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天女  作者: 南清璽
60/112

天女 第60回連載

 どうして気づかなかったのだろうか。自身に思い及ばなかった仕儀を顧みていた。実は、お館様は、今日に限って、その目計頭巾を付けていなかったのだ。思い返せば、お館様の素顔を見たことがなかった。だが、その素顔は、自己の空想のものとの差異は少なかった。しかし、これほどまでにと思う反面、どことなく自身が日頃懐いていたお館様への侮蔑が、そうさせたのだろうという奇妙な合点も得ていた。更に殊冷静に見るのなら、やはり、頭巾を付けていなくても、その目にの浮かばさせる表情から、その心持ちを測らなければならない点に相違はなかった。やはり、顔全体からの表情というものが、その顔に覆われた痘痕によって失われてしまったのかもしれない。

「さっきから何も言わないじゃないか。」

 お館様にどの様に説明するか悩ましかった。だが、この段になって取り繕う必要もないという想いあもあって、此処は有り体に話そうと思った。

「今日に限って、頭巾を脱いでいらっしゃったのですね。」

 そんな私の問いかけには一顧だにしないのではと思っていたが、お館様は、その予想に反し、「どうだ。やはり気持ち悪いか。」と述べるのだった。思えば、一顧だにしないなどおおよそあり得ないことなのに、こういう事態になると、そう考えた自分に嘲りを感じるほかはなかった。だが、悩ましいもので、もちろん感情として、お館様の述べ様は、否定できない訳ではなかった。だが、一方で、痘痕顔に陥ったお館様の苦悩に思いが及んでいたし、その物言いが、同情を請う安っぽいものではなく、むしろ、諦観に近いものがあったのではと思えてきたのだった。

 でも、これからお館様に行おうとしていることをに鑑みれば、取り繕うことがどれほどの意味があるものなのかと思えてきた。だから、「正直、見るには辛いものがありますよ。」と述べてはみた。だが、それではまだ自身の心情として補わなければならないものがあるのも確かで、「きっと辛い想いもされたのだと存じます。」と付言した。私は、そういったふうにして慮ったのだ。これは全くの自身の心情であった。


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