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天女  作者: 南清璽
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天女 第68回連載(荼毘)

 エンジン音が消えたというのに。私は、しばらく玄関前に残った。これも用心深さから来たものというより、意味なく佇んでしまったと云う感があった。日の出にはまだまだ時間がありそうだ。ただ、こんな感慨に浸っているのもどうかしている。やはり、刻限を設けるべきだったか。例えば、何時以降にという具合に。そうすれば、時間に追われ、あたふたと必要な作業を行えたかもしれない。もっとも、令室なら、きっと、半日以上空けて来るのに違いない。元来、待たされるのを極端に嫌う処があり、死亡診断書を受け取れば、お館様の死因や臨終の様子などに何らの関心を示さないことは察しがついていたからだ。

 しかし、いつまでも、無為に時間を過ごす訳には行かない。それも、お館様の遺骸を燃やさなければならないからだ。そういえば、新聞紙が、この診療所に残されていたはず。確か、庭の倉庫だった。私は、其処から新聞紙を取り出し、先日掘った穴に敷くことにした。だが、問題はこれからだった。お館様の遺骸を其処に運ばなければならない。たとえ、ひと気の少ないこの場所であっても、遺骸を引き摺る姿を見られでもしたら、やはり、訝しがられるだろう。遺骸を納める納体袋があれば、そうするのだが。この診療所には、置かれていないものか。あればいいという期待と、所詮は、探しても見つからないという思いが拮抗していた。私は、寝具を置いているような棚、物入れをを物色した。丁度、廊下の奥に物置部屋とも思える扉を見つけた。それを開けると、思いの通りだった。こもった匂いが解き放たれる。だが、それは一瞬で、すぐに霧消した。こんな体験は誰にでもあることだろう。だが、不思議と子どもの時分の思い出へと誘うのだった。そうだった。悪戯ともいえない仕儀で、よく診療所の物置きの扉を開けて、父に叱られた。

 私は、納体袋らしき物を見つけた。これを使おう。診察室に戻り、横たわったお館様の遺骸を寝台から抱え、納体袋に納めた。で、どうしよう。やはり、その背に負うのがいいだろう。硬直の始まった身体。背負い投げの様な態勢を取り、負ぶった。何とかこの背に載った。こうして、先だって掘ったその穴へと運んだ。まずは、掘ったその穴に新聞紙を敷こう。それから毛布も。そう、屋敷からこの診療所に来るまでにお館様の遺骸に被せたそれを。納体袋を、敷かれた新聞紙の上に置き、その上に毛布を被せた。あとは、この毛布にガソリンを撒き、含ませるだけだ。


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