天女 第91回連載
「お館様への憐れみの言葉を述べていました。手にかけた私としては、複雑な想いがしています。」
ふと、天女のこうした想いを令室に伝えたら、と思った次第だった。それに、気も紛れるだろうと。だが、私のこの言葉に対しては、令室は何も応じなかった。そうして、自身とお館様との間が、どんなものであったかを述べるのだった。
「夫に愛でられなくて、よかったと思っているわ。本当に、恐ろしかった。かぶっている頭巾を脱いだとき。」
ご婦人であれば、そうなるかもしれない。私は、お館様のあばた顔がが病の故であることが分かっていたから、それを忌み嫌う様なことはしなかった。だが、ご婦人ともなれば、その様な心持ちになれないと推し量った。
「きっと夫は察したのよ。私が夫の顔を怖がっているのを。だから、私を遠ざけ、遊郭に通う様になったのよ。ほんと、尋常じゃなかった。」
「何がですか?」
「遊郭への思い入れが。遊郭のために、わざわざ婦人科の診療所を開設してあげるのだから。」
それは、あの婦人科のことだった。お館様に錫杖で殴られ、その負った傷の縫合をしてもらった。医師は、そのとき、天女が脳黴毒との虚偽の診断書を作成したと告解した。だが、私は、単に。それを受けながしていた。
「きっと、悟ったのよ。」
「何をですか?」
「自分は、遊郭の女ぐらいしか相手にしてもらえないと。」
「天女と同じ心持ちですか?」
「そうかもしれないわね。」
憐憫の情。私は、この令室の言葉を、女性の感性の顕れとして、そう捉えた。むしろ、論理より言葉のインプレッションに重きを置いた様な、そんな具合いに。だが、だからといって、これを蔑む様な、想いもせず、それどころか、その心境を如何なるものかとの分析を試みていた次第であった。耽美も込められているのだろうか。こうして、死生観として、語られる、浄化なる言葉も、自己の連想の中に浮かんでくる有り様だった。




