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天女  作者: 南清璽
62/112

天女 第62回連載


 こんな風に、そのお館様の物言いに距離を取り、蔑んだ処で、歴としてある、この感傷を覚える状況に抗うことはできなかった。だが、流石にお館様もこの様な沈黙は嫌い、

「お前死にたいと思ったことはなかったか。」

と訊ねてきた。

「幸いにもそういうことはなかったですが。」

 だが、真摯な態度を示せず、いつもの如くはぐらかしてしまった。やはり、自ら命を絶つ、そんな恐ろしいことはできないというのが正直なところだった。もちろん、厭世観に苛まれることはなかったが、たとえ、そうなったとしても死ぬ勇気がないから、自死を選択することはあり得なかった。だが、一方でお館様が、如何なる所以で厭世観に陥るのか知りたくもあった。だが、そう思いつつも、どう訊ねようかと思案する次第ともなった。むしろ、興味を示さない方が賢明であるかもしれない。そうなのである。無関心を装う方が、筋書きの展開が意外なものへと移っていくそんな期待があったからだ。だが、それはそれで、やはりあぐねる結果となった。お館様は、そんな私をじれったく思ったのかもしれない。

「昼間あの女と何を話していた。」

と訊ねるのだった。

「私自身のことを語りました。お館様のお世話になる所以を。Kから聞き及んでいらっしゃるでしょう。私が伯爵家で何をしでかしたか。」

「聞いたと思うが、そんなこと忘れた。」

 無頓着な様子に窺えた。そうして、これが作為的に為していることか否かが、気になってもした。この次第では、「そんなところでしょうが。」こういう他はなかった。

「他に何か話したのか。」

 お館様は更に訊ねてきた。そういえば、御令室との情事について天女から訊ねられた。そんなことを思い出していた。

「あの女性から、御令室とのことを訊かれました。」

「それでどうした。」

「どうもないですよ。そういった関係だと教えましたよ。」

「あいつは、お前と同じだ。俺のこと敬うどころか馬鹿にしている。妻であるのに俺と契るの拒みやがった。でも、構わんさ。お前をこうしてあてがって、あいつはそれに満足している。お蔭で廓通いも認めてくれた。ありがたいことだ。」


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