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天女  作者: 南清璽
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天女 第7回連載

「何を考えていたの。あの御令嬢のこと?」

 聴くまでもないことだった。この曖昧で、静寂ともいえるものを嫌い令室は、こう聞いたのだろう。しかし、私もそこにある種の皮肉を交えることは怠らない。

「そうですとも。外に考えられます?」

 こう言葉を発してみた。陰湿さを醸す様に。でも、これしきのことで嫉妬を顕にする御仁ではなかった。現に、彼女も平静を装っている。これは、取りも直さず、私からの挑発であると看破されている証査だった。もっとも、この装っているというのは、私の意味づけに過ぎない。全く確信の持てないものでもないにしろ。きっと、令室も御令嬢のことを意識しているし、その言葉そのものからもう、それは十分に窺えた。つまりは、私に、令嬢のことが未だにもたげていることが。

 無為に過ぎゆく時間。この空間は、嫌うものでもない。むしろ、こういった具合に不作為のまま、いわば、だべっているような過ごし方になるのでは、と考えていた。しかし、この場の、令室の肉体が横臥するこの臥床においては、予期に反する次第になっていくのだった。といようか、むしろ、いつものとおりの反芻される現象に沿うことになろうとしている、とした方が正確なのであろうが。事実、いつものことながら、令室は、その手で、我が頭を自身の胸へと引き寄せるのだった。そうして、我が口を令室の乳首にあてがうのだった。

 その後の事が自然の成り行きだったといえる様なものだっただろうか。作為を施していた。まるで、貪る様に弄んでいた。やはり、ある意味、これは、不感症を求めるという我が心情にあっては、乖離と目すべきものだし、そうした矛盾に気付く。そういった有様を予期に反してといいつつ、令室と自分の間では実に反芻されている事柄だということが。

 無意味な反問だった。有体に申そう。受容できない向きにあった。この乖離せられる状況が。もちろん、こうした営みを、男の性によるものだと、いわば、開き直り、そういったものに過ぎないと、言ってしまえるものであるのは、確かだ。しかし、いとも簡単にそうはできない何ていう未練も感じていた。それどころか、今や、反芻するものでありながら、予期に反すると思えるところが、実体として正しいのだと感じているのだった。


―これって、自己性愛じゃないか―


  だからといって蔑むこともできなかった。だが、潜在的にでも諧謔を感じてもしかりなのに。もちろん、主知的な見方をしているつもりでもあったが、やはり、不安は拭えない。こうした自己性愛が、破滅型へと向かう危険性を孕んでいることが、おうおうにあるからだ。

 そうした、思考は、新たな考えも呼び覚ますものだった。もちろん、自覚できていた。令室と情を交わることが、いわば、頽廃に類するものであることを。でも、単に受容では、押し留まらない、耽溺をひたすら求めようとする、この身への不安を伴いつつも。

 この夜、想いが逡巡するものの、一定の睡眠に陥ったのは確かだ。しとやかな表情で令室は添寝していた。微かな寝息をしつつ。


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