14話 勘違いフェイ
薄暗い牢のような部屋。僅かな星の明かりだけがその部屋を照らす。そこに、一人の少女と思われる子が椅子に座っていた。小さく、黒髪に赤い眼。
「それで、俺に何の用なのですか? 任務から帰ってきたばかりなのですが」
そんな少女の前に一人の男性が立っていた。赤い髪、赤い眼、鋭い眼光は見る人によっては恐怖となりえるだろう。
「あぁ、別に大したことじゃねぇ。新たな任務をお前にやるよ、サジント」
「……大した事のように思うのですが」
「うるせぇな。お前は俺の駒だろうが。バリバリ働いてろ」
「はぁ」
年齢的にはサジントと言われた青年の方が明らかに年が上であるにもかかわらず、少女の方が偉そうに暴言を吐く。それを彼はいつものこととして割り切っているようだ。
「それで、何をすればよいのですか?」
「なに、簡単な教師の仕事だ」
「教師ですか」
「あぁ、先日仮入団が行われた聖騎士モドキ、そのとある部隊の初めての任務にお前が同行し、その後も監視をする。それだけだ」
「……はぁ。なぜ、監視を」
「まぁ、取りあえずこれ見ろ」
そう言って少女は袋の入った書類を無造作に投げる。その中にはとある特別部隊の聖騎士たちの名が。
「アーサー……確かに何かありそうではありますが」
「そいつ、ここに来る前の経歴が一切わかんねぇ。どこで何をしていたのか、しかも、それなりに戦える。こんな化け物がどこに隠れてたのか謎だ」
「冒険者とかでは」
「それもあるが、もっと前だ。生後から十数年、そいつを知る者が誰も居ない。剣術の才能、加えて、光の星元? 馬鹿か、原初の英雄、アーサーとまるっきり同じじゃねぇか。そいつはぜってぇ何かある。監視して報告しろ。そいつがお前の最大にして最も優先すべき任務だ」
「……了解しました。そして、トゥルーと言う少年も監視対象ですか?」
「あぁ、そいつ、あの災厄の村の出身だ」
「……なるほど」
「それに加えて、全属性適正だとよ。いやだね、天才って言うのは。とりまそいつも監視対象だ」
「それだけで?」
「あ? 文句あんのか? 俺の決定に」
「……いえ」
「まぁ、勘だけどよ。そいつは」
「そうですか」
はぁと、ため息を溢すように吐き捨てる。サジントと言う青年。こういった横暴には慣れているのかもしれない。
彼は資料に目を通していく。そうすると、もう一人の少年の資料に気づいた
「そして、フェイ……と言う少年ですか。今年で15……無属性だけ。特別部隊に入団したが……そんなに」
「馬鹿、重要なのはその後だ。二枚目の資料を見ろ」
「……」
「一枚目、それは普通の表向きのそいつの評価だ。だが、先日のガレスティーアの馬鹿の件は聞いてるな?」
「はい。色々と騒ぎ立てている者が居るらしいですが」
「それ、黙らせたのほぼそいつだ」
「……腹切り、ですか」
「馬鹿だろ。そいつ? ただの剣の指南役の為に命を張ってんだ。表向きはとある聖騎士って言われてるが、情報によればわざわざランスロットの馬鹿に直談判をしたらしい」
「誇り高い、騎士に思えますが」
「俺がそいつを妙だと思っている理由はいくつかある。一つは、成長速度だ」
「成長速度ですか?」
「あぁ、そいつ入団時はダントツのドベだったらしい。入試では剣術のけの字も知らない雑魚。だが、この5か月で信じられない程の上達ぶりを見せたらしい」
スラスラとフェイについて、話していく少女。その話を聞きながら資料に目を通す、サジント。
「かなり、努力家なようですが。ほぼ毎日訓練をして、実を結んだのでは?」
「ただの餓鬼だぞ? 特別部隊の訓練に加えて、自主的に訓練をするってどんな異常者だ。お前だってあそこの訓練のヤバさは知ってるだろ」
「まぁ、そうですが……」
「あり得るか? いきなり馬鹿みたいに力も求めて。剣の指南役の為に、いや、自身が強くなるためと言った方が良いか。命を懸けてんだ」
「ユルル・ガレスティーアと恋仲的な関係では」
「それはねぇ。俺の女の勘を信じろ」
「はぁ……ですが、特段怪しい点は無いように思います。出身の村が多少、聞いたことがある所ではありますが……」
「成長速度……そして、異常な訓練力。色んな意味で危険だ。力だけを求めて破滅する騎士は多い。最も監視すべきはアーサーだがそいつもついでに見張っとけ」
「命令ならば了解しますが……自分はそこまで――」
「四枚目見ろ」
「……」
「聖杯歴3027年。そいつの村が滅んだ。同じくさっき言ったトゥルーもだがな。そして、その時期にマリアの孤児院に二人とも入っている」
「……」
「そして、聖杯歴3029年。そいつが13歳の誕生日になった時だ。まるで、《《人が変わった様な立ち振る舞いが増えたらしい》》」
「……なるほど」
「親が死んで、ショックを受けて人格が変わるって話はよくあるが。そいつは二年のスパンが空いている。良く分かんねぇ。だが、これは何かある気がする……俺達の想像を超えるような現象……そんな気がする……」
「貴方が言い淀むなんて、明日は槍でも降るんですか?」
「殺す……コイツの場合は少し、何とも言えない勘だ。無論、アーサーが最優先だ。そいつは勘は勘でも、確信している勘だ。残り男二人は……アーサーを最優先と言う事を守る範囲で報告」
「了解しました」
「まぁ、仮入団が終わった後は、一回目の任務以降、相性とか、経験、互いの良い刺激とするために別々の部隊のメンバーと組むって話はよくあるんだが……」
「その場合、三人全員の監視は不可能です」
「アーサー、一択だ。必ずそいつの任務に同行しろ」
「……分かりました。ただ、根回し頼みますね。俺、ロリコン認定されそうで」
「あー、まぁ、一応、俺は円卓騎士だからな。才能ある原石に三等級聖騎士を付かせたいとか言っておいてやるよ」
「流石、円卓の騎士団。11人しかいない最高等級である一等級聖騎士。頼みますね。ノワール様」
「あぁ、そこら辺は任せとけ。本当はもっと駒が欲しんだがな、そしたら全員監視できるんだが」
「誰か引き入れればいいのではないですか?」
「騎士団はきな臭い奴が多い。それにあんまり多くすると漏れるからな」
「ですが、十二人しか駒が無いのに、明らかに仕事が過剰な気が」
「うるせぇ、話は終わりだ。とっとと行け」
「了解です」
追っ払うようにサジントをノワールと言う少女は部屋を出て行くように命令する。そして、彼女はとある聖騎士の資料に再び目を通す。
フェイについて、書かれている資料だ。
「……アーサー、が最優先で良かったのか……? こいつ、俺が思っているより危険なんじゃ…‥いや、考え過ぎか」
これは本当であるならば、アーサーとトゥルーを怪しんだ聖騎士が監視をするために行われるイベントであった。だが、そこにフェイが紛れ込んでしまった。無論、彼女がフェイの信条を知ることはない。ここから、ゲームのシナリオとはかけ離れていく。
だが、ゲームと同じ点として、言えるのはボウランは何の話もされないと言う事である。
◆◆
アーサー達の仮入団期間がもうすぐ終わろうとしている。
「はい。皆さん! もうすぐ仮入団が終わります! 本当にここまでよく頑張りました! 先生は嬉しいです! ここからも色んなことがあると思いますが頑張ってくださいね!」
「おう、先生も乳揺れて大変だと思うけど」
「ボウランさん! 下ネタは止めてください! 私、あまり好きではないので!」
ボウランがケタケタと笑う。それを見ながら一人を除いた全員がもう、この風景も見納めかと複雑な心境になる。
アーサーとトゥルーがお礼を口にする。
「先生、色々、ありがとう」
「僕も本当にお世話になりました。ありがとうございました」
「いえいえ、アーサーさんも、トゥルー君も頑張ってください! お二人は私なんかより、才能あふれているのでこれからが楽しみです!」
頑張れ! 頑張れ! そんな元気一杯な感じで23歳であるユルルが応援を送る。その様子を見て、一人を除いた三人が、子供っぽいなと感じる。
だが、そんな彼女が少しだけ、言い淀むような感じでフェイに目を向ける。
「そ、その、フェイ君は今後も、毎日、訓練を一緒にすると言う事なので、お、お別れはまだまだ、ですね。えへへ」
「そのようだな」
まだまだ別れるなんて、事が無いと分かっている。それが嬉しくて、顔を赤くして、先ほどまでの様子とは全く違う乙女の様子をのぞかせるユルル。
この様子を見ている者が居れば、一瞬でフェイの事をユルルは好きであると看破できるのであるが……もし、居たとすれば応援する者もいたのかもしれない。
だが、非常に残念な事に……
ボウラン……天真爛漫でガサツで気付かない
アーサー……そもそも恋とかよく知らない。ガチガチのコミュ障天然
トゥルー……モテるくせに鈍感系。恋愛全く知らない
――そしてポンポン痛いのかなと考え、勘違いしているフェイ
ユルルの恋は多難であった。
「で、では、今日の訓練はここまでです! お疲れさまでした!」
そう言って解散をする三人。だが、フェイは訓練の為にそこに残った。
「あ、あのフェイ君」
「……どうした?」
「か、仮入団が終わったら、正式な聖騎士として活動をすることになります。その、お祝い、と言うか、これからの活躍祈願みたいな……その、ですから、こ、今度の休日、私と、一緒にご、ご飯とか、どう、ですか?」
「俺は基本的に訓練をしていて、休みがないのは知っていると思うが」
「あ、そ、その、訓練がない日にも訓練をしているのは知っています。私も手伝っていますから……で、でも、あまりきつくやってもいけないなって……偶には訓練を休んですね、一緒に、ご飯を」
「そうか……」
纏まらないうちに食事を誘って、頭と眼がぐるぐる状態で顔真っ赤状態のユルル。だが、そんな彼女を気にせず、ふむと僅かに腕を組みに考えるフェイ。
「や、休むのも訓練ですよ。た、偶にはいいではないでしょうか?」
「そういうものか」
「し、師匠として言わせてもらえば、休むのも訓練です!」
「では、そうしよう」
(や、やったぁ。ちょっと罪悪感あるけど、で、でも嘘じゃないし、そもそも、本当の事を言ってるだけだし。休むのも訓練だよね!)
内心すごい喜んではいるが、それをあまり表に出さないように心掛ける彼女。だが、素直なので思いっきり出ている。
「や、約束ですよ?」
「あぁ」
そう言って、またしても何も知らないフェイは逆立ちで王都を回り始めた。
ドキドキと胸が高鳴るユルルは逆立ちをして離れていくフェイは熱い視線を注いでいた。
そして、フェイが完全に見えなくなったら、嬉しくてウサギのように二回ほど跳ねた。
■◆
それは、とある日。
紫の髪のポニーテールに、灰色の眼。体も凹凸があり美しく、百人いれば百人振り返るほどの美女。そんな少女が王都ブリタニアで柄の悪い男に絡まれていた。その男はお酒臭く、明るい時間帯、昼頃から酒を飲み、冷静な判断力を失ってしまっていた。無理に自身好みの女に手を掛けようとする。
「なぁ、ちょっと良いだろうって。付き合えって」
「……」
乱暴な男性に腕を掴まれるが、何もしない少女。言葉が出ないのか、出さないのか、それは誰にも分からない。
ただ、感情は僅かにあるようで大人しそうな目から僅かな反抗心が伺える。男性の手を振り払って、距離をとる。
「おい、だから、ちょっとだけ――」
そう言って三度手を伸ばそうとする。男性の手を、誰かが掴んだ。黒髪に黒い眼。その眼は虚空のようで同時に龍のように鋭かった。
「不快だ。去れ」
「ああ!?」
「……もう一度言う。去れ。三度は言わせるな」
「――ッ」
ゾクっと、全身の毛がよだつような感覚に男性は襲われた、酔いは一気に冷め。震える脚を無理に動かしながらそこを去る。
それを見て、男は僅かに助けた女を見る。だが、何も言わず、礼を求めず、気遣いもせず、彼女の元を去った。
本当に、自身が不快であったから助けたのであろう。彼女に見向きもなく、ただ、ただ、その場を去る。
自然と女性はその男性の背を負っていた。
「ベータ?」
男が向ける背の反対方向から、優しそうな女性の声がする。振り返ると、助けられたベータと呼ばれた少女と全く同じ外見の女が居た。眼は少し、鋭く、髪型はショート。
ただ、体の凹凸は同じようにしっかりとでていて、美しかった。
「……」
「どうしたの?」
「……」
「なにかあった?」
「……ッ」
ベータと言われた少女がコクリと頷いた。
「そっか。ごめんね。私、少し買い物に夢中になっちゃって。怒ってる?」
「……」
頭を二回振って、少女は答えた。
「そっか、じゃあ、寮に帰ろう。ガンマも待ってるし。今日はお姉ちゃんが昼食作るからね」
「……」
「その眼は何? もしかしていや?」
「……」
コテンと首を傾げる、何とも言えないようだ。
「まぁ、良いけど。私が作るから」
「……ッ」
「え? ベータが作る?」
「……!」
「え……まぁ、歩きながら決めよう」
そう言ってベータと彼女の姉であるアルファは歩き始めた。ふいに、僅かにベータが足を止める。
そして、先ほどの男の歩いて行った方を振り返った。だが、そこにはもう、その姿は無かった。
あの彼をどこかで見た気がする。僅かにベータはそう感じた。男らしく、寡黙でどんな人なんだろうと気になった
■◆
さっき、美少女が変な奴に絡まれてたから救ったぜ。
いや、それにしてもベタだな……
でも、嫌いじゃないよ、ああいうの。主人公の見せ場を作る代表的な奴だもんね。
あの女の子、誰だか全然知らんけど。いやー、救った俺が、俺の出番を作ってくれてサンキューとでも言いたい位だ。
ビシッと決まったよね。こう、カッコよく雑魚を撃退する主人公。これはあるあるよ。もう、これやらないとみたいな? 通過儀礼だよ、あれは。
俺が今まで訓練してきたから、その覇気にもやられたんだな。お酒臭かったけど、酔いも覚めた感じだったし、ええ感じに小者や。
あそこでさ、実は滅茶苦茶アーサー位強いとダメなんだよ。いや、本当に良い感じの小者だったなぁ。今後もああいうの期待。俺の見せ場を作る小者は嫌いじゃない。クズだとは思うが。
普通に女の子に絡むのはクズ、これは変わらない。
そして、俺はクールに去るぜ。クール系主人公なんで、助かった子に一々声はかけないのだー。
クール系主人公は背中で語るんだぜ。
さてさて、師匠との食事に向かいますかねー。あ、やばい、不良から救って、ちょっとカッコいい背中を見せたくて、ゆっくり歩いてたら遅刻だ!!!
面白ければモチベになりますので★、等宜しくお願い致します