天女 第85回連載
「御令室に、天女の存在が影を落としているのでは、と」
「天女?」
「お館様が、遊郭から引き取った女性のことです。」
「あの女ね。また、どうして天女と。」
「痩せ細っているので。」
「それで、そう呼んでいるのね。」
私が、天女と呼ぶことに令室は、如何にも合点がいった、と言わんばかりの感心ぶりを示した。それと共に、悦にも浸れた。令室も私同様に、その天女なる名付けから、彼女の人物像を、自らの思考の中で作り上げているのではと思う次第となった。
「その天女は、酷いことを夫からされていたの?」
「お察しが、いいですね。そうですよ。私の目の前で情を交わすのです。」
だが、このときの単に苦笑する令室の態度に、訝しさを覚えるべきなのだろうが、自身も似た様な心持ちであることには代わりなかった。むしろ、実態として、天女の方がお館様を弄んでいた。まさか、令室が、そこまで承知しているとは思わないが、その点も想像が難くないとする怜悧さに、侮れないものを感じてしまった。
こうして、女性と知己を得て、知る、そのそれぞれの意地というものに想いが馳せていた。そう、御令室、ご新造様及び天女にと。一方で、強さと脆さが居合わせる面も感じ取っていた。思えば、そういう面に、自身が翻弄されていたのは、事実だった。
「そうした苦行から解き放してあげるために、夫を殺したの?」
「では、ありませんよ。」
「それは残念なこと。何か哀しい恋でもあるのかと期待したのに。」
「確かに、残念でしょうが。でも、気がかりです。天女とのことを邪推され、嫉妬でもされたらと。」
「余り感じないわね。言っておくけど、意地を張っている訳ではないわ。今、あなた自身を支配できているのよ。こんな愉快なことはないわ。」




