天女 第84回連載
このまま、ずっと私の胸に顔をうずめておくつもりなのだろうか。私には、単に、一つの膠着にしか思えなかった。それにしても、いつも以上に悦に浸っている様だ。これも、お館様の存在が無くなったからだろうが。その死によって、もたらされる満喫。そう考えると、作為的に渋面を施してしまう。
「御令室以外に、相続する血族は、誰かいましたか。」
「そんな人、いないわ。」
訊くまでもないことだったかもしれない。でも、こんな膠着をいつまでも続けていたいものでもなく、やはり、何なりかの会話を持ちたかった。
「正直、葬儀のことまで考えてはいませんでした。ただ、お館様は、お付き合いしている親戚もなさそうですし、それほど人との交わりがなかった方ですから、この家の者だけで済ませてもいいのではありませんか。」
「あなたのことだから、私がそうするとあらかじめ算段していたのでしょう。」
この令室の問いには、否定できない向きがあった。もちろん、そうされるとの確信を持っていた訳ではなかったが、かなりの可能性はあるものと考えていた。
「次第によってはそうする、と思っていました。」
「さすがね。そこまで考えが及んでいたとは。」
こんな皮肉としか思えない感心に、これからも続く、二人の、そのお互いに心を開かない関係に、想いを馳せた。だから、この惰性で、夫婦になることは、御免こうむりたかった。一方で、この怠惰な関係が、そう続けられるとも考えなかった。漫然と、いつかは解消されるものだと、踏んでいた。私の空想では、今後、令室には、縁談が、持ち上がるだろうし、その気位に見合う地位の方と結ばれるのなら、そっちを選ぶのは、目に見えていた。そうなったとき、私は、一抹な寂しさを懐くのであろうか。ただ、きっと嘯いてせいせいしたとの態度をとるのかもしれない。
「本来なら、どうして夫を殺したのって、訊ねるものよね。」
「だと思います。けれど…。」
「けれど…。」
つい、口をついてしまった。だが、取り繕うことはやめておこう。




