交わりたい半直線
弟の声はとても澄んで聞こえた。
私にとっては守るべき唯一の弟だった。
生まれつき目の見えない弟はこの世界の醜さを目にしたことが無いのだろう。
私には希望に満ちた弟の声が何よりも美しく唯一の支えだった。こんな弟に私の声も聴いてほしいと何度思ったことか。
でもそんなことは出来なかった。弟を裏切りたくなかった。互いの唯一の支えが崩れるのが怖かった。弟の声で嘘つきだと罵られたくなかった。
ただ、静かに弟の助けになれればそれでよかった。
そんなある日、弟が提案をした。『モール信号を互いの手に指で刻もう』と。
弟の力になれるなら、そして私の気持ちを弟に伝えられるならと私は必死にモールス信号を覚えた。
そして私と弟は初めての意思疎通を図った。交えた言葉はそれほど多くは無かったが私は自分の言葉を伝えられる喜びにいつの間にか口から声が漏れていた。