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天女  作者: 南清璽
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天女 第69回連載

 あのとき、そう、私が病を装い、運転手と共に、この診療所に訪れた日に購入した、あのガソリンの一斗缶を倉庫から持ち出した。そうして、納体袋の上に被せた毛布に散布する。ガソリンは、毛布へ染み込んでいく。その様子を見ながら、どことなく気持ちが高揚しているのが分かった。この段に達しているのだという想いがそうさせているのである。そう、終着へ辿りつつあるのだという。やはり、それは頓狂だろうか。なぜなら次に行う着火は慎重に行う必要があるからだ。その際は、自身へ引火しない様にしなければならない。私は、遺体を置いた穴から半間ほど離れた。そうして、足元に置いていた新聞紙の何枚か折って、更に捻り、棒状にした。マッチをすり、その新聞紙の先端に火を点けた。そして、遺体迄の距離を十二分に測り、それを投げ入れた。

 予想以上の音だった。その火を投げ入れた際の音だ。轟音とはいかないまでも、かなりの音がした。だが、かえって覚醒させるものでもあった。この目の前にある光景を夢うつつではないのだという。それにしても、どれほどの時間がかかるのだろうか?燃え盛る炎を見つつ、早くその遺骸を焼き尽くして欲しいと思った。だが、一方で、今度は、随分なことを犯したものだと考える次第になっていた。この一件を正義の殺人などとは思わなかった。ただ、良心が咎め、それによる自制が働かなかっただけだ。だが、それが、どれほどの矛盾を孕んだものか。

 揺らめく炎を眺めながら、異様な臭いを感じた。もう少し風があれば、霧散するのだろうが。だが、考え様によっては、火は遺体へと燃え移っていったのだともいえる。ただ、端から火葬場での様な、完全に燃えるとまでは思っていない。なるべく痕跡を残さないためなのだ。火が収まったら、その亡骸の上に土を被せるつもりだった。もちろん、何かの拍子で、ここが掘られ、その遺骨が見つかることがあるかもしれない。私には、現代の法医学や鑑識で、遺骨のみで、それが誰のものか、特定できるかは分からなかった。決して、たかをくくろうという趣旨ではないが。そうそう特定されるまいという想いもしていた。なるべく、此処が掘り起こされないことを願うばかりだ。


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