表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天女  作者: 南清璽
76/112

天女 第76回連載

「ご無沙汰致しておりました。」

 こんな具合に、形式的な挨拶をした。笑みを浮かべ、懐かしそうにするなど出来る次第ではなく、わだかまりがあるばかりに、全面的に再会を喜んでいない程を示してしまった。

「あの時以来ですね。」

 そう、ご新造様が述べたとおり、父君からピアノの教師の職を解かれたとき以来だった。丁度、ご新造様に縁談が持ち上がり、それから逃げ出そうと出奔を企てたものの、伯爵様に露見してしまった。

「立話もなんですし、何処かで甘いものでも戴きながらお話し致しません。甘いもの、大丈夫でしたね。」

「ええ。」

 何故か、甘いものが、好物だとは云えなかった。くだらない自負。そう。ご婦人の前では、こんな具合に、意地を張ってしまった。だが、自負というには単にこじつけに過ぎない感があるのも、承知していた。それにしても、甘いものを好んでいたことを知られていた、そんな細部を観察されていたことに感心する次第となっていた。

「そういったお店も、近ごろでは営業できる様になったのですね。」

「ええ、そうよ。この近くにございますのよ。」

 それよりも気になるのは伴する者がいないことだった。

「お一人で芝居を。」

「そうですわ。とうにそんな身分で無くなりました。」

 正直この返答には、戸惑うばかりだ。だが、その事情を容易く察せられるものではなかった。

 ご新造様が、これから案内される甘味処までの道すがら、会話をしない訳にもいかず、されど不用意に、そういうことを尋ねてしまったものだと悔いた。

「歩きながらでは、なんでしょうし。お店に着いてからお話いたしません。」

「然りですね。」

 私は、こういったある種の気まずさが訪れた際、愛想笑いをする。そうしつつ、思い起こしてしまった。令室の感情を害し、折檻をされたものだと。

「ほら、あそこに見えて来ました。」

 でも、ご新造様が指さされた場所は、看板も暖簾も挙げていない処だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ