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天女  作者: 南清璽
98/112

天女 第98回連載

「君は、この私こそが、その侵入者に他ならないというのかね。」

「いや、むしろ、あそこの、館のあるじの死亡に、関わっているのではと疑っているぐらいだ。死亡診断書に何らかの瑕疵があれば、それで十分に捜査の端緒になるはずだから。」

 一体、どれほどの推察をしているのだろうか。お館様の遺骸をこの診療所に運び、偽りの診断がされたこと、認識しているのか。だが、たとえそうであっても、なぜか、まだ、Kに観念する気にはならなかった。むしろ、行き着くところまで行ってみようと考えた。私にとっては、何も失わない賭けであったからだ。それに、世間を震撼させた、防疫と称して、行員に毒薬を飲ませた、あの事件も、決め手となる物証がなく、冤罪だという見解も持たれている。

「で、そうするのかね。」

「いや、しないつもりだ。」

 もちろん、その動機や思惑を質したかったが、そうすれば、とりもなおさず自ら認める様なものであるから、ここは聞かないのが賢明だと考えた。

「むしろ、お前自身で処断したら、と考えている。」

「意味不明だね。」

「官憲の捜査を受けるぐらいなら、名誉を汚さない途を選んだらどうか、ただ、そう述べているだけだ。」

 自決しろとでもいうのだろうか。だが、私には、医師の息子であるが、華族に列せられた訳ではなく、尊厳的な意味合いを持つ名誉などはないはずだ、なのに名誉を選べとは奇妙で、余りにも実態と乖離していないか、そんな自問が心中で行われた。いや待てよ。まさか、Kは、友情の証しと捉えてそう述べたのだろうか。知己である以上、犯人になってほしくないと。もし、そうなら、そんな感傷めいた発想に、薄気味悪さを覚えた。


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