表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/74

12話 聖騎士長様

「では、ユルル君。君は衝動に駆られ、自身の教え子を手に掛けようとしたと? そういうことでいいんだね?」

「はい……」

「うむ……そうか」


 重々しい声を発して、眼を閉じ、悩むそぶりを見せる。とある男性。彼は豪華な執務室で両手を組んでいる。


 そんな彼の前にはユルル・ガレスティーアが暗い顔をして立っていた。彼女はあの後、フェイに敗れて正気を取り戻した。無論、フェイとの戦闘中にも徐々に戻る兆しは見せていたのだが、完全となった。



 彼女は闇の星元による反動によってあの惨事を引き起こしたことは誰も知らない。だが、彼女が生徒を襲ったと言う事は知られてしまった。


 そして、彼女は自らの意思で今ここに居る。円卓の騎士団本部、四階。執務室。


 円卓の騎士団、聖騎士長、ランスロットの元に。


 白髪で髪を上げてでこを出し、そこには十字の傷が。年齢は40歳でありかなりの年配者。だが、そこからは重々しい覇気を感じる。



「いやいや、どうしたものか。どうかね? コンスタンティン君?」

「……今回の事件、そして、身内問題、全てを考えると、騎士団除名も考えられるとコンは返答します」


 ランスロットの隣には、金髪の女性が居た。顔は包帯によってグルグル巻きにされている。その為に見えないが、声からしてまだまだ若いようイメージをユルルは受けた。



(初めて、声を聴いた……この人が副聖騎士長、コンスタンティン)



 長年騎士団として、活動をしている彼女にとってランスロット聖騎士長は話したことはないが、声を聴いたことはあった。だが、コンスタンティンは一度も無かった。実力はかなりのものだと聞いたことがあるが。


 彼女は最下層である為に、最上層と言われる二人とは話した事もない。だが、コンスタンティンは特例でいきなり、副聖騎士長に任命をしたと言う話は有名であった。


 聖騎士長が実力を認め、さらには超強個体である逢魔生体を撃破したと言う事から、聖騎士長自らスカウトをしたと言う話を何度も聞いていた。




「確かにそうとも言えるかもしれないね。いやいや、困ったものだ。マルマル君から直接推薦を受けた君を除名しなくてはならないとは……君個人としてはどう思うのかね? ユルル君」

「わ、私は、本当に、取り返しのつかない事をしてしまったと感じています……その、除名も当然であると」

「ふむ」

「で、ですが……もう少しだけ、聖騎士としての活動を許していただけないでしょうか!?」

「ふむ……なぜ、と聞いてもよろしいかね? 正直に言ってしまえば、君はこの騎士団での居場所が無いのではないかな。それでもすると?」

「ど、どうしても、ここに残りたい理由が、あ、あるんです。け、剣を教えたい教え子が居ます!」

「なるほど……しかし、どうしたものか……騎士団の中では既に君の除名を求める声が多数存在するのも事実。ここは組織である為に統制が取れなくてならない。この状況を打開する何か、良い案でもあるかね?」

「そ、それは……」

「まぁ、まだ全てがわかったと言うわけではない。詳しく追及をし、議論をし、結論を出す。それだけだがね」



そう言われてしまえば、彼女は何も言えない。沈黙が支配をする。このままでは除名となってしまう。だが、彼女はどうしてもここに居たかった。


でも、と目の前の存在をどうにかする力は自分にはないと思っても居た。


そんな時、執務室のドアをノックする音が響く


「入りたまえ」

「失礼します、聖騎士長。いきなりで申し訳ありませんが、急ぎの様故、急な来訪をお許しください」

「構わんよ。マルマル君。そして、その後ろに居るのは」

「彼女が担当をしていた仮入団団員の者達です。事情を話して貰う為に連れてきました」

「そうかね。では、詳しい事を聞くとしよう」



マルマルがフェイ達を連れて、執務室を訪れていた。ランスロットが最初に目をつけたのはフェイ。



「君が彼女と戦って勝ったと聞いている。詳しく聞いても?」

「あぁ、構わない」

「ちょ、フェイ君。敬語は使って!」

「マルマル君、構わないよ」



ハハハと豪快に笑い飛ばすランスロット。だが、マルマル、そして、ユルル、トゥルーもボウランも、驚いていた。何処の世界に聖騎士長にいきなり、溜口で話す十二等級の騎士が居るのか。


(フェイ、流石。相手が誰でも対応を変えないメンタル。凄い)



アーサーだけは感心していた。



「そもそも、こんな茶番に付き合う気はない。手短に終わらせよう」

「ははは、茶番か。面白いことを言う、どういう意味だね」

「そのまんまだ。そもそもそいつが襲った理由は訓練の一環だ、聖騎士たるもの常にどんな時でも最適な行動をしなくてはならない。その訓練をして、そして、このボウランが焦って勘違いした。それだけだ」

「ガハハハッ、面白い! では、あれは全て訓練だと? 命のやり取りをした君との戦いも?」

「あぁ、その通りだ。命のやり取りをして、初めて強くなれる」

「いやはや、面白い子だ。だが、既に他の聖騎士たちは除名を求めている」

「たかが、訓練如きに随分と騒ぐんだな、聖騎士と言うのは。仮入団の俺が言うのもなんだが、暇な奴が多いらしい」


「「「「!?」」」」



ほぼ全員が驚きを隠せない。



「も、申し訳ありません、聖騎士長! 彼はまだ」

「構わんよ、マルマル君。彼の言う事は実に面白い。全てを許そう。だがね、少年。世の中にはどうしても曲げられない事がある。私達は今回の一件を強く受け止めている。過去の事件について君も少しは聞いているだろう。それが今も尾を引いており、そして、この一件が流れた。これで何も処罰なしでは、組織としての体制を揺るがしかねない。それに今まで以上に聖騎士たちの眼は彼女に厳しくなるだろう」

「……」

「だからこそ、正直私としてはね。彼女を除名するしか道はないと感じている。多数の聖騎士たちの意見。覆したいのであれば、それに勝る何かを君が提示しなくてはならない。彼女があのガレスティーア家の子女として生きることで他の騎士が不安になり、最悪の場合死んでしまうと言う可能性がある中で、それでも君は彼女を庇うつもりかね?」

「あぁ、俺にはそいつが必要だ」



即答。自然とユルルの瞳から涙が溢れる。



「では、問おう。そこまで言うならばその道を示す覚悟。そして、責任が生まれる。もし、彼女がガレスティーア家の子息達のように、何らかの不祥事を起こした時、君はどう――」

「腹を切って死んでやる」

「……なに?」

「俺が、腹を切って死んでやると言った」

「……ククク、がハハハは!!! いやはや、本当に面白い子だ。命を懸けると? コンスタンティン君、君はどう思うかね?」

「……聖騎士たちの多数意見は重要ですが、一人の聖騎士の生命には及ばないとコンは考えます」

「ふむ、では?」

「本当に生命をかけるのであれば、除名を免除することも可能ではないかと。彼女を除名するには聖騎士たちも命を懸ける他ないとコンは考えます」

「そうか……では、今回の一件は訓練の一環が誤った情報で流れ、そして、もし、本当にそのような事があれば、誇り高き聖騎士一人が腹を切って死ぬほどの約束をし、除名に強く反対をした。そのように聖騎士たちに通達を」

「了解しましたとコンは早速業務に向かいます」



コンスタンティンは暗殺者のように静かな、足取りでその場を去った。


「おい、話は終わりか?」

「勿論だよ。ただ、本当に何かあった場合は死んでもらうことになるだろう」

「そうか。おい、行くぞ」

「え!? あ、あ、はい!」



フェイはユルルを連れて、勝手に出て行った。アーサー達はそんな自分勝手に動くメンタルは持って居ないので執務室に残る。


「聖騎士長。申し訳――」

「いや、気にしないでくれたまえ。命を懸けるとまで言われては、聖騎士長として動かざるを得なかったと言うだけなのだから」

「はい。感謝します」

「君たちも帰ってよい。ここの空気は重々しくて辛いだろう? ハハハ」



豪華にジョークを飛ばす。アーサー以外の全員がハハハっと空気を読んで笑う。だが、アーサーだけは……



「はい。確かにちょっと重かったです」

「「「!?」」」



アーサーお前もかと全員が思った。



■◆



 フェイがユルルの手を握って、外に出る。王都を歩き、行先を告げずに只管に歩く。



「あ、あのフェイ君……」

「なんだ」

「ど、どこに行くんですか?」

「戯け。お前が朝の訓練をすっぽかしたのだろうが。それをやりにいく」

「そ、そうですか。でも、もう、私に勝ちましたよね? 私なんかで……」

「あれは本来のお前ではない。それに既にある程度の体力は削られていた。本来なら俺が負けていた」

「そ、そうですか……」



 魔術的要素、身体的要素それらを加味すれば自身は負けていたと素直に告白するフェイ。だが、彼女からすればどうしたらいいのか少しわからなかった。自分は酷いことをしてしまった。


 彼を踏みにじる事を沢山言ってしまった。そんな自分に教える資格があるのかと彼女は悩む。



「私で、いいんですか?」

「お前しかいない。俺が強くなるためにお前が必要だ」

「……酷い事を沢山言ってしまいました」

「あれは本来のお前では――」

「でも、きっと心の奥底では思ってました……それがきっと」

「どうでもいい」

「え?」

「俺は、そんなこと気にしている暇はない。ただ前を向くだけだ。それに、あれは間違ってはいなかった」

「……」

「だが、勘違いするな。それでいいと思っているわけじゃない。お前の、ユルル・ガレスティーアの全ての認識を改めさせてやる。言ってしまった事を気に病むなら、お前は俺の近くで俺を見ていろ」

「――ッ」



その眼は、男の眼だった。その眼に、ドキリと胸が弾む。矢で刺されでもしたのかと心配になるほどに、彼女の心臓が跳ねた。




「俺が、最強になるのをな」

「……はい。私、そうさせてもらいます」




ドキドキと心臓の鼓動が大きくなる。彼が握る手を自然と強く握ってしまう。彼女は皮肉にも破滅を辿った兄と同じ眼をする男を愛してしまった。


それは、きっと魂の輝き。ひたむきさ、自分を誰よりも必要としてくれることへの喜び。


嘗て、幸せを全て溢し、失った。そこからは苦難の連続で悲しい出来事も沢山あった。


でも、自分の手にはまだ、幸福があったと、再び掴みとれたのだと、彼女は嬉しくなる。


兄のように彼はなるのだろうかと彼女はふと思う。だが、関係ないのだと彼女は頭を振るう。


(私が、彼を導く……そして、願わくば……一緒に、ずっと、同じ景色を、貴方と……)



彼女は再び、彼の手を強く握る。



「ありがとう。フェイ君」

「ふん、そんなことを言ってる暇があれば、剣を教えろ」



■◆




 ユルル先生に勝った後に、俺は気絶した。そして、ボウランから聞いた。



「おい、ユルル先生が除名、かくかくしかじか!!!」

「ほう」



なん……だと……。そんなことはさせない。師匠ポジが消えてしまうのはダメだ。それにこんなに俺を育ててくれて、素敵なイベントまで提供をしてくれた人が除名だなんてダメだ!




これからも、弟子として色々聞きたいのに! まだ初伝しか教わってないですよ! 先生!



そんな訳でマルマルとか言う先生にあって、乱入を決意。闇落ちの理由を全部ボウランのせいにして、誤魔化そう。そう思って四人には話しておいた。


そして、説明の為に四階の執務室に行ったが……あー、豪華だな。そして、おじさんが出てきた。


ふーん、聖騎士長様ね……あー、ごめん。上から目線は基本だから、マルマル先生も我慢してね。


うーん、いずれ俺がこの執務室で偉そうにふんぞり返ることもあるかもしれないな。ちゃんと掃除とかしておいて感心だな。


あの席良い感じだから、俺が英雄になったら使おう。


さてと、後は適当に嘘をついて、終わりにしますね。


そう思ったのだが、あの聖騎士長様にはバレている感じだった。ほう? やるじゃないか? 


 俺の嘘を見向くとは? 貴様、只者ではないな? あ、そう言えば聖騎士長か。



「では、問おう。そこまで言うならばその道を示す覚悟。そして、責任が生まれる。もし、彼女がガレスティーア家の子息達のように、何らかの不祥事を起こした時、君はどう――」

「腹を切って死んでやる」



 ――判断が早い!!


 これには聖騎士長様も納得の表情である。まぁ、俺は主人公だから、主人公補正とかあるし、死ぬわけ無いんだけどね。


 取りあえず、師匠の為に命かけときます!



 ユルル先生の手を取って、執務室を出る。朝の訓練できなかったからやらないとね。それに先生も悪いことしてると思ってるわけだし、体動かしてリフレッシュしてほしいみたいな弟子の気遣いである。



「ありがとう。フェイ君」


 ちゃんとお礼が言える先生。これは闇は晴れたな? ふ、主人公の俺としては当然の結果だな?


 闇落ちから救うとか、こんなの偉業でもなんでもない。空気を吸う位の事だしね? 

でも、お礼を言われて悪い気はしない。



『まぁ、でもどういたしまして。これからも剣教えてくださいね」

             ↓

「ふん、そんなことを言ってる暇があれば、剣を教えろ」





応援いつもありがとうございます。面白ければモチベになりますので★、宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=417612673&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ