天女 第94回連載
「閉鎖した診療所だというのに、此処には、やけに診察を施している雰囲気がしてね。」
ややもすれば、Kの話し方は、大仰な物言いだと捉えられても、おかしくない感じだった。私に向けられた疑いから、そうなったのだと推察した。侵入したのは、他ならぬ私だと言わんばかりに。
「そうなのか。」
一応の肯定をした。それも、強く否定できないばかりにそうした次第だった。むしろ、関心なさげな反応だったかもしれない。こういった手管の応酬は概して、膠着に陥るものであり、それを嫌うばかりに何かの都合から、一旦は。他に話題が移せないものか、思案した。
「実は、天女のことで、君にお願いしたいことがあるのだが。」
「あの遊郭にいた女か。」
「そうだ。」
「どんなことだ。」
「知ってのとおり、お館様は死んでしまった。御令室も、しばらくはいいとしても、近い将来、あの家を出てもらうと。ただ、このままじゃ忍びないので、誰か彼女の面倒を見てもらえる人を君に紹介願いたいと、こういう次第だ。」
「それは、都合のいい話だ。」
「都合がいいとは?」
「そういった意味ではないが、俺もある御仁から頼まれている。天女の居場所を教えて欲しいという。」
「まさか?」
「そのまさか、だ。」
御曹司と。
「だが、それはいろんな面で面倒であるし、波乱含みでもある。」
「波乱含みとは、何だ。」
もちろん、これはご新造様が懐く、天女への忌々しさであり、父君から持たされた懐刀で、その彼女に危害を加えないかもしれない、ということだった。だが、それも大事だが、天女が、御曹司に会うのを避けようとしているのを、何よりもKに伝える必要があった。




