天女 第97回連載
「何か、考えがあるのか。」
そうKに訊ねたのだが、それには何も答えず、
「そういえば、俺の話はまだ終わっていなかったな。」と、述べた。そうだ。そのとおりだ。私は、意味もなく、心裡において、こう述べてみた。それは、単に気を紛らわしたい、という想いからそうしたものだった。
「実は、お前にまだ糾さなければならない事がある。」
やはり、私如きの施した策は、あちらこちらで、ほころびが出てくるものだと実感した。これからKの、言わんとするものが、核心をつくものであろうことは、予測できた。うまく動揺の色を隠せればいいのだろうが。
「奇妙なことなんだ。診断書だが、複写して、一つを患者に渡し、そしてもう一つをカルテに保管する。ところが、通し番号から、使われたものと此処のカルテに残されているものとの数が合わないんだ。」
「そうなのか。」
私は、今までにない以上に素っ気ない態度を取った。
「これは、誰かが診断書を悪用したとの推察が成り立つものだ。」
「書き損じて、二つとも破り捨てたかもしれないじゃないか。」
「もちろん、その可能性は無きにしも非ずだが。だが、侵入者がいたかもと気になるものだから、窓の施錠を確認した。すると一箇所だけ開いていたよ。やはり、誰か侵入者いたと推察すべきじゃないかと。」
「結構の数じゃないか。一つぐらい忘れることもあるだろう。」
だが、これは不用意な物言いだったかもしれない。あたかも自身に疑いかけられて、そう繕っているとの疑念をKに懐かせるかもしれない仕儀だからだ。Kは、確かに、私自身に疑いを向けている。何よりも、関心を寄せたのは、Kのこれからの出かただった。有り体に、私にことを訊ねてくるのだろうか。その怜悧さへの警戒は怠られない。




