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15話 序盤の敵

 遂に、この日が来たぜ。本入団、そして、初任務。朝から気合が入っていますよ。



「ふぇい、きょうからにんむ?」

「あぁ」

「すげぇ! がんばれ!」

「あぁ」



レレも応援をしてくれる。



「フェイ、無茶はダメよ? 絶対に帰って来てね……」

「あぁ」

「ふぇい、おみやげ!」

「あぁ」




任務が楽しみ過ぎて、集中できないなぁ。周りの話が頭に入って来ない。あぁ、楽しみだなぁ。一体全体、どんな活躍をするのだろうか。


主人公の伸びしろとか、成長速度は誰にも測ることなど出来ないからな。俺が考え込んでいると、マリアが柔らかい手でそっと俺の手を包み込む。



あ、柔らかい。



「帰って来れるように、おまじない……昔、誰かがこれをやってくれたような気がして。だから、フェイにもやっておくね」

「……そうか」




うーん、この健気で素晴らしいこの感じ、マリアは聖女と言うか王道的なヒロインの匂いがするなぁ。


アーサーとは違う。ジャイアントじゃない、小さいパンダみたいな愛嬌があると言うか。



そして、俺はクールに孤児院を出るぜ。トゥルーとは全く話さない。あいつ、マジで訓練以外俺と関わりが無いな。


いや、別にいいんだけどさ。


俺との絡みが無いと出番へってくぜ? いくら魔術適正があったとしてもさ。いや、別に出番とか気にするはずないだろうけどさ。


ポテンシャルとか結構あると思うから。その内、主人公である俺の右腕くらいにはねぇ?


してあげてもいいけども。


そんな風に主人公として、モブキャラ的なトゥルーの心配をしながら俺は初任務の集合場所である王都ブリタニアの門の場所に向かう。



「あ、フェイ」

「アーサーか」

「おはよう」

「……あぁ」

「おはよう?」

「あぁ」

「……どうして、挨拶返してくれないの?」

「……返したが?」

「おはようってちゃんと言って欲しい」

「……そのうちな」




アーサーが俺とほぼ同時に場所に到着をした。そして、その後にボウラン、トゥルーも来場する。


そして、本日の任務は今までの先生とは違う聖騎士が付くらしい。ユルル先生。魔術のジジイ。


偶に座学を教えてくれるおっちゃん先生。それらすべてとは違う新しい先生か。


まぁ、新キャラって奴かね? 主人公の俺に付く新しい先生が只ものであるはずがないよな?



実は滅茶苦茶凄いエージェントみたいな先生だったりして。



待って居ると、



「すまない。遅れたようだな」



赤い髪に、赤い眼。顔立ちが整っている良い感じの男性。眼がちょっと鋭い。俺とキャラかぶりを少ししてるような……



「俺の名は、サジント。三等級聖騎士だ。今日はお前たちと一緒に任務に行くことになる。よろしくな」

「よろしくお願いします」

「よろしくー」

「……よろしく」



トゥルー、ボウラン、アーサーの順で挨拶をしていく。俺は無表情で特に反応をせずに静かにたたずむ



クール系なんでね。



「まぁ、色々聞きたい事とかあるかもしれないが。それは任務に向かいながら話そう」



サジント先生が門に向かって行く。門番の聖騎士たちに挨拶をして、外に出る。あれ、そう言えば外に出るのって俺初じゃない?



わぁぁぁぁ! お外だぁぁぁぁ!



ちょっと興奮だぜ。



■◆




 サジントを先頭にして、四人は歩いていた。


「なぁ、アンタはどれくらい強いんだ?」

「そうだな……それなりにだな。これでも三等級だ」

「おー、やるじゃん」


 ボウランがサジントに向かって質問を投げる。アーサー、興味なし。トゥルーは何となくで相槌を打つ。


 フェイは一番後ろで少し距離をとって歩いていた。


「聖騎士に成る前はなにやってたんだ?」

「とある貴族の執事をしていた」



 サジントがそう言うとずっと興味無さそうにしていた。アーサーが口を開く。そんな彼女の眼は少しだけ、ワクワクを宿している。



「あんまり、もふもふしてる感じしないけど……ッ」


 アーサーの頭の中には羊の毛でもふもふ状態になっているサジントの姿があった。何だか面白そうと彼女は思っている


「それ、羊な。俺がやっていたのは執事だ」

「……そっか。もういい」



 一気に興味を無くして、絶望をした様な表情になるアーサー。彼女の興味は一瞬で消えた。



(え? 俺そんなに悪い事言った?)



サジントがアーサーの反応に僅かに驚きを見せる。だが、切り替えて。今度はトゥルーに話を振った。



「トゥルーだっけ? 騎士になる前はなにしてたんだ?」

「孤児院で過ごしていました」

「へぇ……その前は?」

「村で暮らしてました。もう、無いですが」

「すまん。そうだったとは知らず」

「いえ、お気になさらず」



トゥルーにそう言って、今度はボウランに話を彼は振った。順番に聞くことでその行為が特定の誰かだけにしていると怪しまれないように。


「ボウランはどうなんだ?」

「あ? アタシは村で追放みたいな感じで死にかけて、色々やって生き延びて、強くなりたくて聖騎士やってるな」

「そうか……」



(資料見てないから知らんけど、この子結構重いな……)



「アーサーはどうなんだ?」

「……なんで? そんなこと聞くの?」

「あー、全員の事を知りたいみたいな感じだ。これから一緒に任務をするわけだしな。いつもやってるんだ」


(よし、これで怪しまれることは無いな)



心の中で彼は少し、ガッツポーズ。この流れで下手に会話を切れば何かあると言うような物。それだけで彼は良かった。その情報だけで。しかし……


「……先生は年下の男性や、年下の女性の身の上話を根掘り葉掘り聞くのが大好きなんだね」



(その言い方、ちょっと嫌なんだが……)



「アーサーは聞かない事にするよ。えっと、フェイはどうだ?」



少し後ろに居て、ずっと沈黙を貫き興味が一切ないと言わんばかりの彼にサジントは聞いた。アーサーが真の目的。だが、ここで聞かないと言うのももったいない。折角の流れをアーサーに壊されたが、聞いても変ではない雰囲気なのだ



「それを話して、何になる? 雑談をするつもりはない」

「あ、そうか」


(えー、なんだよ。こいつら……俺もそんなに感情を表情に出すタイプじゃないけど……俺以上に全然動かんし。いや、マジでやべぇなぁ)



空気が死につつある中、五人は任務のとある村に向かう。


「今回の任務の確認とかしなくて良いのか?」

「そうだな、ボウランそうしよう」


(いや、助かるボウラン。空気が死んでいた。と言うかこいつらいつもこれか? 年中葬式か?)



「あー、今回は魔物によって農作物が荒らされてしまった、スタッツの村。そこでハウンドと言う狼の魔物を退治することになる」

「へぇ、在留の聖騎士とか居ないのか? 偶にいる村もあるだろう」

「聖騎士はいつも人手不足、何処でも居ると言うわけじゃない。だから定期的に派遣をしている、今回はそれを兼ねている」

「へぇ」


魔物。それは逢魔生体(アビス)とは違う脅威。人間を襲ったり、農作物を荒らしたり、害を及ぼす存在が多い。フェイ達はその駆除にやってきたと言っても過言ではない。



ボウランの話、そしてトゥルーの相槌によって何とか空気を保ちながらスタッツ村に一同は到着した。村の近くに木々が生い茂っており闇が深く、どこか不気味さを感じる。


「おお、これは聖騎士様」

「どうも、事情は聞いています。早速調査をさせて頂きます」

「お願いします」


年寄りの村長とサジントが話をして、調査が開始される。フェイ達が命じられたのは村の周り、林を見てそしてハウンドと言う狼に似ている魔物に出会ったら駆除を命じられている。


腰の鉄の剣。今までとは違う重みのある剣に緊張が走る一同。とはいうが、アーサーとフェイは無表情。緊張しているのはボウランとトゥルーだけである。



「じゃ、アタシはこっち見てくるわ」

「……ワタシはこっち」

「……僕は……」



トゥルーが迷う。それはまるで、そこから先が天国であるか、地獄であるか。それを決めるように。


そう、ここでのトゥルーの選択が彼の命運を分ける。どちらにしろ悲惨な運命が待つのだが……生きるか、死ぬか。それが今……決定する。


トゥルー最初の生死を分ける選択肢。



『僕は……あっちにしようかな?』

『いや、初めての任務だし、やっぱりここは皆で行くべきだよ』



 彼は迷う。それが生死を分けるとは知らないが、初めての任務。一人ずつで回った方が効率は良い。だが、全員で回った方が何かあった時に対処が出来る。


「いや、初めての――」

「おい! フェイ!」



彼の言葉を遮るようにフェイが単独で動いた。それは先ほどまでトゥルーが一人で回るならこっちだなと考えていた方向だ。



「俺は一人で回る。この程度、一人で十分だ」



そう言って近くの林に足を進めた。彼がそう言ったら誰にも止められない事は三人とも知っていたので、見送るだけとなった。



そこへ


「あ、聖騎士様方」

「お、村長じゃん」

「村長さん、どうかしましたか?」

「いえ、実は村の娘が一人、山菜を取りに林に行ってしまったとかで」

「「え?」」

「……」

「なんでも、村の農作物がやられたからご飯を取らないととか思っていたらしく」



心配をする村長の言葉に三人共それぞれ反応を示す。そして、次の瞬間



――ガァァ



大きな咆哮のような音がした



「っち、ハウンドか?」

「……変な感じがする。前に見たことあるのと、ちょっと違うかも」

「僕たち三人で村の人を守ろう」



三人が剣を抜く。そしてそこへサジントも合流をする。


「このハウンド、どこかおかしい。お前ら、気を抜くなよ」



異変に気付いたのは、アーサーだけではなく、サジントもであった。彼はフェイが居ない事に気づく。


「フェイはどこだ?」

「アイツなら一人で林に行ったぞ!」

「そうか……っち、こんなの聞いてないな。量も迫力も普通じゃない。フェイは後回しで、取りあえず村の住人を守れ」



既に、百近いハウンドが村を囲っていた。



これは、円卓英雄記トゥルー生存ルートに入った証でもある。トゥルーが三人で回ろうとボウランとアーサーに告げる。それと同時に、村長、サジント、普通ではないハウンドが現れ、それを倒す。



村の住人は一人だけの犠牲によって、助かるのだ。一ではなく十の命を優先をした結果だ。これは誰にも咎められない。だが、淀みがないわけでも無い。これが、選択をした責任。


鬱である証だ。



これでトゥルーたちは、一応生存なのだ。しかし、先ほどの村長の話にあった一人の村の女の子は無残な姿に……



■◆



 一人の村娘が林の中を歩いていた。農作物が魔物にやられてしまい、彼女は林の中で山菜などを取り、それを少しでも食料として食べようと思っていたからだ。黄色の髪に、黄色の眼。優しそうな顔立ちにショートヘアー。


 村一番の美女と言われているヘイミーと言う子だ。14歳で体からは凹凸が出来始めている、将来は間違いなく天下一の美女になると村では予言のように言われている。



 冬も近くなっており、貯蓄に簡単に手は出したくはない。それに彼女は星元を少しだけ使えるので、何かあっても問題なく、逃げるくらいなら出来るだろうと高を括っていたのだ。



「あ、この山菜食べられる。こっちも」



 そう言って手提げの木の籠に次々と山菜を入れていく。村からかなり遠くになってしまっているので、今ここで狼が遠吠えをしてもあまり聞こえないだろう。


「キノコも食べられるな……でも、ハウンドが森の作物には全然手を出してないように見えるような……」


 村の物には手を出すのに、自然の物にはあまり手を出さない事に僅かに疑問がわく。



「あれ? それって、食べられるんだ? 随分汚い感じがするけど」

「……ッ」



 急に前の木々から声がした。


「あ、驚かなくていいよ」


 そう言って出てきたのはローブの男。姿が良く分からないが、声で男性であると彼女は判断をした。そして何か、嫌な予感も。



「いや、それにしても、折角実験体のハウンドなのに見せ場が無かったよ」

「……え?」

「聖騎士を呼び出すために、多少農作物に手を出させて、おびき寄せた活きの良い聖騎士と戦わせて実験のデータを得ようと思ったのに。闇の星元を無駄にしちゃったよ。アイツら、ちょっと実験としての相手では収まらない過剰戦力。教師役もかなりの腕だし、本当についてないな、僕は。まぁ、噂の光の星元の一端を見られただけでも良かったんだけどさ。ユルル・ガレスティーアも、彼女が抑えたわけだ。納得。まぁ、あんなにヤバい奴らが居るから、逃げた方が良いんだけど、それでも、ここで引き下がったらなんかスッキリしないからさ」

「……ッ」



話にならない。一方的に事情を言われて、彼女は頭がパンクしそうであった。そして、今現在自分が異常者と対面して生死にかかわる状況であると彼女は判断した。


僅かにローブの中の男が見える。蛇のような黄色の鋭い不気味な眼であった。


逃げよう。そう思って足を……



「あ、動かないよ。僕の魔眼で動けなくしてるからさ。あー、ちょっとついてない。でも、君で少し、発散できそう♡」

「――ッ、あ、あ、あ」


声が上手く出ない。助けが呼べない、足が動かない。逃げられない。


「先ずは爪を剥いで、悲痛な顔を見せてもらおうかな。あんまり時間はかけないから、安心して。あとは、足の骨を折って、その後潰れるまで踏み続けよう。最後に頭を足で叩き潰して、脳汁をドバっといきたいよね」

「あ、あが、あああ」

「助けなんて呼べないさ。魔眼が……うわ、君漏らした?」



彼女は恐怖のあまり、失禁をしてしまった。



「汚いな。まぁ、そこら辺は、踏まなければいいか……さて、あんまり時間かけてると、聖騎士たちが来ちゃうかもしれないから、手早く済ませようね♡」

「あ”、嗚呼””」



死にたくない、死にたくない、そう彼女は願った。眼からは涙が零れて、何も悪いことはしていないのにどうしてと自身の運命を恨んだ。


「それじゃ……ん?」


彼女に近寄ろうとした瞬間に、彼に一本のナイフが飛んできた。それを避ける、そしてそれは綺麗にストンと後ろの木に刺さった。



風が林を突き抜ける。



ザッ、ザッっと馬が走るような軽快でそれでいて荒々しい重厚な足音。



「あーあ、聖騎士が来ちゃったよ」

「……」



黒髪に黒い眼。腰には一本の鉄の剣。



「まぁ、二人パパッと、殺そうかね」

「……おい、お前は逃げられるか?」



眼の前の敵よりも、動けなくて泣いている少女に彼は尋ねた。眼の前の男の甲高く、見下すような声音ではなく、ただ、淡々とこなしていく戦士の声。


「あ、あ、あ、あ」

「……なるほど」



全てを察した彼が目の前のローブの男と向かい合う。本当であったらここに居たのはトゥルーと言う少年であった。そんな彼は駆け付けたは良いが、眼の前の男の魔眼によって、なすすべなく殺されゲームオーバー。



「まぁ、いいや。《《取りあえず、跪いて》》」



その、全てを見下した彼への返答は、剣戟であった。



「ッ」


咄嗟に後ろに跳躍をして、男は避けた。だが、更に彼は接近をする。連撃が繰り出され、それらを慌てながら手で捌く。手で金属の剣にあてるなど普通ではない。



そして、捌ききった男は更に距離をとった。



「……? 眼を合わせていなかったのか?」

「……」

「……ローブで僅かに隠れたのか?」



彼は何が起こっているのか分かっていない様であった。



「魔眼持ちでないように見えるが、何らかの加護を……?」

「……」



ブツブツと独り言を言っている男に彼がまた迫る。感情を無くした眼で、恐怖などないような眼で、機械的で無機質な表情で。


さほど速くはない。だが、ローブの男は警戒をしていた。再び、ローブの男と彼が眼を合わせる。


「《《止まれ》》」

「……」



返答はまたしても剣。再び距離をとり、剣戟に手で応戦をする。



「いや、まさか、最高ランクの魔眼だぞ!? 龍蛇の魔眼だぞ、これは!! 僕がどれだけこの眼を苦労して!?」



避けられないと言う程ではなかった。だが、眼の前の男に僅かに驚愕をしてしまったというのも事実。


剣をローブの男に向ける剣士。彼と男が僅かに対峙をする。互いに《《何かを考えているかのように》》。



(落ち着け。さほど速くはない。ならばここで身体的な差で……殺せる)



そう、単純な戦力であればローブの男は剣士を遥かに凌駕している。ローブの男はゲームでもそれなりのボスであるからだ。今の力は完全ではないが、その実力は単純に現時点のアーサーに匹敵する。


だが、普通であれば、普通に戦えば、そんな選択が彼には出来ない。眼の前の黒の剣士の歪さがその判断を迷わせる。



(だが、なぜ魔眼が効かない!? そして、あの眼はなんだ!? 魔眼ではない、純粋な狂気のような)



(自身が負けるなどとは微塵も感じていないような眼。明らかに僕の方が強いように見える。それに相手は星元を使っても居ない)



(手札が分からない。だが、闇の星元を研究し尽くしてきた僕なら……だが、ストックがあまりない。ユルル・ガレスティーアから生み出した闇の星元もハウンドによって全部チャラ。あまり無駄な戦闘で……)



(だが、ここで純粋な実力で……だが、眼の前の男の眼が不気味でしょうがない。なぜここまで《《勝ちを確信した眼でいられる》》!?)



(まさか、僕を殺す手段を持っているのか!?)



(それに剣技も雑魚には見えない……透き通るような太刀……)



(ここは……)



(ハッタリであるのなら、大したものだ。だが、そうは見えない何か、《《歪な執念》》を感じる。こういう奴に手札が分かっていないのに戦うのは危険か……)



(まだだ、僕は完璧になる。そうだ、ここでリスクを背負う必要はない。他の聖騎士たちの合流を待ってるという可能性もある、ここは……引くか)




「覚えていろよ、黒の剣士」



そう呪いのように呟いて、ローブの男は走って逃げるように去っていた。それを彼は眼で確認すると腰の鞘に剣を収める。



そして、動けなくなって泣いている少女に近寄った。


「おい、動けるか」

「あ……」

「……良く分からんが動けんようだな」



そう言うと彼は少女をおんぶした。失禁をしているので、それを気にする素振りを少女は見せた。


「あ、あ」

「大体、考えていることは分かる。だが、気にするな」

「……」

「俺は、ただ己の責務を果たしているだけだ。だから、暫くそこでそうしていろ」



そう言った彼がただ林を抜けて行く。いくら歩いたか、次第に村が近くなってきて。


「あぁぁ」


彼女の瞳から涙が零れた。


そして、村に入ると、最初に金髪の少女、アーサーが彼らに近寄った。


「フェイ? その子……」

「拾った、この村の住人だろう?」

「……ねぇ、ワタシの眼を見て」

「……」



アーサーと彼女の眼が合う。すると、動かなかった体が完全に自由を取り戻し、少女は再び涙をこぼした。怖かったのだ。全てが、死の体験、このまま自由に動けなかったらと思うと。



「フェイ、その子、もう大丈夫」

「……いや、こいつは家の《《中》》まで運ぶ。おい、家はどこだ、さっさと答えろ」

「え? あ、その、あそこの」



そう言うと彼は少しだけ急ぎ足でその家に向かった。そして家に入り、少女を置いて直ぐに家を出る。



取り残された少女は分かった。彼は自分の背で自身の失禁を隠し、そしてそれを周りにはバレさせないように急いで家に置いて、着替えをさせようとしたのだと。


「……う、うぅぅ、あぁあぁっぁあぁ!!!!」



声にならない鳴き声がそこに鳴り響いた。ただ、それを聞いていたのは誰もその家に入らないように入り口で腕を組んで眼を閉じている黒の剣士だけであった。



■◆



 時は少し経ち、互いに報告をしあう聖騎士たち。フェイはサジント達に全てを話した。



 彼らはローブの男が何者であるのか。それを只管に考える。するとそこに村長と黄色髪と黄色眼の少女が。


「いや、聞きました、命を救っていただけたとか、ありがとうございます。聖騎士様」

「それが責務だ。一々、そんなものはいらん」

「ハハハ、どうやら誇り高いようで、それとこの子も礼を言いたいそうです」

「いらんと言っている」



ぶっきら棒にそう言った。だが、少女は彼の前に歩み寄る。



「ありがとうございました、あの、本当に、どうなっていたことか」

「気にするな。何度も言うが責務を全うしただけだ」

「……そ、それでも!」

「……分かった。その礼は受け取っておこう」

「……は、はい。その、お名前は?」

「ッ……名乗るほどの者ではない」




会話をすぐに断ち切りたいような雰囲気を出す彼と、何とかして会話を繋ぎたいヘイミーという少女。



「フェイだよ」



アーサーが答えないフェイの代わりに答えた。僅かにフェイが眼を細める。



「……フェイのそれは謙虚じゃないと思うよ、卑屈になって、その子を悲しませてるだけ。助けたんだったら、偉そうにふんぞり返ったら良いと思う」



少しだけ、どやぁっとした顔を見せるアーサー。それは彼が月下で彼女に言った言葉であったからだ。


ふんっと鼻を鳴らし、ヘイミーを彼は見た。


「改めてだが、俺はフェイだ」

「わ、私は、へ、ヘイミーって言います! その、名前を覚えて頂けると非常に嬉しいです……」

「……ヘイミーか……」

「はい!」



麗しい花のような笑顔を彼に向ける。だが、彼はいつもの無表情でその顔にデレたりはしない。



「あ、あの王都で暮らしていらっしゃるんですか?」

「あぁ」

「じ、実は私も来年、聖騎士に成ろうかなって!」

「そうか」

「で、ですから、フェイ先輩と呼んでも宜しいでしょうか?」

「あぁ」

「あ、あの、ご趣味とかは」

「訓練だな」



あまり会話が盛り上がっているように見えない。それを見たアーサーが



「フェイ、会話はちゃんとしないとメッ!」

「……お前は俺の何だ?」



そんな感じで、ヘイミーと彼の会話が終わった。そして、五人は一度王都に帰宅をする。


その道のり、フェイ以外の四人はハウンドの事などを思い返していた。


「あれは、普通のハウンドじゃなかったな」

「……うん。ユルル先生と同じ感じがした」

「じゃあ、ユルル先生との一件と何らかの関係が」

「それはまだ分からない、取りあえず黒ローブはマークをする必要あると思うが……フェイ、お前はどう思う? お前があの男と対峙をしたんだろう?」

「……」



そう、サジントが聞いたが返事はない。ただ、フェイは一人唸り、只管に何かを考えこんでいた。



「先生、フェイをそっとしておいてあげて。フェイは対峙したから、色々考えこんじゃってるだけ。きっと、ワタシ達より深いことを考えてる」

「あ、ああ、そうか」


(こいつ、フェイのことになると急に話すな。しかも、なんかこの彼女面みたいなの鼻につくな……言わないけど。先生は年下の恋愛が凄い好きなんですね、とか言われそうだし)



四人にはこれから何かが起きそうな予感がした。世界を巻き込むような、何かが。



■◆



 さぁって、村に到着をした俺! 主人公の最初の任務いやー楽しみだな、何が起きるのだろうか?


 ハウンドかぁ? ちょっと地味なような気もするがまぁ良いだろう。これくらい一人でこなしてやるぜ。アーサーとか居ると俺の活躍奪いそうだし。



 そう言って林を抜けて行くと、何やら女の子が襲われている。助けないといけない!!


 ナイフを投げるぜ。ユルル先生直伝!!


 ローブの男、明らかに怪しい。この子も泣くほど怖がってるし。失禁もしている、だが安心しろ主人公である俺がこいつをぶっ飛ばしてやるぜ!!



何か、止まれとか跪けとか言ってるけど……だいじょぶか? コイツ。まぁ、初任務の序盤の敵だからな。虚言が多いだけやろ。



そんなに強くは無いだろうさ。



なんか、初めて正しく敵ってやつが出てきたな。まぁ、こういうのはチュートリアルだろうし、余裕だろ?



「いや、まさか、最高ランクの魔眼だぞ!? 龍蛇の魔眼だぞ、これは!! 僕がどれだけこの眼を苦労して!?」


良く分からないが、俺には耐性があるのか? まぁ、主人公だし、多少はあるだろうな。


いやそれにしても、驚き方が三下。流石序盤のボス。


残念でした笑。魔眼効きましぇーん笑


なんか考え込んでるけど……どうしたんだ? 変な敵だな。まぁ、女の子を失禁させて恐怖させるとか碌な奴じゃないけどな。



だが、こいつ序盤にしては中々の敵だな。剣も結構捌かれるし? 


(だが、ここで純粋な実力で……だが、眼の前の男の眼が、不気味でしょうがない。なぜ、ここまで《《勝ちを確信した眼でいられる》》!?)


――まぁ、結構強いけど、俺が負けるはずないだろ!! お前のような序盤の敵に!!

 

俺が死んだら、終わりやからな。世界は俺に乗り越えられる試練しか与えないのだ。残念、お前じゃ俺に勝てないぜ。



(ハッタリであるのなら、大したものだ。だが、そうは見えない何か、《《歪な執念》》を感じる。こういう奴に手札が分かっていないのに戦うのは危険か……)


――俺は主人公だ、つまり……序盤のボス絶対殺すマンだぜ。女の子を虐めた罪は重いぜ。



「覚えていろよ、黒の剣士」



あれ、逃げた。


序盤の敵だから、主人公の俺に恐れを抱いたのか。まぁ、序盤の敵な感じだから、内心も結構小物なんだろう。



さて、この子どうするかな。村に取りあえず持ち帰ろう。名前も知らないし、本当に村の子か分からないが。



ん? 失禁? 気にしなくていいよ。そんな細かい事気にしてたら主人公なんて、やってられないから。



え? 村に帰ったら、アーサーが何か呪いを解くみたいなことをした……こいつ、本当に活躍の場を奪うよな。俺の活躍()を食べるジャイアントパンダ、ライバル枠だからな。



気を付けないと。



あー、失禁バレたら恥ずかしいか。家まで送ってやろう。背中で隠れてるからバレないぜ。



誰かが入らないように少し見張ってやるかな。さてさて、時間が経ったらサジントに報告をしましょう


かくかくしかじかと。



ん? 村長と少女がお礼に? いやいいよ今回そんな凄いことしてないし、と言うか、


主人公が命の危機を救うのは基本。



それにしてもこの黄色の子、凄い話しかけてくるな。俺的にあれは基本だぜ、と言うかアーサーに活躍盗られたからちょっと複雑ですらある。




「……は、はい。その、お名前は?」


あ、一回くらい『名乗るほどでもない』って言ってみたかったんだよね。言うか、ここで。



「ッ……名乗るほどの者ではない」



言えた。一回言いたかったんだよ。ん? アーサーが俺の名前バラしやがった! いや、いいんだけどさ。ちょっと、間を考えて……



「……フェイのそれは謙虚じゃないと思うよ、卑屈になって、その子を悲しませてるだけ。助けたんだったら、偉そうにふんぞり返ったら良いと思う」




コイツ、凄い良い事言うな。俺が前に言ったような気がするが……何か、論破された気分だ。



「わ、私は、へ、ヘイミーって言います! その、名前を覚えて頂けると非常に嬉しいです……」

「……ヘイミーか……」



ヘイミーだって!?



あれ、そう言えばこの世界ってノベルゲーだよな。



平民のヘイミー……明らかに韻を踏んでるよな? これあれだな。作者がゲーマーたちに名前覚えやすいようにしたんだな。



えー、じゃあ、どっちだ。平民だからヘイミーって名前にしたのか、ヘイミーって名前を思いついたから平民にしたのか……。こういうのって気にしちゃうと暫く悩むんだよな……。


ゲームの裏事情みたいな、作者側の気遣いみたいなのって気になるのなんでだろー!


普段は気にしないことをふと考えると、気になるのなんでだろー!



あー、全然話が頭に入って来ない。



帰りもずっとこのことが頭にあって、四人の話が聞こえないし、夜もよく眠れなかった。



そんな感じで初任務は終わった。





面白ければモチベになりますので★、等宜しくお願い致します

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