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天女  作者: 南清璽
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天女 第8回連鎖

 確かに、ある種、無償の行いだった。だが、ここに高貴な動機があったのだろうか。敢えて、無償としたのは、昇華させる意味を持たすためだった。そう、あくまで無償の行いだったと。一方、臆面もなく、この昇華という言葉を使うこと自体、いわば自己陶酔であり、その先々のことを暗に示す感があったと今になっては省みれるのだった。もちろん、全く自失していない訳ではなかった。さらには、ややもすれば、実体のないものにすがろうとするかの、あのありがちな趣きではないし、ましてや自惚れとも違ってた。それは選民思想に近いもので、頼れる異性は私の他はなく、いわば、令嬢にとって無害な存在に過ぎないだけだ。

 淡い恋心。もし、そういったものであったなら殊に説明など要しない。むしろ、興味心から、あるいは、スリリングな体験を求めたとも云うべきであろうか。私は、たちまちのうちにある筋書きを創り出していた。そう、令嬢がこのお屋敷を出ることについて。

 事の発端については、梗概を述べればいいのであろうか。令嬢には許婚者がいた。聞くところによると資産家の御曹司とのことだった。でも、乙女として、恋もしてみたい。その折は、想いを寄せる人はいなかったにせよ。そういった処だった。だから、その許婚者との婚儀を受け入れられるはずがなかった。そんな心持ちを私に打ち明けたのだった。

 それに、女子高等師範学校に進学を望んでいらした。まだまだ学びたい、そんな令嬢の心情にも私には肯うべきものがあった。でも、そんな話の最中であるにもかかわらず、理知的な処が覗いしれた。はにかみ内気な仕草を取るのが常だった。その一方では、怜悧な面を持っていた。でも、それは、いささかその内気とそのあどけなさのためか屈折していた。

「この家を出て、どちらかに身を潜めるのはどうでしょうか。」

私が、こういった提案を施したのも、令嬢の心持ちを忖度した結果だった。ただ、冷静に思い直してみると杜撰さは否めなかった。これで縁談が破断になればとの想いからだったが、これが思惑通りになるとの確証はなかった。目論見は、こうだった。令嬢が出奔し、それが、社交界で噂され尾ひれが付き、醜聞となり、許嫁の耳に達したらというものだった。私は、社交界との人脈といえないまでも、あ種の繋がりといえるものさえなかった。もっとも、そういったものと繋がった者との知己はあった。ここで”そういったもの”としたのは、その者が、社交界というより、むしろ、その暗部といえるものに知悉していたからだ。


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