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天女  作者: 南清璽
64/112

天女 第64回連載

 不気味な笑みをお館様に向けた。

「どうした。」

 どうやらそんな私の不気味な様子に、気を取られたらしい。私は、視線をそのままお館様の顔に向けながら、みぞおちの辺りに一撃を見舞った。当のお館様はまさかこんなことをされるとは思っていなかったし、まさに不意打ちであったため奏功した様で、その場に崩れ落ちた。想いのとおりだった。ここで、上着のポケットから例のピアノ線を取り出した。

 まだ、当の御仁は朦朧としている様だ。そうなれば容易い仕儀だ。その頸部にピアノ線を巻きつけ、締め上げた。

 情け容赦なく。その意味をこの状況で悟れた様に思えた。憎しみを懐く訳でもないこの御仁に狼藉を働かせている。既に手の感触には、ピアノ線が、頸部に食い込んでゆくものがあった。脳に血が流れていない状況は相当なものだろう。みるみるうちに顔面が蒼白になっていく。もう、絶命は寸前の処にある。この苦悶の表情。だが、この段になって、いつもの様にお館様への蔑みの感情が始まっていた。でも、どうして憐れみを感じないのだろうか。私は、この企を図っていた最中にある種の懸念が生じていた。お館様に何らかの憐れみを感じ、犯行を中止するのではという。それは、主としての敬いを垣間見れるということか。だが、現に、苦しそうにしているお館様への蔑みであり、この身に酷む残忍な一面だった。

 きっと最期の力を振り絞ろうとしていたのだろう。お館様は、その目で私を見ようとしていた。その目で何かを伝えようというのか。私の顔を拝んでもらうことを拒むなんて、それは滑稽なことなのだろうが、ここで力を弛めるのを躊躇われてしまったのも事実だった。手足をバタバタさせながら、もがき苦しみ、絶命するのかと予想していたが、そうとはならなかった。だが、かえってこの状況によって、屍の人への憐れみの情が湧いてくるという次第へ陥った。だが、感傷に浸っていられなかった。私は臥床にあった毛布を取って、その遺骸の頭から被せた。そうしてそれを抱えながら、あるいは引きずって、部屋の扉へと進んだ。

「誰か。」

 私は、扉を開けるやそう叫んだ。

 


 


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