天女 第82回連載
『何かいいお考えでもお持ちでいた。』
その令室の物言いが、妙にもたげた。正直、葬儀のことなど何も考えなかった。何せ、お館様の遺骸を燃やしたのは、死因が不明になればとの想いからだった。
「いえ、何も。」
ここは、誇張などせず、むしろ、戸惑いを感じさせる物言いをすることにした。令室は、明らかに何かを勘ぐろうとしていた。
「でも、おかしくない。夫は、何処で感染したというの。このところは、家にいることの方が多かった様に思えるし。」
「廓にでも行ったのではありませんか。」
「もちろん、その線は無きにしも非ず、だけど。でもそうだったら、廓での感染拡大が生じているはずよ。」
なぜ、私に訊くのか。でも、無気になってはならない。だから、平静を装い、淡々と「その事情は、存じません」と述べた。
「確かに、あのお医者さんから、夫の遺骸を燃やしてくれたと聞いたときは、正直、手間が省けて助かると。このまま、公にせず、密葬でも執り行おうかと考えたわ。でも、あなたは、私が、そうするなんていう、算段はなかったのね。やはり、私の協力が必要なんじゃない。」
「私に、どんな協力をなさると。」
「最初、医者と会ったとき、正直分からなかった。ほんと、騙されるところだった。でも、何かの加減で、その手に、触れたとき、あなただって分かったわ。上手く変装したわね。しかも、殺人を犯す何て。大胆よね。」
確かに、あのとき、令室の手に触れた。そう診断書を手渡したときに。そのときの令室の、苦笑とも取れる笑み。やはり、合点したのだろう。不可解である一連の出来事が、医師に扮した私によるものだということを。でも、お館様への蛮行を、いわゆる完全犯罪となすためには、役場で、お館様の死亡届が受理されなければならない。もちろん、令室のいう協力の、意味するところは不確かであったが、死亡の届出においては、一役買ってもらった方がいいかと考えた。




