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天女  作者: 南清璽
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天女 第72回連載

 だが、こうして、令室を診察室に招きいれると、何から話そうかと迷う仕儀となってしまった。しかも、自身が変装を施していることを悟られないためにも、抑揚を押さえた物言いを心がける必要かあった。これは、芝居じみた言い回しを避けようとの想いからだ。

「お気の毒ですが、ご主人は、亡くなられました。医師は病人を診ることはできても、死人を甦らせる術は、学んでおりません。あの若い方が、此処に連れてきた時点では、内臓の壊死が、あちらこちらで起こっていたと思われます。細菌あるいはウィルスによって、敗血症に似た症状に陥ったのでしょう。もう手の施しようがなかった状態でした。ただ、空気感染するものなら恐ろしいものだと思い、医師の判断として、此処で荼毘に付しました。亡骸は此処の焼却炉の前に埋めました。なんなら、其処をご覧になりますか。」

「必要ございません。いろいろと煩わせました。ところで、連れて来た若い男性は、どこでしょうか。」

 令室は、どうやら私のことが気になっている様だ。確かに、今、眼前で話をしている医師が、変装を施している、その男だとは思わないだろう。

「そちらには戻ってはないですか。」

「ええ。」

「その御仁からは、何も伺ってはいませんが。」

「然様ですか。」

 物憂げな表情を浮かばせていた。手管だろうか。私は、敢えてそう捉えようとした。この状況にあって。変装を施しているというのに。やはり、愛おしさを抱いているから、かえって、そう捉えようとしているのだろうか。だが、こういった感慨は、まだ、すべきことがあるため、なるべく早く終わらさせたかった。

「こちらが死亡診断書です。役場で、死亡届を出すのにいりますもので。」

 診断書を入れた封筒を、令室に渡そうとしたら、つい、その指に触れてしまった。

「ありがとうございます。家の者に、尋ねながら、手続きを行います。ご親切にありがとうございます。ところで、こちらのお代は。」

「必要ありません。医学的な措置は何も執っていないものですから。ただ、ご主人を荼毘に付すのに、少々労を要しましたが。」

 令室は、医者に変装した、この私の物言いに苦笑してみせた。

「今回は、ご厚意に甘えることにいたしますわ。それでは、ご免あそばせ。」

 令室は、何か合点がいった様に此処を去った。あの苦笑としか取れない笑みに、それが、潜んでいるかの様だった。




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