、お母さんの顔は、見られないのね」

「そうよ。でも、声は聞いていたわ」

「声?」


「たぶん、母親の死が近づくにつれて、私の産まれる準備が始まっていたのよ。私の魂が半分同居していたとでもいうのかしら。だから、ちょっとだけ覚えているわ。『絶対に人間と関わるな』とか、『五百年を共にするパートナーをできるだけ早く見つけなさい』とかね。それで、気がついたら裸で寝室に立ってたの。身体は今よりもっと幼かった。慌てて服を着て……それで、従者を捜しに外へ出たわ」


 するとそれまで黙っていたイグニスが、思わずといった調子で口を挟んだ。


「クイーンは、泣いていた……」

「失礼しちゃう!」


 すかさずカイネがイグニスの腕の皮膚をぎゅっとつまむ。指先が白くなるくらいおもいきりつねっているのに、イグニスは平気そうだった。むしろ、なんだか嬉しそうにも見える。


「生まれてすぐに外に出て、いきなり吹雪に見舞われたのよ。全身が凍てつくようだし目に雪が入るし、泣くどころの騒ぎじゃないでしょう!」

「でも、そのおかげで僕たち、クイーンに会えたんだ」

 リリーの背後でイシュケも言った。

「泣き声がたまらなくかわいいなって思って……あ、これは兄が言ったんだよ。僕じゃないよ」

「……」


 イグニスが無言でイシュケを睨む。イシュケは何食わぬ調子で微笑み、リリーの空になったカップへ紅茶を注いだ。


「この子たちも、初めはただの馬だったわ。信じられる? こんな雪まみれの山中に、馬よ」

「だって僕たち、主人を失って途方に暮れていたんだ。周りは死体だらけで気分が悪いし、兄さんも僕も大怪我してたし」

「死体……? 怪我……?」


 唐突に、物騒な話だ。


「そう。僕たちもともとキャラバンの馬だったんだけど、賊に襲われちゃってさ。奴ら、商品と無傷の(なかま)たちを奪って逃げちゃったんだよね。あはは」

「クイーンがいなければ、オレたちは」


 イグニスもつぶやく。

 カイネは、「そんなこともあったかしら」と言ってスープを飲み干し、「レオ、紅茶が空よ」と言いつけた。

 レオは眉一つ動かさないで、ちらとリリーを見る。リリーは反射的に目をそらした。


「はやく」


 カイネが追い立てると同時にイグニスが動いた。突っ立ったままのレオの眼前からティーポットを奪うように取り上げ、カイネのカップへ丁重に注ぎ入れた。


「レオったら。あなたが今までこういうことをしてこなかったのはわかったから、早くお慣れなさい。あなたは女王(クイーン)カイネの従者になるのよ」

「……なるつもりはない」

「貴様」


 すかさずイグニスが睨みつける。今にも姿を変えて炎を纏いそうな気迫だが、レオも挑戦的に睨み返す。

 カイネは、ふうと息をついて口元をぬぐい、リリーの方をちらりと見た。皿もカップも空なのを確認すると、「今日の雪は穏やかね」と脳天気に口にする。


「食後の散歩はどう? リリー」

「散歩?」

「といっても、敷地内を歩くだけよ。城の中を案内してあげるわ」


 見てはいけない――そう思いつつも、リリーは一瞬、レオの顔色を盗み見てしまった。幸い、彼の目線は窓の方に向けられていた。すぐにそらして、カイネに向かって微笑む。


「ありがとう。ぜひ、お願いします」

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