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天女  作者: 南清璽
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天女 第6回連載

「思い出していたのね。」


 ーそうか。ー


 心裡においてこう呟いていた。そうして,顧みて気付いたのが、令室の,はだけた寝衣の胸元に視線を落としていたことだった。シルクのきめ細かい艶とそれにも劣らないきめ細かい肌の持主であることが、なぜか、感じ入る仕儀となってしまった。あのときの令嬢の様に薄笑みを浮かべていた。それが、男性の好奇な視線を受容するかの様だった。

 だが、それ以上に不覚だったのは、あの晩の催しで、伯爵家令嬢のデコルテを見入っていたことを告解してしまったことだったかもしれない。そうせずに済んだのに違いなかっただけに。そう成った所以は、過日の出来事、つまりは、伯爵令嬢の出奔における事柄への回顧という事象以上に、一つの感傷めいたものを伴っていたからだろうが、更に想うと、やはり、その折の、ご令嬢の対応、翻意に俄然としないむきにあったことが、幾分か心にも占めていたのも事実だ。しかも,この場においても、同様な、気恥ずかしくなる様な思い出みたいに感傷めいたものが、心境として、帯びてくるのだった。他方,令室に対しては,不感症でいようとするものの,臥所を共にし,傍らに横臥する段になると愛おしさを感じていた。いや,むしろ,感じていたのは,ある種の母性であったかもしれない。認めたくもないが、心持ちとして、そうであった。

 悦に浸れたのか。令室の微笑、不敵さを滲ませてのそれを見るにつけ,かえって,自身は、平静なる装いを作為的に施した。そうすることで、今度は,自身が悦に浸れた。なるほど令室は物憂げになり,あの毒々しい様は失せる。

 こういった一面は、悩ましさが、概して、つきまとうもので、やはり、冷たい素振りでいるべきか、そんな想いが逡巡する。一方、そういった安直さ、そう、割り切るか割り切らないかということに安直さを覚え、そこに無粋さを感じていた。だったら…。だが、どういった所為になろう。下手すると、あのご勘気を蒙り、厄介なことになるかもしれないなどの想いも生じていた。ならば、この状況を維持すべきか。しかし,沈着に省みることもした。そのままにしておけないと思わせる、そうした雰囲気が、漂っていた。一方、こうして物憂げな表情を見せるのは,異性を自分の関心から解き放さない手練に過ぎないことも承知していた。でも,この程度の手練は許される範疇にあるという心持ちもあった。そう、一つの受容として。一方で,ひとかどの優越感にも浸れた。いわば,高みにいるという。しかし,だとしても、愛おしさを感じないということが,全く否定できないことも分かっていた。だが、それを素直に,いうなれば発露とすることもできない。それも、一つの作為として,心理として、これを打ち消そうとしていたからかもしれない。だが,これは誇りに類するというより、どちらかというと、意地であるし、この点は,明確に捉えることができた。


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