天女 第67回連載
含み綿、鬘、伊達メガネ、そうだった、ワイシャツも。私は変装用の品々をそろえた。場合によっては、令室に会うこともありえた。あの運転手なら容易く騙すことは可能だろうが、令室なら、私の着ているワイシャツ一つからでも、変装を施していると看破するかもしれない。誰もが見過ごす細部。令室は、それすら見過ごさない。ふとした気の緩みから、墓穴を掘ってしまうことは大いにありえた。
「お待たせしました。その御仁の身体を渡してもらえませんか。そうそう、その毛布は被せたままにしておいて。おおよそのことは、あの男性から聴きました。」
私は、お館様の遺骸を運転手から貰い受け、更に続けて述べた。
「あの男性も、感染の危険性があり、こちらで十分な消毒を施そうかと考えておる。少し、そちらでお待ちくだされ。」
その貰い受けた遺骸を診療所の中に運び、診察室の寝台に横たえた。そうして、再度、運転手の元へと行った。
「あいにくだが、こときれているよ。ただ、死体の細菌による損傷もかなりのものじゃ。だから、亡骸は、此処で焼燬しようと思っておる。このままでは、細菌が増殖し、更に、感染の危険性が高まるものでな。あの男性は、私の手でなんとか消毒しようかと思ってる。でもあんたまでとなると少々手がかかる。悪いがそのまま屋敷に帰って、その着ている衣服を洗う、あるいは天日干しにしたらいい。あなたは、お風呂に入って体中をきれいに洗うことだ。潜伏期間は一週間ないし十日だから、それまでに、体に何らの変調をきたさなければ、大丈夫じゃよ。でも、一見した様子では、大丈夫そうだし、あの男性の説明からすると、さほど心配するほどでもないと、思っている。」
私は、こんな風に述べたのも、この運転手が、何処かの医者に掛からないかを懸念した。
「遺体は、私の方で荼毘に付すと申し上げたが、これにはいくぶんかの時間がかかる。半日ほどしてから、またこちらの診療所にどなたかいらしてくださいますかな。死亡診断書をお渡しするものでな。」
運転手は戸惑いの表情を見せた。私の述べた言葉を一応は理解したものの、あまりに急な展開だったから、それを呑み込めずにいる、そんな様子がうかがわれた




