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天女  作者: 南清璽
96/112

天女 第96回連載

「君にと、ことづかったことがあるのだが。」

「ご新造様からか。」

「そうだ。」

「で、どういったことだ。」

「君に会いたいと。」

「用向きは聞いているか。」

「ああ。夫の懸想人を探して欲しいそうだ。」

「天女のことか。」

「そうだ。」

「それは頓狂だ。」

 Kは必死で笑いをこらえようとしていた。

「造作もない。今、同じ処に奉公していると告げるだけじゃないか。」

 Kのそんな物言いに対し、気恥ずかしさを覚えたばかりに、半ば取り繕い、半ば真実として、

「お会いしたとき、懐剣を見せられて、怖気付いたんだ。」

と、答えた。

「それで天女を刺すとでも思っているのか。」

「そんな塩梅だ。だから、天女の居場所をご新造様に告げない方がいいと考えたんだ。」

「だが、懐剣を持ち歩いているとは、尋常じゃないな。」

 やはり、Kもこのことについて思案しているようだ。そうして、自身も、人とは変わりゆく者だと思った。もちろん、ピアノを教えていたころは、大人になっていないあどけなさがあった。だが、そうでありながら、時として、実事を持ったこともあるのではと、そんな邪推ともとれる想いを抱いたものだった。それは自身が描いた勝手な空想であり、どことなくあった、妖艶さに触発された感があった。そこには魔性とも捉えていいものを備えていたと言うべきだった。そのせいもあって、悩ましさつきまとっていた。

「お前ならどうする?」

 Kはそう訊ねてきた。

「何かの理由でもこじつけて、天女を何処かに呼び出すよ。」

「だが、懐剣を忍ばせていたら、何処で会おうと同じではないか。」

「君が同席したらどうだね。そうして、ご新造様に思いとどまってもらう。これならどうだね。」

 Kは、こんな私の考えに、それなりに評価したが、彼なりに、何か別の算段があるかの様だった。


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