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天女  作者: 南清璽
92/112

天女 第92回連載

 正直、気がかりだった。お館様の例の死亡診断書が、偽物であることが露見しないかと。そんな次第であるから、役場に向かう自動車の中では何も話せずにいた。もちろん、令室もそうだ。ただ、令室が饒舌なのは私といるときだけで、運転手も、令室の、そういった気性を知ってか、黙々と運転を続けた。

「どこかしら?」

「あそこみたいですよ。」

と、それと思しき窓口を指差した。こうして二人してその窓口に赴き、死亡届の用紙を受取り、必要な事項を記入した。

 係員は、もう一人と、何やら、死亡診断書の様式が、こんなものでよかったか云々の、やり取りをしだした。だが、その様子を見て、令室は、

「早くしてくだされない?急いでいるの。医師は、これで死亡届が受理される、と言って、診断書を渡されたわ。」

と二人の上役と見られる男性に告げた。その男性は、かしこまって、

「承知致しました。係の者にそう伝えます。」と述べ、その二人に何かを告げた。そうして、令室に、

「まもなく、終えるとの事です。」

と、その次第を告げた。それにしても、迂闊だった。死亡診断書には、必要事項の記載が求められた。安易だろうか。何らの根拠も無しに、あの診断書で受理されるものだと考えた。これも未だ戦後という混乱期にあるからだ。いつしか、死体を山積みにしてこれから燃やすのだと、そんな会話を青年がしているのを見た。町工場だった。何でも爆弾が落とされたと。多くの死体がその青年と同じ年ごろのものだった。おそらく、それらには、診断書や検案書を取っていないはずだ。

「火葬ではなく、埋葬許可証の方が欲しいの。」

 令室は、こう述べて、係員から、許可証を受け取った。思えば巧妙なことだった。既に死体は、燃やされ土に埋められているが、法に基づき、それを行う程を取ろうとしたのだ。


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