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10話 鬱対お花畑 前編

 最初に死んだのはユルルの母であった。ガレスティーア家三男であるユルルの兄、ガへリスが自身とユルルの母を無残な姿で殺した。死体はバラバラで、それを見たユルルはそれがあの母であると言う事に気づくことが最初は出来なかった。


 これにより、ガへリスは六等級聖騎士の称号を剥奪。指名手配に。


 次に、次男であるアグラヴェインが聖騎士を十二人惨殺した。アグラヴェインは五等級聖騎士であり、彼も剥奪され犯罪者として指名手配。


 そして、長男であるガウェインも元々は三等級の聖騎士であったが、父を殺し、剥奪をされ指名手配。


 彼女は一気に全てを失った。あれほどに優しかった兄がどうしてなのか。そして、最も衝撃的だったのが、長男、ガウェイン。


 ずっと優しくて、幸せな生活だったのに。父のような、母のような、兄のような、誇り高い聖騎士を目指していたと言うのに。彼女は全てを失って、周りからは遠ざけられるようになった。


 惨殺された十二人の聖騎士は波風清真流によって殺されていたらしい。さらに、未だに三人の兄は犯罪者として世界に解き放たれている。三人は曲がりなりにもガレスティーアの子、父から波風清真流は学んでおり、それを使っている。


 だから、自然と剣術の評価は悪くなる。人殺しの剣。惨殺された十二人の聖騎士の親しい者も円卓の騎士団におり、それにより聖騎士の中でもその剣術は好ましくないものとなる。


 もう、何年も前の出来事である為に少しづつ忘れ去られているが、やはり忘れずに恨みを持つ者は沢山いる。


 未だに、被害者である父も母も悪いように言われるようになったいる。特に騎士団ではその噂が強く残っており、等級の高い聖騎士三人が唐突に起こした大惨事。そんな場所に己を置くことがどんな覚悟であったか。


 だが、彼女は父と母の汚名を晴らしたかった。貴族でもない、既に没落をした家。でも、彼女にとっては誇りであった。だから、彼女は必ず家名を名乗る。どんなに否定をされても。


 でも、やはりそんな簡単にはいかなかった。等級は上がらない。嘗て、兄たちが高い等級で事件を起こしたから。等級が高くなるほどに影響力は強くなる、再びそんな事件が起きるかもしれないと勘ぐる騎士は多かった為である。


 それに加えて、無属性しかもっていないと言う欠陥性を指摘された。剣術だけでは意味がない。ガレスティーア家の子が聖騎士として活動を大きくするのは不安分子となる。と大多数の聖騎士は感じていた。


 未だ白き手の剣士(ボーメイン)。これは彼女に勝手に付けられた侮辱と軽蔑を表す二つ名。いつか、あの呪われた一家の子が災いを起こすと、嘲笑う呼び名。



  でも、それでも、彼女は必死に走る。聖騎士とて、任務に。兄たちの足取りを追うために休日を捨てて情報を探索。必死に、毎日喰らい付いた。何か、大きな功績を残せば変わるかもしれない。父との約束、汚名を晴らす。その為には……


 そう思って、六年間活動をしてきたとある日だ。


 頑張っていた彼女に救いの手が僅かに差し伸べられる。彼女を評価をする聖騎士が現れた。五等級聖騎士であるマルマルだ。


 マルマル、彼は彼女の剣の腕を高く評価をしていた。それなりの影響力がある彼は彼女を剣術の教師役として推薦をし、それに便乗するように他にも、彼女の僅かな同期数名。それにより、彼女は剣を教えることになる。


 彼女を知る教え子の中には、拒否反応を示す者が殆どだ。辛いと言えば嘘になるが、それでもそれが何かに繋がればと。


 そして、掴みとった特別部隊の剣術指南。この部隊から育った聖騎士は偉大な功績を残すことが多い。だから、彼女は張り切っていた。


 もし、この中から次世代の英雄が選出されれば、英雄を育てた教師として、少しだけ評価を変えられるかもしれない。



 希望に縋ってずっと生きて来た。そこで出会ったのだ。嘗ての兄と同じ眼を持つ少年に。



■◆



 フェイに付き合って、夜の訓練を終えたユルルが人通りのない王都を歩く。彼女は騎士団の寮が好きではないので、宿を借りてそこに住んでいる。そんな彼女は少しだけ、嬉しそうであった。


 先ほどの訓練ではフェイが『波風』を習得することが出来たからである。父から始めて自身が教わった剣術、それを誰かに繋げたことが少し嬉しかったからだ。


(フェイ君は……危ない所もあるかもしれないけど……私が教師として、そんなことさせないように導けば!)


 気付けば、彼女はフェイに入れ込んでた。犬のように訓練訓練と寄ってきて、仏頂面であるが、日々、真面目に訓練をする者に好感を抱くのは当然である。頭の中でフェイの事を考えていると、自宅に到着する、僅かに前。


「……誰ですか?」


 彼女は重々しく呟いた。気付けば常備をしている鉄の剣に手を掛ける。だが、返答の声は彼女の重々しい物とは異なっていた。


「すまないすまない、驚かせてしまったようだ」


 黒いローブ、顔が見えない。だが、声からして男性であった。


「あなたは?」

「僕の名は……そうだな。ナナシって言っておこうかな」

「……私に何か用ですか?」

「あー、何というか、可哀そうだったから救ってあげようと思って」

「……」

「これ、あげるよ。それで、恨みを込めながら、自分の腕を刺すんだ。呪いと自身の血が……《《君を導くよ。兄のように》》」



 男に黒い短剣を渡され、そこから、プツリと記憶が途切れた。彼女はフラフラと人形のように自身の宿に帰って行く。それを見て、ローブの男は嗤った。


「まさか、あの三人の妹が居るとは……これも運命か、四人そろって実験に付き合ってくれるなんて。素晴らしい家族だ」



そうして、その男は消えた。そこには誰も居ず、何もない。ただ、冷たい風が吹いていた。



■◆



 ――グシャ


 何かが、えぐれる音がする。水をはじくような音がする。血が机の上に水たまりのように溜まって行く。何度も何度も何度も何度も、ユルルは自身の手に短剣の突き刺していた。


 白い手が、気づけば、生々しい赤に。恨みが大きくなっていく。不満が大きくなっていく。


(無属性しかないから、なんだ。兄が三人共、殺人鬼だからなんだ)


 

  只管に狂ったように、手に短剣を刺す。痛みが、僅かに恨みを緩和させてくれる。



(私が、何をしたって言うんだ。あいつら、妙な二つ名つけやがって、教え子の癖に、生意気なんだよ)



 衝動が、衝動が、只管に強くなる。この恨みを、怒りを、もどかしさを、誰かに、アイツらにぶつけたい。


 黒い黒い感情が、彼女に湧いた。血の池に僅かに顔が映る。もう、どうしようもなく彼女は歪んでいた。



(あぁ、あぁぁぁぁぁ!! 衝動が止まらない!! この衝動を誰かにぶつけたい!!!)



 彼女は狂い始めていた。




■◆


〈速報〉俺氏、波風を習得!!

〈速報〉俺氏、波風を習得!!

〈速報〉俺氏、波風を習得!!

〈速報〉俺氏、波風を習得!!



 いや、遂に俺も必殺技を習得してしまった。トゥルーとかボウランが、魔術の授業でエンチャントとか、砲撃魔術とか、ぶっ放しているからさ。隣で少し、肩身が狭かったから余計に嬉しい。


 アーサーも魔術やべっぇし。何なんだろう、バカみたいに魔術放つの、止めてもらっていいですか?


 俺は、今の所、魔術適正がなく、星元(アート)操作もクソらしい。ダントツのドベ。


 魔術の教師役の人っていつも、俺に嫌味言うんだよな。才能ないとか、止めろとか。


 お前はドベだって? それって、俺からすると、もう上がるしかないって意味に聞こえる。これくらいの事を考えられる鋼のメンタルは主人公の基本。ドベなら下がる事もないんだろう? 上がるだけしょ?



 はぁ、はぁ、波風を試したい。


 あぁ、衝動が止まらない。この技を誰かに試して、ドヤぁ! ってやりたい。波風を誰かにぶつけたいぃぃぃぃぃ!!!!!


 やっぱり、主人公は新技を習得したら、それを試す機会がないとね。俺主人公だから、そろそろイベント来そうだなぁ。


 それにしても、波風を試したい、衝動が、衝動が止まらないぜ!


 俺は新技を披露したくて、狂い始めていた。





面白ければモチベになりますので★宜しくお願い致します

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